2023/5/19

ニュース

  • Facebookでシェア
  • Twitterでツイート
  • noteで書く

【メッセージ&ロング・インタビュー】チョ・ソンジン バーミンガム市交響楽団日本ツアーに向けて②

音楽ライターの高坂はる香さんが、「山田和樹指揮バーミンガム市交響楽団日本ツアー」に出演するチョ・ソンジンにロング・インタビューを行いました。
自分自身の変化についてやパンデミック中にバッハやベートーヴェンを弾いていた話など、興味深い話をたくさんお届けします。

チョ・ソンジン

—ショパンコンクールの後、あえてショパン以外のさまざまな作曲家の録音に取り組み、2021年、久しぶりにまたショパンのアルバムをリリースされました。他の作曲家と向き合ったことで、ショパンへの理解に変化はありましたか?

 解釈を変えたという意識はありませんが、自然と変わっていなくてはいけないだろうとも思います。例えば、ショパンコンクールで演奏したスケルツォ第2番は、今聴くと、自分でもまるで別の人の演奏のように感じます。
 人の顔のようなものですね。毎日鏡を見ていると歳をとったことに気づかないけれど、時々しか見ない他人にはわかります。
 ステージでの経験が増えたことで、より自由になり、自分の考えや解釈をどのように聴き手に伝えたらいいのかわかってきたところはあるかもしれません。舞台上では常に緊張していますが、今はその状態でも考えを伝える方法がわかってきました。

—ピアノ協奏曲のようなショパンの若い頃の作品には、どんな印象がありますか?

 とてもフレッシュです。例えば「幻想ポロネーズ」や後期のノクターンはとても複雑で、ショパンが本当に言いたかったことを聞き取るのは簡単ではありません。でも若い頃の作品からは、彼が伝えようとしたことがクリアに聞こえてきます。
 演奏スタイルについてはいくつかの見解があると思います。ロマンティックに解釈すべきだという意見もありますが、今のところ、僕はそれにかたよるべきではないと思っています。もちろんロマンティックな要素はありますが、同時に純粋さが保たれなくてはならず、安っぽい表現にならないよう注意する必要があります。

—ソンジンさんも、ショパンがこの曲を書いた時より年上になりましたね。

そうですね、だからこそいつもフレッシュな気持ちを持つように努力しています。

—純粋な心を取り戻さないといけませんよね。ソンジンさんが失っているという意味ではありませんが。

 いや、失ってるかもしれない(笑)。その意味で、これから何度もこの作品を弾き続けて、僕が60歳、70歳になったときどうなるかは、想像するとおもしろいですね。今とはまったく違う解釈で演奏するようになっていて、めいっぱいロマンティックで派手に弾くべきだと言い出しているかもしれません。音楽には答えがありませんから、それもひとつのあり方でしょう。
 ショパンは早く亡くなっていますし、もし彼自身が60歳や70歳まで生きていたら、作曲のスタイルも大きく変化していた可能性があります。シューベルトやモーツァルトにもいえることですが、これだけは誰にもわかりません。

—世界のさまざまなオーケストラと共演されていますが、初共演を成功させる秘訣はありますか?

 オーケストラも重要ですが、もっと大切なのは指揮者との関係です。特にショパンの協奏曲では、指揮者がとても緊張していると感じることがよくあります。ルバートが多いから、とてもトリッキーで難しいのだそうです。そのためシンプルに見えますが、タイミングなどについて十分話し合う時間を取る必要があります。

—ソンジンさん自身も、ショパンの協奏曲は何度弾いても緊張するとおっしゃっていましたよね?

 そうなんです、だから二人とも緊張していることが多くて、大変ですよ(笑)。

—コロナ禍のロックダウン中には、バッハを弾いていたとおっしゃっていました。それによって何か新しい発見はありましたか?

 パルティータ全曲、イギリス組曲全曲などを、ステージで弾く日がいつくるのかはわからないけれど、ただ通して弾いていました。ベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」も自分の楽しみのために弾きました。アマチュアピアニストのような心境ですね。
 何かを学ぼうとか解釈に役立てようと考えて弾いていたわけではないので、知らぬ間に演奏に影響するところがあったかもしれませんが、自分では意識していません。

—今はピアニストとしての忙しい生活が戻りました。向こう半年間のソンジンさんのコンサートスケジュールは、プログラムも多彩ですごいですよね。

 そうなんですか?(笑)。とにかくリアルライフが戻ったという感じはあります。パンデミックは辛いものでしたが、多くのことを考え、リフレッシュできるいい時間でもあったと今は思います。

—ソンジンさんの演奏はテクニック的にも安定していて、聴いていて安心感があり、またそのテクニックがあるから頭の中にある音楽を自由に表現できるのだろうと感じます。ピアノを真剣に勉強し始めたのは11歳と早いほうでないなか、そのテクニックはどうやって身につけたのでしょうか? 

