2014/6/19

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ザ・フィルハーモニクス ~眼もくらむ高みに微笑む

超絶の世界を笑顔で届ける

 しばしば「玄人好み」や「通好み」という言葉が、良い意味に使われる。
 けれど(内緒でそっと言うのだが)、じつは「玄人好み」も「通好み」も特にありがたいことじゃないのだ。手軽に実現できる。たとえば素人には難しいことを、玄人が難しそうにやれば、「素人離れ」して見えるのだから。
 ところが、本当に難しくて手間のかかることは、「玄人にも難しいことを、素人にも親しみやすい形で実現して見せる」ことなのだ。
 などと、もどかしい説明をしているよりは、『ザ・フィルハーモニクス』をナマで聴けばいい。そうすれば「一流を超えた一流」「選ばれた天才たち」が、どれほど高度で眼もくらむ高みに達した世界を、微笑とともに届けてくれるか、それが皮膚感覚で浸透してくる。
 この『ザ・フィルハーモニクス』は、オーケストラ界の天然記念物、あるいは世界遺産とも呼べるウィーン・フィルのメンバーを核としている。7人編成のうちウィーン・フィルが4人、ベルリン・フィルが1人(なんという贅沢!)、さらにジャンルを超えた万能の名手2人を加え、あきれるほど精密で機能的なアンサンブルを展開する。しかも千変万化。
 ウィーンの街角の軽妙なシュランメルンも、さすらいのロマ達の音楽も、ジャズの4ビートのスウィング感も、一転して気品に満ちた古典やロマンの名作群もオペラも、みんな何の違和感もなく豪勢に並ぶ。それが、よくある「家庭名曲集」などと言った甘ったれた選曲じゃない。一夜の数多い演奏曲で、歌劇『カルメン』の「花の歌」やピアソラの『オブリヴィオン』、あるいは『屋根の上のバイオリン弾き』あたりが一般的にお馴染みの曲、といえば彼らの選曲の「渋さ」が判るだろうか。
 といって演奏の中身は、何度も言うけれど圧倒的な名人芸と機能美とが華麗に花開く。それで腕前をひけらかすことなど微塵もない。そんな低次元の「玄人好み」から『ザ・フィルハーモニクス』は断固として住み分ける。
 CDや映像で楽しむのもいい。けれど「よくそこのコンサートに足を運んだものだ」と、会心の笑みを浮かべたければ、行けばよい。『ザ・フィルハーモニクス』の公演に。昨夜の大阪では、少々のことではウンと言わない浪速の聴き手が、我を忘れたように起ち上がり喝采を繰り返し、帰りにはCD売り場に殺到した。初物に厳しい大阪では珍しい光景だ。
 行けばいい。聴けば解かる。これが微笑みで届く「本当の玄人好み」だと。

響 敏也(作家・音楽評論家)

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ウィーン・フィル公認の“7人のヴィルトゥオーゾたち”
ザ・フィルハーモニクス
2014年06月20日(金) 19時開演 東京芸術劇場 コンサートホール

ザ・フィルハーモニクス

公演の詳細はこちらから
フライヤーの画像を撮影してフィルハーモニクスの映像を見よう!

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