2022/10/13

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ナタリー・デセイが語る、現在のわたし(インタビュー前半)

ナタリー・デセイ (ソプラノ) & フィリップ・カサール (ピアノ)

ナタリー・デセイが語る、現在のわたし (インタビュー前半)
“俳優であり、歌手でもあるというのは、とても素敵なこと”

取材・文:三光洋

観る人だれもが惹きこまれてしまう、抜群の演技力で、私たちを魅了してきたナタリー・デセイ。
いま主に俳優として活動するデセイは、11月の来日リサイタルで、オペラの様々な役柄を演じてくれます。今回、パリでの舞台リハーサルの合間をぬい、インタビューに応えてくれました。
前半と後半の2回に分けてお届けします。

三光氏 S) ナタリーさんは最初コロラトゥーラ、次はよりドラマティックな役、次いで歌曲とシャンソン、ミュージカル、そしてもう一度オペラの世界に立ち返られました。こうして40年近い年月に、実に多くのジャンルに触れられることになりました。歌曲のジャンルではフランス歌曲だけでなく、ドイツ・リートも歌っておられますね。先日はシューベルトの歌曲を歌われました。

デセイ D)シューベルティアードに参加して、シューベルトの7作品を歌いました。私の好きなピアニストのフィリップ・カサールとの共演です。彼との演奏会は10年以上前から行っていて、来年の1月に100回目を迎えます。シューベルティアードの前には、アルマ・マーラー、クララ・シューマン、ファニー・メンデルスゾーンを中心とした「歌曲の夕べのコンサート」も開きました。

S ここ数年、娘さんとミュージカルをいっしょに歌っていますね。

D ええ。ミュージカルは、クラシック音楽とは全く別のテクニックを使うので、どの様に歌ったらよいかから学びました。オペラで使う声ではなく、胸声を使い、いかに喉を締めるかを練習しました。オペラ歌唱と正反対のことをしなければならないのです。私にとっては大変むずかしい練習で、まるでパソコンのプログラムを完全に修正するようなものでした。
 もし、人生をやり直せるのなら、ミュージカルとシャンソンの歌手になりたかったですね。
オペラはもちろん大好きですが、現代社会を音楽で表現しているのはミュージカルだと思うからです。ミュージカルがモダンなのに対して、オペラは主に過去の表現ですね。現代オペラはしばしば歌手にとっても観客にとっても難し過ぎますが、それは残念なことと思っています。
また、私はジャズのファンでもあります。音楽が簡単ならいいとは思いませんが…。自分を作品の中に見出せないことには、歌いたいという気持ちにはなりません。現代作曲家では、フィリップ・ブスマンス、アルヴォ・ペルト、カイヤ・サーリヤホのオペラは、比較的近づきやすいように感じます。

ナタリー・デセイ

S オペラ、現代音楽、ミュージカルの観客はそれぞれ違います。

D その通りですが、残念なことだと思いますね。私はジャンルを問わずに音楽を聞きに行きます。全てのことに興味があるのです。今、私はよく演劇を観に行っています。自分が舞台に立っていない時は、他の人が演技するのを見たいからです。
ピアニストのシャニ・ディリュカとも共演し、彼女の「ザ・プルースト・アルバム」に参加しました。(フォーレ:水のほとりで、秘密 を収録)また、彼女がプルーストの生誕150年(2021年)・没後100年(2022年)のプロジェクトを行った際には、プルーストの文章を読みました。
俳優であり、歌手でもあるというのはとても素敵なことです。

S ナタリーさんは、小さい時はクラシック・バレエ、それから演劇、そしてオペラ、シャンソンとリート、そして再び演劇と多くのジャンルに挑戦されてきましたね。

D ボルドーで演劇を学び、俳優として活動していた20歳のときにモーツァルトのオペラ「魔笛」のパミーナのアリアを歌う機会がありました。そしてオペラ歌手に転向しました。
今は演劇の舞台に立つことが多いですね。昨年演じたのは、マリー・ウンディアエの「イルダ(Hilda)」ですが、間もなく再演を予定しています。女中を奴隷にして、それを当然と思っている本当におぞましい女性を演じています。マリー・ウンディアエのもう一つの作品「野良猫の一歩」も演じます。それは、ナダールが撮影したテオフィル・ゴーチエの友人で、「黒いマリブラン」と呼ばれた歌手の、ほとんど資料の残っていない19世紀のマリア・マルティネーズについて論文を書こうとしている女性の大学教授についての作品です。それからジャン・ジュネの「女中たち」にも出演します。また、ローラン・ペリ演出で1年後にゴルドーニ「スミルモのアンプレザリオ」を控えています。ローラン・ペリと私は二人ともオペラと演劇の両方で仕事をしてきました。彼との協働ではたくさん思い出があります。彼の演出で芝居ができることにとても満足しています。

S ご主人でありバス・バリトンのローラン・ナウリさんによる声楽トレーニングのおかげで、ワーグナーのオペラ:トリスタンとイゾルデの<イゾルデの愛の死>も歌えるようになったそうですね?

D 確かに試してみましたが、じつは結果はうまく行きませんでした。新しい曲を歌うと、歌えば歌うほどその曲が好きになるのですが…。あいにくそうではなかったので練習するのをやめました。15歳の時にボルドーオペラで初めて見たオペラが「トリスタンとイゾルデ」でした。
ワーグナーの音楽には美しい箇所はありますが、好きになれませんでした。
私にピッタリくるのは、ユーモアと軽快さを感じるモーツアルト、それからベッリーニ、ヘンデルです。

後半に続く


ナタリー・デセイ&フィリップ・カサール

《公演情報》
ナタリー・デセイ (ソプラノ) & フィリップ・カサール (ピアノ)
日程:2022年11月6日(日) 14:00開演
会場:愛知県芸術劇場 コンサートホール
https://cte.jp/wp_detail/221106/

日程:2022年11月9日(水) 19:00開演
会場:東京オペラシティ コンサートホール
https://www.japanarts.co.jp/concert/p975/


◆ナタリー・デセイのアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/nataliedessay/

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