 僕のテクニックはすごくありませんよ! OKというくらいじゃないでしょうか。

—それだけ弾けてそんなふうにいうと、他のピアニストから嫌われますよ(笑)。

 ……もしテクニックが優れているように聞こえるなら、それは多分、コンサートで弾いているピアノが良いからだと思います。そもそも、僕は自分ができること、できないことがわかっているので、テクニック上、今の自分には無理があると感じる作品は弾きません。

—それでは最後の質問です。世界ではパンデミックや戦争などいろいろな困難も起きますが、その都度、芸術や音楽の存在とは何かという問いが持ちあがると思います。ソンジンさんは、社会の中で音楽家としてどのような存在でありたいと思っていますか?

 僕の意見に反対する人もいると思うし、もしかしたら良い生き方でないのかもしれませんが、実はここ数ヶ月、世界で起きていることを積極的にフォローしないことにしています。もちろんニュースで大きな出来事の情報は得ていますけれど、自分から深く追っていくことはしていません。音楽界で何が起こっているのかも、もちろん知りません。なぜなら、そのほうが精神衛生上いいからです。
 困難な今の時代、悲しいこともたくさん起きますが、自分に何ができるのか、正直わかりません。そんな中でただ僕がすべきことは、聴いてくれる誰かのため、そして自分のために演奏することです。そして良い演奏をするためには、自分自身をケアし、大切にしなくてはいけません。情報をあえて追わないのは、そういう理由です。
 自分が世の中に何を届けられるのかはわからないけれど、願わくば、僕のコンサートに来てくれた方、音楽を聴いてくれた方が、心に触れるものを感じたり、何かを考えたりして、満足感を得てくれたらと思います。
 誰かの気持ちをコントロールすることなど不可能です。僕にできるのは、ただベストを尽くし、良いパフォーマンスをすることだけなのです。

高坂はる香(音楽ライター)


山田和樹指揮 バーミンガム市交響楽団
≪公演情報≫
山田和樹指揮 バーミンガム市交響楽団
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2011/

<日本公演日程および詳細> ソリスト★樫本大進 ◎チョ・ソンジン
6月23日(金)19:00 熊本県立劇場 ★
 ブラームス:ヴァイオリン協奏曲  [ヴァイオリン] 樫本大進
 エルガー:交響曲 第1番
 問合せ:熊本県立劇場 096-363-2233 
6月24日(土)14:00 兵庫県立芸術文化センター ★
 ブラームス:ヴァイオリン協奏曲  [ヴァイオリン] 樫本大進
 エルガー:交響曲 第1番
 問合せ:芸術文化センターチケットオフィス:0798-68-0255
6月25日(日) 14:00開演 横浜みなとみらいホール
 ブラームス:ヴァイオリン協奏曲  [ヴァイオリン] 樫本大進
 ラフマニノフ:交響曲 第2番
 問合せ:神奈川芸術協会(045)453-5080
6月27日(火)19:00 石川県立音楽堂 ★
 ブラームス:ヴァイオリン協奏曲  [ヴァイオリン] 樫本大進
 エルガー:交響曲 第1番
 問合せ:北國新聞読者サービスセンター076-260-8000
6月28日(水)19:00 文京シビックホール ◎
 ショパン:ピアノ協奏曲 第2番 [ピアノ] チョ・ソンジン
 ラフマニノフ:交響曲第2番
 シビックチケット TEL:03-5803-1111
6月29日(木) 19:00開演 サントリーホール
 ショパン:ピアノ協奏曲 第2番 [ピアノ] チョ・ソンジン
 エルガー:交響曲 第1番
 ジャパン・アーツぴあ TEL:0570-00-1212
 特別協賛:ローム株式会社
6月30日(金) 19:00開演 サントリーホール
 ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 [ヴァイオリン] 樫本大進
 ラフマニノフ:交響曲 第2番
 ジャパン・アーツぴあ TEL:0570-00-1212
 特別協賛:ローム株式会社
7月1日(土)15:00 愛知県芸術劇場 ◎
 ショパン:ピアノ協奏曲 第2番 [ピアノ] チョ・ソンジン
 ラフマニノフ:交響曲 第2番
 CBCテレビ事業部 TEL:052-241-8118


◆山田和樹のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/kazukiyamada/
◆樫本大進のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/daishinkashimoto/
◆チョ・ソンジンのアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/seongjincho/
◆バーミンガム市交響楽団のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/birminghamsymphony/

ページ上部へ