2024/11/5
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【インタビュー】阪田知樹 ピアノ・リサイタル(オール・ショパン・プログラム)
高坂はる香(音楽ライター)
—オール・ショパン・プログラム、それも「12のエチュード」Op.10、Op.25と「24のプレリュード」全曲という、とてもボリュームのあるプログラムを演奏されます。最も重要にして難しいショパンのレパートリーを一度に取り上げることにしたのは、なぜでしょうか?
確かに、普通なら休憩を挟んでエチュード全曲を弾いて終わって十分かもしれませんね(笑)。でも今回は、ここに「24のプレリュード」をのせていることがミソなんです。
きっかけは、大好きなコルトーの過去の演奏会について調べていたら、「24のプレリュード」を弾いてから休憩を挟んで「エチュード」全曲を弾く、というプログラムをやっていたことを知り、いつか私もやってみたいと思うようになったことです。他にも往年の巨匠に、こうしたプログラムを選んでいる方が何人かいることもわかりました。
今回のプログラムの裏テーマは「リストへのオマージュ」で、1月のリストのコンチェルト公演からつながっています。「エチュード」Op.10はリストに、Op.25はリストの恋人だったマリー・ダグー伯爵夫人に献呈された作品です。
ショパンの「エチュード」はよく詩集のようだと言われますが、一つ一つが本当に短いので、もはや俳句や短歌を並べたようだと感じます。「プレリュード」も、彼のさまざまな表情や抒情性が最上の形で表された小品集です。どちらも技術的に大変で、ピアニストの試金石であり、一つの頂点ともいえる芸術をまとめて演奏するのは勇気のいることですが、だからこそ頑張ろうという気持ちになれます。
聴くみなさんにも集中力が求められるかもしれませんが、特別なショパン・ナイトにできたらと思います。12月に31歳になって迎える2025年は、自分の中にどんな音楽があるのかを自身に問い、それを聴いていただく年にしたいと思っています。
—同時代に生きたリストとショパンの関係性についてはどう感じていますか?
リストは、ショパンと出会って芸術的に進化した部分が確かにあると思います。ショパンが亡くなっていち早く評伝を書いたことからもわかるように、ショパンに尊敬の念を抱いていました。
一方のショパンも、リストがエチュードを弾いているのを聴いて“一体どうしたらこんなふうに弾けるんだ”と言うなど、苦言を呈すことはありながらも、影響を受けるところがあったと思います。エチュードの「革命」やOp.10-4、「木枯らし」は、リストの楽曲にあってもおかしくない部分もあります。
1月と3月、二つの演奏会を通して聴いていただくと、ショパンの中に見えるリスト性と、リストの中に見えるショパン性がわかるのではないかと思います。
—これだけのマスターピースについて、自分だけの解釈を見つけるためにどんなふうに作品と向き合っているのでしょうか?
例えばエチュードやプレリュードなら、一曲の中で動きのパターンが反復することが多いので、細かいところまで楽譜を見て、毎回同じなのか、変えているのか、もしくは変えたつもりが書き忘れているのか、などを判断していきます。そうしてそれを音として再現するのが、私たちピアニストのつとめです。そのために自筆譜や複数の版を見比べることもあります。
ただ、自筆譜に書かれていることを盲信すればいいというものでもないので、注意は必要なんですよね…私も自分で曲を書くからわかります。
楽譜を書いて出版社に渡し、それが浄書されて出てきたとき、ここはやっぱりこうしたほうがいいなと書き換えたら、それは普通、出版譜に反映されるだけで、自筆譜のほうは直されないのですから。
現代と違ってコピー機がありませんから、複数の出版社に送るため一つの作品を手書きで写し、その間にやっぱり修正しようと手を加えていると、自筆譜にいくつかのパターンができることになります。こういった状況をどう判断していくか、時間をかけて考えることも大切です。
一つの音に対して、他のアイデアがあったことを知っていて弾くかそうでないかには、大きな違いがあります。最終的に消されたアイデアでも、前段階があったことを知ると、本当の意図が見えてくることもあります。
どの版も100%鵜呑みにするのではなく、そこから考え、学ぶことが大切です。常にピアノの傍らに自筆譜やいくつかの版を置いて、練習中も気になったら確認するようにしています。
—研究していると、芋づる式にどんどん必要な資料が増えていきそうですね。
そうなんです、楽譜、書籍、自筆譜、CDと、家が資料で溢れかえっています(笑)。しかも最近、骨董品にはまりはじめていてさらに大変なんです!
骨董品といっても音楽に関するもので、リストのサインが入った楽譜やモシュコフスキの手紙など、海外で見つけたコレクションです。実際手にすると、この天才たちは本当に生きていたんだという実感が湧きます。
—では最後に、公演を楽しみにしているみなさんに一言お願いします。
私の演奏家人生の中でも、大切な公演になると思います。なかなか聴けないプログラムなので、一人でも多くの方と共有できたら嬉しいです。貴重なお時間をいただけることに、本当に感謝しています!
≪公演情報≫
新時代の旗手が魅せる“ショパン”
阪田知樹 ピアノ・リサイタル
日時:2025年3月14日(金) 19:00
会場:東京オペラシティ コンサートホール
出演:阪田知樹(ピアノ)
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2118/
◆阪田知樹のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/tomokisakata/