2025/5/15
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ビシュコフ指揮チェコ・フィル《プラハの春音楽祭》で「わが祖国」を演奏!
セミヨン・ビシュコフ指揮チェコ・フィルが、5月12日・13日の《プラハの春音楽祭》開幕公演に登場し、スメタナ「わが祖国」を披露しました。同音楽祭でチェコ・フィルが「わが祖国」を演奏するのは、今年で77回目となります。
秋の日本ツアーに先駆けて、プラハでのチェコ・フィルによる「わが祖国」のレポートをお届けします!
■プラハの春音楽祭 2025 オープニング公演(第2夜)
2025年5月13日 20時開演 プラハ市民会館 スメタナホール
セミヨン・ビシュコフ & チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
プログラム:スメタナ《わが祖国》
今日は快晴の5月のプラハ。涼やかな風が歴史的な旧市街を吹き抜け、プラハ市民会館内のスメタナホールには、世界的に名高いプラハの春音楽祭の幕開けにふさわしいフォーマルな装いの聴衆が集まっていた。
この「プラハの春音楽祭」で毎年開幕を飾るのは、スメタナの《わが祖国》。今年の音楽祭でそのタクトを握ったのは、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者・音楽監督セミヨン・ビシュコフである。
ビシュコフは、スメタナの精神と祖国の風景に寄り添いながら、作品に新たな息吹を吹き込んだ。彼の指揮は、技術的な精緻さにとどまらず、音楽の内面に深く入り込む詩的な視座に満ちていた。右手の指揮棒は空間を自由に彫刻し、左手はまるで楽器の一部のように音楽を引き立て、形を与えていく。明快で柔軟な合図は、時に鋭く、時に包み込むようであり、チェコ・フィルならではの民族的な共鳴を引き出していた。
冒頭の《ヴィシェフラド》では、ハープが奏でる旋律から、プラハの伝説的な丘が音の中に立ち現れる。壮麗でありながら決して誇張に走ることのない表現は、ビシュコフの抑制された美学と、オーケストラの内面的な集中力の賜物だった。続く《ヴルタヴァ(モルダウ)》では、スメタナが生み出した最も親しまれる旋律のひとつが、弦楽器の穏やかな流れの中から立ち上がる。旋律は、ゆるやかでありながら確かな推進力をもって前へと進み、聴き手を川の旅へといざなう。その中で、漁村の婚礼の踊り、月光に照らされた水面、そして岩を越えてうねる急流など、場面ごとの色彩が生き生きと描かれ、主題がさまざまな姿に変奏しながら再登場する構成の巧みさが際立っていた。
《シャールカ》《ボヘミアの森と草原》《ターボル》《ブラニーク》と、演奏が後半へ進むにつれて、音楽はより構造的な強度を帯び、民族的・歴史的なテーマが積み重なりながらクライマックスへと向かっていった。なかでも《ターボル》から《ブラニーク》への接続は特に見事で、暗闇から光へと至るような音楽的展開の中に、新春を迎えるときのような希望が感じられた。
終演の瞬間、スメタナホールはスタンディングオベーションと熱狂的な拍手と歓声に包まれた。
メンバー同士が見つめ合いながら紡ぐ精緻なアンサンブルと、マエストロの深遠な解釈が見事に融合し、チェコの歴史と土地、詩と祈りが音楽によって会場に甦った一夜であった。