2014/6/19

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ニコライ・ホジャイノフが、シューマン、ショパン、そして日本の聴衆への想いを語る

 今年は日本各地のオーケストラとの共演のため、1年間で4度来日することになっているニコライ・ホジャイノフ。2月にヤマハホールで行われたリサイタルでも満員の聴衆を魅了していましたが、この8月には再び浜離宮朝日ホールでリサイタルを行います。シューマンの「ダヴィッド同盟舞曲集」、ショパンのピアノソナタ第3番を中心とした、2月とは全く異なるプログラム。特にショパンなど、このインタビューを読むと、どのような表現になるのかが楽しみになります。今回はどんな音楽世界を届けてくれるのでしょうか。

ホジャイノフ

─今回のリサイタルは、シューマン、ショパンとロマン派の作品を中心にしたプログラムです。曲目はどのように選んだのですか? 
演奏会のプログラムというのは、演奏家の一部です。アーティストが愛すべき聴衆のみなさんに今なにを伝えたいと思っているのかは、プログラム、そして作品の解釈に反映します。私は日本のお客さま、ファンの方々のことが大好きなので、みなさんがどんな作品やどんな作曲家なら興味をお持ちかと考え、とてもユニークで独自の世界を持つシューマンの作品を演奏したいと思いました。

─シューマンの作品、そして人物像については、どんな理解をお持ちですか?
シューマンの音楽には、現実、幻想の境界にある絶妙なバランスを感じます。特にこの「ダヴィッド同盟舞曲集」が好きなのは、彼の思考がそのまま投影されている作品だからです。それぞれの舞曲が即興的で、ロマンティックな衝動が瞑想的な音楽へ変化していくところ、スケルツォ風の要素がユーモアと風刺に変化していくところなど、とても好きです。シューマンの上質な精神生活が、豊かな感情とともに語られる作品だと思います。シューマンはこんな言葉を残しています。“意識を欺くことはできる、しかし、感情を欺くことはできない”。
当時シューマンの音楽は、厳格で古典的な1820年代のドイツ音楽界に挑戦するものでした。しかし今では、シューマンはドイツのクラシック音楽界にとって誇るべき存在となっていますね。彼は発明者であり、夢を見る人であり、純粋な魂を持った人でした。

─ショパンのピアノソナタ第3番については、どのような理解をお持ちですか?
ソナタ第2番と第3番の作曲年には、ほんの数年しか開きがありませんが、その間にはまるで一生分の時間が流れたかのような変化があると私は思います。
第3番のソナタロ短調は、実に大きな歌、シンフォニックな要素を持ち合わせています。お聴きになるみなさんも、そのことに気づかないはずはないでしょう。年代的にみれば彼の最晩年の作品にはあたりませんが、この作品でショパンが精神的な探求を極め、創造的なピークを迎えているのは確かだと思います。
この音楽が持つ力は、ベートーヴェンの交響曲第9番に匹敵すると思います。

─ホジャイノフさんにとって、ショパンは長く取り組んでいる作曲家の一人かと思います。ショパンに対しての理解は、年齢を重ねるとともに変化しているのでしょうか?
私の音楽を聴いているみなさんにも時間が経つとともに変化があると思いますが、私自身ももちろん、年を重ねるごとに変化しています。
ショパンの音楽へのアプローチとして僕が好むのは、“泣きの演奏”ではありません。男性的で豊かな感情、そして彼の苦悩や失望を表現することが大切です。多くのピアニストは、ショパンが傷つきやすい心の背後に、強く堅固なパーソナリティを持っていたことを忘れがちです。
私は、ソフロニツキーが語った「ショパンはすべてのロマン派の中でもっとも厳格だ」という言葉が好きです。私自身の考えにとても近いアプローチです。
時が経つとともにより確信するようになったのは、ショパンの作品は、過剰なルバートで壊されては絶対にいけないということです。聴衆の涙や共感を誘うことを意識して演奏されてもいけません。感情はアーティストの内側から湧き出すものであるべきです。ショパンの音楽は、大きな次元で、豊かな精神をもって演奏する必要があります。
もう一度言いたいのは、ショパンは泣きごとを言うような人ではなかったということ、ショパンの作品が人を惹きつける要素は、威厳に満ちた男らしさと力強い情熱にあるのだということです。

─昨年7月にも浜離宮朝日ホールでリサイタルをされていますが、ホールの印象はいかがでしたか?
信じられな
いほどすばらしい音響のホールでした。今年も浜離宮朝日ホールという場所で演奏させていただけることをとても誇りに思っています。世界の最高峰のホールで演奏した経験と比べても、その音響、デザインの美しさは、感動的なほどだと思いました。昨年はこのホールでヤマハのCFXを演奏しましたが、このピアノは私の要求に見事に応えてくれて、ホールのすばらしい印象をより完璧なものにしてくれました。
ピアニストが心地よいと感じているときには、客席のみなさんもその喜びを感じ取ってくれるのではないかと思います。

─日本の聴衆やファンのみなさんの印象はいかがですか?
私にとって、日本の聴衆のみなさんはもっとも愛すべき方々です。ファンのみなさんはいつも私のことを気にかけ、大変な時にも支えてくださいます。それを強く感じて、みなさんにはいつも誠実に接したいと思っています。
日本のコンサートで客席から感じるポジティブで強いエネルギーは、私にとって、生きてゆくこと、そしてステージで創造することの大きな助けになっています。日本にたくさんの友人がいることも幸せで、いつも心地よく過ごすことができます。
私が日本に初めて降り立ったのは、2011年3月11日のことでした。あの悲惨な震災による辛い時間を日本の方々と共に経験しました。日本で過ごす時間は、とても特別な気持ちをもたらすものなのです。

取材・文:高坂はる香(音楽ライター)

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来日公演はコチラ!
2014年8月25日 19:00開演 浜離宮朝日ホール

ホジャイノフ

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