2023/9/27

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【特別インタビュー】チェコ・フィル2023日本ツアー ソリスト パブロ・フェランデス(チェロ)

パブロ・フェランデス

「ドヴォルザークの協奏曲は人生の縮図。弾くたびに異なり、育っていきます」
〜チェコ・フィル2023日本ツアーのソリスト、パブロ・フェランデスに聞く

パブロ・フェランデスは1991年、マドリードに生まれたスペイン人チェロ奏者です。日本音楽財団からストラディヴァリウスの名器「ロード・アイレスフォード」を貸与された縁もあり「過去10年、日本を10回以上も訪れ演奏してきました」と語ります。2023年10月から11月にかけてはセミヨン・ビシュコフ指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団日本ツアーに同行、ドヴォルザークの「チェロ協奏曲」を東京、大阪、名古屋で独奏するほか、11月6日、チャイコフスキー没後130年の命日当日にはサントリーホールの「チャイコフスキー3大協奏曲の響宴」にも出演、高関健指揮東京フィルハーモニー交響楽団と「ロココの主題による変奏曲」を共演する予定です。日本音楽財団主催「ストラディヴァリウス・コンサート2023」へ出演するために来日した機会をとらえ、9月20日に行ったインタビューではドヴォルザークの話しから始めました。

パブロ・フェランデス

――「チェロ協奏曲」は「交響曲第9番《新世界より》」「弦楽四重奏曲第12番《アメリカ》」と並び、ニューヨーク滞在時代のドヴォルザークの傑作であるばかりか、あらゆるチェロ協奏曲の中でも最高峰に位置する作品ですね。

「古今のチェロ作品すべての中で最も知られ、広く聴かれている作品です。とても入り組んで書かれているため、弾く側にとっては毎回が挑戦。同じ人間が演奏しても1回ごとに結果は異なり、いくつもの人格が現れる気がします。人生の縮図ともいえる偉大な作品とともにチェロ奏者の自分も育っていく、そんな感覚です。アメリカ時代の傑作ですが、そこには先住民の音楽など現地で新しく吸収したものと、チェコのルーツへのノスタルジー(郷愁)とが渾然一体に融合しています。とりわけ第3楽章の終わり、チェロがとびきり美しい旋律を奏でる際、静かに重なるティンパニの連打が愛を語る瞬間は心臓の鼓動以外の何物でもありません。続く管弦楽の総奏とともに、天へと昇ります」

――チェコ・フィル、ビシュコフさんとの共演は長いのですか?

「いいえ。オーケストラとは2022年1月、ヴァイオリンのアンネ=ゾフィー・ムターさんとソニーへのレコーディングを兼ねた3回の演奏会が初共演でした。マンフレート・ホーネックさんの指揮で、ブラームスの『ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲』。チェコ・フィルは極めて温かな音色を備え、ソロと合奏の間だけでなく合奏の中でもお互いを聴き合う能力に秀でています。見た目にも美しい演奏・収録会場、ルドルフィヌムのドヴォルザーク・ホールの音響も素晴らしいとしか、言いようがありません。ビシュコフさんとは日本ツアーに先立つ今年10月の第1週、プラハでドヴォルザークの協奏曲を3回ご一緒するのが初共演。その成果を直接、日本の皆様にお届けします」

パブロ・フェランデス

――11月6日、作曲者130回目の命日にはチェコ・フィルのコンサートマスターであるヤン・ムラチェク、ピアノのキリル・ゲルシュタインとともに「チャイコフスキー3大協奏曲の饗宴」に出演、チェロと管弦楽のための「ロココの主題による変奏曲」を独奏します。管弦楽との「合わせ」ひとつとっても、非常に演奏が難しい作品ですね。

「私の最も好きな作品の1つで、頻繁に演奏してきました。サイズは短めですが、技巧の難易度は高く、チェロの様々な可能性を示し、強い印象を与えます。ソロの超絶技巧(ヴィルトゥオージティ)だけでなく『チャイコフスキーにしかありえないメロディーの宝庫』を備えた奇跡の音楽が、私の心をとらえ続けてきました。最近もローマで、ダニエーレ・ガッティさん指揮の聖チェチーリア国立アカデミー管弦楽団と演奏しましたが、輝かしいチャイコフスキーのサウンドに包まれ、とても幸せでした。高関健さん指揮東京フィルの皆さんとの共演も楽しみです」

――フェランデスさんはスペイン人で、13歳の時に地元マドリードのレイナ・ソフィア王妃高等音楽院に入学しますが、そこでの先生はムスティスラフ・ロストロポーヴィチ門下のロシア人チェリスト、ナターリャ・シャホフスカヤ(1935―2017)。ソニーからのデビュー盤も同じ音楽院で知り合った5歳年長のロシア人ピアニスト、デニス・コジュヒンと共演したラフマニノフ中心のアルバム「リフレクションズ」でした。チャイコフススキー、ドヴォルザークなどスラヴ圏の音楽には、強い愛着を感じますか?

「シャホフスカヤ先生は1962年のチャイコフスキー国際音楽コンクールのチェロ部門優勝者で、教師以前に演奏家としてのキャリアも傑出した方でした。音楽院長がロストロポーヴィチさんと親しく『優れた指導者を紹介してほしい』と頼み、シャホフスカヤ先生の指導をマドリードで直接受けられたのは当時の私にとって最大のカルチャー・ショックであり幸運です。ロシア=ソヴィエト黄金時代の衣鉢を授かり、ロシア音楽の情感を明快に吸収できたのですから。ショスタコーヴィチやヴァインベルクらの作品が象徴するようにロシアの音楽は作曲家の人生そのもの、振れ幅の大きい肖像画です。ロシアの美しい文化、温かな人間性と極めてシリアスで孤独な精神の対照は私の心をとらえてやまず、個人的には『ロストロポーヴィチさんの音楽上の〝孫〟』と考えています」

パブロ・フェランデス

――ありがとうございました。コンサートでの再会を楽しみにしております。

取材&翻訳=池田卓夫 音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®️
https://www.iketakuhonpo.com/


《公演情報》
セミヨン・ビシュコフ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団(東京)
新たな黄金時代を迎えたビシュコフ&チェコ・フィル
第一級のソリストたちと共に贈るオール・ドヴォルザーク・プログラム!

セミヨン・ビシュコフ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 (東京)
日時:
2023年10月29日(日) 14:00 [パブロ・フェランデス出演(チェロ)]
2023年10月31日(火) 19:00 [藤田真央出演(ピアノ)]
2023年11月1日(水) 19:00 [ギル・シャハム出演(ヴァイオリン)]
会場:サントリーホール
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2039/


◆セミヨン・ビシュコフのアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/semyonbychkov/
◆チェコ・フィルハーモニー管弦楽団のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/czechphil/

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