2013/10/28

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ポール・メイエ電話インタビュー(2)

ポール・メイエの電話インタビュー、その2をお送りします。
その1はこちらから

ポール・メイエ

Q:今回のメンバー、アルティ弦楽四重奏団とは、いつごろから一緒に演奏されているのですか?
PM : メンバーの中には、長いおつきあいの方もいますよ。川本嘉子さんとは、10年ぐらい前から東京で共演しております。ルチアーノ・ベリオ氏の作品などを一緒に演奏しています。豊嶋泰嗣さんや矢部達哉さんとも、室内楽の公演で何回か一緒に演奏しています。

Q:彼らにはどんな印象をお持ちですか?
PM : ご一緒したことがある方も、まだの方も合わせて、日本の演奏家の方々は素晴らしいと思っています。アンサンブルというものをとてもよく理解している方たちですよね。モーツァルトやブラームスといった重要な作品を彼らと演奏できるなんて、ほんとうに、貴重な機会だと思っています。

Q:そのご意見はとても嬉しいです。せっかくなので、もう少し詳しくお聞きしたいのですが、いまや日本の演奏家たちは有名な国際コンクールでつねに上位入賞を果たすレベルになり、技術的に高い評価を受けています。ただ、欲をいえば、優勝・最高位獲得のために必要な、個性の打ち出し、という面が弱い、という指摘もあります。ご存知だろうと思いますが。この点に関して、メイエさんはどう思われますか?
PM : 音楽を演奏するにあたって最初に大切なことは、上級のテクニックや、良い教育を受けたかどうだということは、言うまでもありません。ですが、それがもう備わっているということならば、もうひとつ欠かせないのは、演奏者が自分の持ち味としての明確な表現ができるかどうか、つまり、真に芸術家たりうるか、という資質です。個性を見せると言っても、それはつねに演奏する音楽を通して行われることで、ステージでの演奏にそのすべてがかかってきます。日本の演奏家の場合、私が感じるのは、経験がまだ十分ではないのだろう、ということ。それは、回数の問題ではなくて、西洋の音楽を学ぶ方々にとって、経験の質が「その音楽がつねに生活のなかにある」という感覚ではないのだろうと思うのです。
簡単には触れていけないもののように感じて、遠慮しているのかも知れませんね。でも、私はそんなところにもあらわれている、日本の方の謙虚な性質がとても好きです。ですから、もともと西洋音楽を文化の中心として育った私たちと、日本のみなさんとの間で、情報や経験の交換をしていくことが必要だし、それが前進をもたらすと思うのです。パリでの私のクラスの中に日本の生徒さんもいますが、私は彼らに「われわれはこの音楽をこんなふうにとらえています。だから、こうやって表現するといいと思いますよ。」というふうに教えています。

Q:日本のよさを否定せずに客観的なコメントをいただいて、嬉しい限りです。
PM : 当然ですよ、みなさんは素晴らしいんです。私は日本がとても好きなので、指揮者としてももっと、日本でいろいろ仕事がしたいんです。

Q:そこまで日本びいきになられたのにはなにか理由があるのですか?
PM : まず日本の人たちが好きです。音楽家だけでなく、どんな方も。みなさんは、国民性として、美しいものを正しく評価なさいます。音楽家を例にとれば、細部によく気を使って演奏されます。視覚的な美にも非常に敏感ですし、「手仕事」を尊重なさいます。そんな環境の中で、もし近い将来に、定期的に指揮者として仕事ができたらいいなあ、と夢みています。若い日本の演奏家の方たちとたくさんの交流を持ちたいと切望しています。

ポール・メイエ

ポール・メイエは東日本大震災直後の2011年4月に来日し、東京交響楽団と素晴らしいモーツァルトのクラリネット協奏曲を披露。私たちを勇気付けてくれた。

Q:メイエさんは、フランスのアルザス地方のご出身ですね。現在はフランス領ですが、過去は何度もドイツ領となったこともある、国境地帯です。県庁所在地のストラスブールなどでは、人々が活気をもってかつ真面目に、よく働く、という印象があります
PM : ええ、そうです。もしかしたら、私が日本に惹かれる理由は、そんな自分の性質にもあるかも知れません。おっしゃるとおりアルザスはドイツ文化をそのルーツに分かち持っていますし、私自身が「二つの文化」を持っていて、つまり、もともと「他国の文化」に抵抗がないのだと思います。そして日本のみなさんは、伝統音楽の国として、ドイツの音楽がお好きですよね。そんな微妙な文化的配合が、いまの自分の「日本びいき」の秘密かも知れません。そしてもちろんフランスも、長い長い文化の歴史を誇る国です。その点は、東洋の日本も共通していると思うのです。音楽だけでなく美術、絵画や視覚芸術の分野でもお互い伝統というものを理解しています。似ているのですよね、きっとね。

Q : 本日は、楽しいお話をほんとうにありがとうございました。今シーズンが充実していますよう、お祈りいたします。
PM : いいえ、こちらこそお礼を申し上げます。12月にはぜひみなさん演奏を聴きにいらしてください。元気にお目にかかりましょう。

インタビュー:高橋美佐(2013年10月12日)


現代最高のクラリネット奏者×我が国最高のクヮルテット!
ポール・メイエ(クラリネット)&アルティ弦楽四重奏団
2013年12月11日(水) 19時開演 文京シビックホール 大ホール

公演の詳細はこちらから

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