2021/11/1
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【現地レポート】第18回ショパン国際ピアノ・コンクール – ガラコンサートと入賞者たち
3週間にわたる若きピアニストたちの熱い競演の末、10月23日に閉幕した、第18回ショパン国際ピアノコンクール。今回は、結果発表の翌日、10月21日にワルシャワで行われた入賞者ガラコンサートの様子とともに、入賞者たちをご紹介したいと思います。
ショパンコンクールのガラコンサートは、通例、3夜にわたって行われます。今年はその第一夜のみ、会場を近くの国立オペラ劇場に移して開催されました。この建物はもともと、1833年に建設された新古典主義建築の劇場で、ワルシャワ市内の他の多くの建物同様、第二次世界大戦で一度破壊され、1965年に再建されました。
舞台のサイズは世界最大級!というだけあって、音響の意味では、正直ピアノソロに向かない空間です。しかしその祝祭的な雰囲気はやはり特別。ブラックタイというドレスコードで、たくさんの着飾った聴衆が会場につめかけていました。
ガラコンサートが開幕すると、冒頭は、主催者などからの挨拶、そして、各賞の授与が行われます。入賞者たちも、舞台の上でようやくリラックスした表情を見せていました。
今回の審査結果は、すでに報じられているとおり、6位までの中4位と2位が2名ずつとなり、全部で8名の入賞者が選ばれました。同位を出す場合、次点は空席になることも多いですが、今回は本当に審査員の意見が割れ、入賞させたいという人が絞りきれなかったようです。
そんな実力が伯仲するコンクールで最終ステージまで進み、入賞者として名を刻んだ8名が、6位から順に舞台に立ちました。
まずは第6位、 J J ジュン・リ・ブイさん(カナダ)。演奏したのは、エチュードOp.10-3「別れの曲」です。これは彼が1次予選で一番はじめに演奏したレパートリー。一人の部屋でしっとり歌うかのような演奏を聴いたあと、まだ17歳だと気づいて驚いた記憶がよみがえります。
この日は、ワルシャワ・フィルハーモニーホールから1台代表して運ばれてきたファツィオリを全員が演奏することになっていましたが、やはり変わらず親密であたたかい音を引き出して聴かせてくれました。
5位のレオノーラ・アルメリーニさん(イタリア)は、ソステヌート(ワルツ)WN53と、バラード第3番。コンクール中よりさらに開放感のある艶やかな音で、美しく歌い上げました。
第4位の一人、ヤクブ・クシリックさん(ポーランド)は、マズルカ賞を受賞したマズルカOp.30を演奏。これがポーランドの心なのだろうと思わせる、明るく切なく、懐かしい音楽が流れます。
同じく第4位の小林愛実さん(日本)は、3次予選で渾身の演奏を披露した「24のプレリュード」からの抜粋で、第4番、第12番、第17番、第23番、第24番。一音ずつ大切に、繊細に奏でられてゆく音楽が、ショパンの豊かな感情を表現しました。
第3位のマルティン・ガルシア・ガルシアさん(スペイン)は、自由に揺れ歌う即興曲第3番と、ワルツOp.34-1。コンクール中によく聞こえたご本人の歌声は控えめでしたが、フレーズごとに多彩な表現を聴かせてくれました。
第2位となった反田恭平さん(日本)は、すばらしかった2次予選で演奏した、マズルカ風ロンドOp.5。持ち前の力強く輝かしい音で、より自由自在、躍動感たっぷりの音楽を奏で、あのステージの感動を蘇らせました。
同じく第2位のアレクサンダー・ガジェヴさん(イタリア/スロベニア)が演奏したのは、ポロネーズ第5番。ガラコンサートでも、思索とその場の感性がミックスされた攻めの演奏は健在。重く美しいポロネーズを聴かせてくれました。
そして休憩をはさんで後半に登場したのは、優勝したブルース・リウさん(カナダ)。ファイナルと同じ、アンドレイ・ボレイコ指揮ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団と、ピアノ協奏曲第1番を演奏します。
冒頭から、明るく輝かしい音を響かせ、その瞬間に感じるもの、オーケストラから受け取るものに反応し、音楽を創ってゆく…その様子に客席も引き込まれてゆく。晴れやかな未来を感じさせる、はつらつとした終楽章を聴きながら、今回は、今この時代に求められる優勝者が誕生したのだと改めて感じました。演奏が終わると、会場はスタンディングオベーション、大きな拍手が贈られました。
ブルース・リウさんは、11月にはもう来日。そしてその他の入賞者たちも、1月末から2月にかけて、入賞者ガラコンサートツアーのため、日本にやってきます。プログラムには主に、ソナタ賞やマズルカ賞、コンチェルト賞などの特別賞に選ばれたレパートリー、コンクール中に特別な印象を残した彼らの得意レパートリーがセレクトされるはず。
配信と会場の音は全然違う、というコメントをさんざん聞かされて、日本からオンラインで鑑賞していたみなさんは、それでは一体どうなのよ!とお思いになったことでしょうから、ぜひともこの機会に会場に足を運んでみてください。もちろん、ワルシャワ・フィルハーモニーホールとあのピアノで奏でられた音と全く同じものを聴くことはできませんが、それぞれのピアニストが自分の声でショパンの音楽を奏でてくれるはずです。
高坂はる香(音楽ライター)
第18回ショパン国際ピアノ・コンクール2021 優勝者
ブルース・リウ ピアノ・リサイタル
2021年11月11日(木) 19:00 東京オペラシティ コンサートホール
⇒ https://www.japanarts.co.jp/concert/p934/
第18回ショパン国際ピアノ・コンクール2021
入賞者ガラ・コンサート
2022年2月1日(火) 18:00、2月2日(水)18:00 東京芸術劇場コンサートホール
⇒ https://www.japanarts.co.jp/concert/p932/