2021/11/3
ニュース
来日間近!ブルース・リウ インタビュー
1年間の延期により、ハイレベルな演奏を多く聴くことになった今回のショパン国際ピアノコンクールで、みごとその頂点に輝いた、ブルース・リウさん。
過去のショパンコンクールファイナリストや著名コンクールの優勝者と違い、彼については今回ショパンコンクールで知ったという方も多いかもしれません。そこでご本人のコメントとあわせて、ブルースさんについてご紹介したいと思います。
まず、ブルースさんは1997年フランスのパリ生まれ。その後カナダで育ち、モントリオール音楽院でリチャード・レイモンドさんに師事。現在はモントリオール大学で、今回のコンクールの審査員でもあったダン・タイ・ソンさんのもと学んでいます。
小さな頃から演奏家を目指してピアノ一筋だったわけではなく、「音楽を始めたのは8歳の頃だし、最初に弾いていたのは電子ピアノ。たくさんの趣味があり、ピアノは15くらいある趣味のひとつ。1日の練習も10分くらいで、趣味の範囲を超えるものではなかった」と話します。
「ピアノを真剣に勉強するようになったのは、子供のコンクールを受けて賞に選ばれるようになった頃だと思います。子供というのは何かに勝つと嬉しいし、それを続けたいと思いますよね。そんなシンプルな動機から、ちゃんと勉強するようになりました」
ちなみに今もいろいろな趣味があり、その一つはレーシングカー。中国には自分たちのレーシングチームがあって、夏の休暇を中国で過ごす時に活動しているとのことです。ステージのスリルだけでは、まだ足りないらしい。
さて、ブルースさんのこと、今回初めて知った方も多いかも……と書いたものの、彼は2016年仙台国際音楽コンクールピアノ部門で第4位に入賞しているので、日本のピアノファンの中にはご存知だった方もいらっしゃるかもしれません。かくいう私も、仙台でお会いした時の印象が強く、あちこちコンクールを取材しているといつどこでお会いしたか記憶があいまいになることもあるなか、彼についてはよく覚えていました。
当時仙台コンクールの審査委員長をつとめていた野島稔さんのコメントを見返すと、まだ幼い部分はあるとしながら、「非常に光るものがあると思った。音楽に魅力がある。考えた末というより、本能で自然に出てくる音楽という印象」とのこと。19歳の頃から、彼の美点はそこにあったということです。
話をショパンコンクールに戻しましょう。
今回のコンクール、多くのコンテスタントが、子供の頃からショパンが大好きだった、長い時間をかけてショパンに向き合ってきたと語る中、ブルースさんだけは異なっていました。というのも、もともと自分はショパンが得意だと思ったことはなく、ダン・タイ・ソンさんの元で学ぶようになってようやくショパンを勉強しはじめたとのこと。
当初予定されていたコンクールの1年前から本格的に学び、実質的に2年間準備をすることになったといいます。それではその2年間でどのようにショパンとの関係性が変わったかという問いには、こんな回答です。
「もちろん変わりましたよ。このコンクールへの最大のインスピレーションは何ですかとよく聞かれるのですが、その質問には、僕はコロナだと答えています。
コロナ禍での経験は、僕の勉強の方法やものの見方を変えました。たとえば僕はこれまで、自分の録音を聴くのがすごく嫌いだった。演奏している時は良い気分だけれど、聴きかえすと問題ばかりが目について、悪い気分にしかならない。だけど、パンデミックの間はオンラインで音源を提出しなければならない場面が多く、自分の録音を聴くことが強制されるようになった。でもそれによって、自分は心地よいゾーンから出ることになりました。それが自分に何かを気づかせてくれたと感じています」
至ってクールながら、何か本質を捉えたような回答。心地よいゾーンを出たことで、ショパンを弾く自分と改めて向き合うことができるようになったのかもしれない。
そういえば今回、ブルースさんにファツィオリのピアノを選んだ理由を尋ねたときも、「これまでコンクールでファツィオリを弾いたことはなかったから、何が起きるかわからないし少しリスキーで攻めた選択だとは思ったんだけど。完全に心地いいものばかりじゃなく、新しいものを受け入れていくということが好きなのかも。そのほうがおもしろいときもあるから」と話していました。
安全なところを走ってゆくのではなく、我が道を進む。それが音楽にも現れているピアニストです。
最後に、ご自身が音楽をする喜びについて尋ねた質問へのコメントをご紹介します。
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—あなたが音楽をする喜びは、どこにあるのですか?
それは、自分のエモーションを伝えるというところにあると思います。自分が演奏しているときは、世界の他のことを全部忘れることができる。自分だけのムードの中にいることができる。それは、本当に特別な気分ですよ。
—では、もしもあなたに音楽がなかったら、いつも世界の状況に対して気を張っていなくてはならなくて、大変だということですか?
うーん、そうでもないんですけれど。僕はもともとジョイフルで、楽観的な人間だから。でも、現代の世界はとてもうるさいし、生活もとてもスピーディーに進んでいきますからね。こういう音楽をする時間は、とても重要だと思います。
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現代っ子らしい感性が見られる場面も多いのですが、やはり、どこかクラシカルな部分も保っている。
コンクールに優勝しても、自分は自分で変わらない。ずっと真摯に音楽に向き合っていきたい、と話していたブルースさん。一躍スターになって嬉しそうにしている場面、若者らしい一面を見ることもあったのですが、心のうちはしっかりしているのだと知って、少し安心しますね。
高坂はる香(音楽ライター)
☆高坂はる香さんによるブルース・リウへのインタビューは、ぶらあぼONLINEにも掲載されています。ショパンやショパンの音楽について語っています。あわせてご覧ください。
https://ebravo.jp/archives/104314
第18回ショパン国際ピアノ・コンクール2021 優勝者
ブルース・リウ ピアノ・リサイタル
2021年11月11日(木) 19:00 東京オペラシティ コンサートホール
⇒ https://www.japanarts.co.jp/concert/p934/
第18回ショパン国際ピアノ・コンクール2021
入賞者ガラ・コンサート
2022年2月1日(火) 18:00、2月2日(水)18:00 東京芸術劇場コンサートホール
⇒ https://www.japanarts.co.jp/concert/p932/