2023/10/13

ニュース

  • Facebookでシェア
  • Twitterでツイート
  • noteで書く

第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール 現地レポート①

ピアノとピアニストの個性が際立った第2ステージ

執筆:高坂はる香 (音楽ライター)

第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール
©NIFC

ショパン国際ピリオド楽器コンクールも、いよいよファイナルへ。2日間にわたり15名のピアニストが演奏した第2ステージを経て、ファイナリスト6名が発表されました。

Eric Guo(カナダ)
Martin Nöbauer(オーストリア)
Piotr Pawlak(ポーランド)
Kamila Sacharzewska(ポーランド)
Angie Zhang(アメリカ)
Yonghuan Zhong(中国)

コンクールの主役はもちろん若いピアニストたちですが、ピリオド楽器コンクールの準主役といっていいのが、ショパンの時代の音を現代に伝えるフォルテピアノです。今回は、ショパン研究所が所蔵する21台のフォルテピアノの中から、審査員によってコンクールで使用するための6台が選定されました。
その中には、ウィーン式のアクションを持つグラーフとブッフホルツ、イギリス式のプレイエル、エラール、ブロードウッドがあります。パリに渡って以降のショパンはイギリス式の楽器を弾く機会が多かったのに対し、祖国で過ごした20歳までは、ウィーン式の楽器に親しんでいたことが知られています。

今回は各ピアニスト、その6台のピアノの中から自分の選曲にあったピアノを選んで演奏することになりました(1ステージで複数の選択も可能)。感性、知識、そして異なるピアノのコントロール能力が問われます。
しかも第2ステージは、課題がオール・ショパン、指定のマズルカ、ワルツ、そして二つのソナタから1作品ずつ選ぶという形なので、「ショパンの時代のピアノで弾くショパンを聴き比べる」というお楽しみがマックスに高まる瞬間となりました。

第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール
©NIFC

さて、15名のコンテスタントの演奏を通じ、今回最も多く弾かれたのが、1842年製のプレイエル。80鍵、シングル・エスケープメントの楽器です。
なかでもピアノソナタについては、多くのピアニストがこのプレイエルを使用していましたが、ファイナリストだけ見ると、「プレイエル4人」の「エラール2人」だったのが興味深いところ(エラールは1838年製、82鍵、ダブル・エスケープメント)。

カナダのEric Guoさん(2番)、オーストリアのMartin Nöbauerさん(3番)、ポーランドのKamila Sacharzewskaさん(2番)、アメリカのAngie Zhangさん(3番)はプレイエル。
これに対して、中国のYonghuan Zhongさん(2番)、モダンのショパンコンクールにも出場していたポーランドのPiotr Pawlakさん(2番)は、エラールでした。
ちなみに残念ながらファイナル進出はなりませんでしたが、唯一の日本からの第2ステージ進出者となった鎌田紗綾さんも、ソナタでエラールを選択していたお一人。

第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール
©NIFC
プレイエルを弾くカナダのEric Guo

第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール
©NIFC
エラールを弾く中国のYonghuan Zhong

そして興味深かったのは、Angie Zhangさんがマズルカとワルツにウィーン式の1835年製グラーフを選択していたところです(第1ステージではウィーン式を必ず選ぶことがルールとなっていましたが、第2ステージではその縛りはありません)。
このグラーフは、当時のウィーン式によくある4本ペダルを備えています。
その4本の内訳は、今のピアノでもおなじみのソフトペダル、ダンパーペダルに加えて、モデレーターペダルが2本という形。モデレーターを踏むと、ハンマーと弦の間にフエルトがはさまって音色が変わります(2本の違いは、フエルトの枚数が1枚と2枚か、とのこと)。
Zhangさんはこれを巧みに使ってさまざまな表情の音を鳴らし、古い絵本をめくっているかのような、味わい深い演奏に仕上げていました。アメリカでフォルテピアノも専門に勉強しているピアニストならではのこだわりの見せ所だったといえるでしょう。

第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール
©NIFC
グラーフを弾くアメリカのAngie Zhang

ファイナルからはオーケストラとの共演で、しかも会場を大ホールに移すということで、よりパワーのあるイギリス式のピアノを選ぶという考え方もあるでしょう。
ファイナリストとなった6人は、どこにこだわり、どのピアノを選択するのか。古楽器を専門に勉強している人かそうでないかも、その判断に影響するかもしれません。

この辺りも含めて、10月13日、14日の2日間にわたって行われるファイナルの演奏に注目してみてください。

2023.10.14:今回のファイナルはエラール1838年とプレイエル1842年の2台からの選択で、ウィーン式は選べないことがわかり、テキストを一部修正いたしました。

第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール ライブ配信決定!


《公演情報》
第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者コンサート

第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者コンサート
日時:2024年1月30日(火) 19:00
会場:東京オペラシティ コンサートホール
出演:第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者(※後日発表)、鈴木優人(指揮)、バッハ・コレギウム・ジャパン
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2059/

第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者 ソロ・リサイタル
2024年1月25日(木)19:00開演 静岡・アクトシティ浜松中ホール
2024年1月26日(金)19:00開演 兵庫県立芸術文化センター神戸女学院小ホール

ポーランド文化・国家遺産省/アダム・ミツキェヴィチ・インスティチュート ポーランド国立フレデリック・ショパン研究所(NIFC)
Concerts are co-organized by Adam Mickiewicz Institute / The Fryderyk Chopin Institute
Adam Mickiewicz Institute : https://culture.pl/jp/topic/asia https://iam.pl/en
The Fryderyk Chopin Institute : https://nifc.pl/pl

ページ上部へ