2022/10/20

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ナタリー・デセイが語る、現在のわたし(インタビュー後半)

ナタリー・デセイ

ナタリー・デセイが語る、現在のわたし (インタビュー後半) 
“家族は私にとって非常に大切なもの、人生の土台です”

取材・文:三光洋

観る人だれもが惹きこまれてしまう、抜群の演技力で、私たちを魅了してきたナタリー・デセイ。 いま主に俳優として活動するデセイは、11月の来日リサイタルで、オペラの様々な役柄を演じてくれます。今回、パリでの舞台リハーサルの合間をぬい、インタビューに応えてくれました。 前半と後半の2回に分けてお届けしています。インタビュー前半はこちら

三光氏 S)ナタリーさんは、フランスのオペラ・コミック(注*)もいくつか歌っておられますね。

デセイ D)現在オペラ・コミック座では、サビーヌ・ドゥヴィエルがドリーブ作曲の「ラクメ」を歌っています。このような優れた曲を積極的に取り上げるべきだと思います。ストーリーが時代遅れ、植民地主義的、といった批判は可能ですが、音楽の良さは否定できません。サビーヌのような優れた歌手がいる以上、今なお舞台で上演し続ける価値があります。

S ナタリーさんが1990年代に歌ったとき、「やっとラクメを歌える歌手が出てきた」とフランスの批評家が喜んでいましたが、その前にはマディ・メスプレの引退後かなり長い期間、その作品を歌う適当な歌手がいませんでした。

Dええ、ある種の技能が必要です。25年前は私。今はサビーヌ。20年経ったら、また別の若い歌手が歌い継いでいくでしょう。

S 1990年代はナタリーさん、ロベルト・アラーニャという若手のスターが登場した時代でした。

D そうでした。あの時期は若いフランス人歌手に対して支援の手が差し伸べられました。突如として、若手歌手が勢いよく舞台に出てきたのです。

S 歌唱は人間の声を楽器としている点で独自の魅力がありますが、ナタリーさんと声との関係は一筋縄では行きませんでしたね。

D 非常な葛藤がありました。声は人間の感情の宿る場所です。どの声域の声でも、トレーニングには時間をかけなければなりません。ただし、テノールやソプラノ・レジェ(軽いソプラノ)といった高音域の歌手は、中低音域の歌手より声がもろいかもしれません。オペラ歌手として活動を続けるには、規律正しい暮らしが必要ですが、私はそれを守っていました。オペラ歌手をしていてしばらく時間が経過したところで、常に移動し、孤独な暮らしをする生活を続けることに、疑問を抱くようになりました。

S リヨン・オペラ座でオッフェンバックの「天国と地獄」をローラン・ナウリさんと共演したローラン・ペリ演出の舞台がありましたが、それ以外は夫婦での共演はされなかったのですね。

D ええ、子供がいたので。二人のどちらかが、子供たちと一緒にいる必要があったからです。

S お子さんたちが無事に成長して、二人とも音楽家になったそうですね。

D ええ、息子のトムはジャズ、エレクトロ、ポップ、ブラジル音楽の奏者でサクスフォーンも弾きます。娘のナイマはミュージカル歌手で、12月にロンドンのナショナル・シアターで大きな役を演じます。家族は私にとって非常に大事なもの、人生の土台です。しかし、オペラ歌手には家庭生活はありません。家族優先にしようと試みましたが、多くの困難がありました。
今、子供たちは私が必要ではなくなり、私の方が彼らを必要としています。(笑)

S お子さんと舞台に一緒に立つこともありますね。

D ええ、一家四人で演奏することもあります。息子のトムはきれいな声をしていて、歌手としても活躍しています。また四人で舞台に立ちたいですね。家族で揃って演奏するのは大きな喜びです。

S  2013年にオペラの世界からは引退されましたが、音楽活動はずっと続けてこられたわけですね。

D ええ、健康で声が出る限り、歌い続けるつもりです。でも、クラシック音楽は特別です。定期的なトレーニングをしなければなりませんし、そんなに長い間続けられるかどうかは今はわかりません。一方、演劇とミュージカルはもっと長く続けることができます。演劇なら、自分の年齢に合った役がありますから。

S 歌曲、シャンソン、ミュージカル、演劇。活動が途切れることはありませんね。

D 時にはやりすぎになることもあります。オペラから引退したら静かに生活できる、と思っていたら正反対でした。今、仕事は実にたくさんあります。覚えなければならない台詞が多いのに、私はあまり記憶力が良くないからです。役者はたくさんの台詞を、時間をかけて、自然で、考えなくても台詞が口をついて出てくるようになるまで準備します。でも、とても面白いのですよ!

S オペラの歌唱でなくて、台詞によっても人間の感情を表現しているわけですね。

D ええ、その通りです。そう、来春、エマニュエル・アイム指揮のコンセール・ダストレと、アルチーナという人物についてのCDを録音することになっています。ひょっとすると、その後でコンサートを開くかもしれません。

S 日本へ行くのは5度目でしょうか。

D 正確には覚えていませんが、5回目か6回目です。今回は11月1日から10日までの短い滞在になります。すぐ戻って芝居の稽古をしなければならないので。本当はもっとゆっくり滞在したいのです。夫は6・7月と二ヶ月滞在して、瀬戸内海の直島や富士山を見たり、出島に行ったりしました。直島は本当に素晴らしかったそうです。観光客がいないので最高だったと言っていました。うらやましく思っています。一度、7月にトリノ王立歌劇場日本公演で「椿姫」を歌いましたが、日本の真夏は暑すぎで私には困難でした。
今回、フィリップ・カサールと相談しますが、新幹線で簡単に行けるのでもう一度京都に行ってみたいです。富士山を見に行くかもしれません。それに東京にもたくさん見るところがありますね。日本と和食が大好きなので、楽しみです。


ナタリー・デセイ&フィリップ・カサール

《公演情報》
ナタリー・デセイ (ソプラノ) & フィリップ・カサール (ピアノ)
日程:2022年11月6日(日) 14:00開演
会場:愛知県芸術劇場 コンサートホール
https://cte.jp/wp_detail/221106/

日程:2022年11月9日(水) 19:00開演
会場:東京オペラシティ コンサートホール
https://www.japanarts.co.jp/concert/p975/


◆ナタリー・デセイのアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/nataliedessay/

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