美しく残酷な姫、トゥーランドットが出す3つの謎の秘密とは。

ブルガリア国立歌劇場


<トゥーランドット>
予定キャスト
マリーヤ・アレクサンドロワ セミョーン・チュージン ミハイル・ロブーヒン
ヨルダンカ・デリロヴァ
(トゥーランドット姫)
Iordanka Derilova
マルティン・イリエフ
(カラフ)
Martin Iliev
ラドスティーナ・ニコラエヴァ
(リュー)
Radostina Nikolaeva
スヴェトザール・ランゲロフ
(ティムール)
Svetozar Rangelov

あらすじ
 「美しいトゥーランドット姫に求婚する男は3つの謎を解かねばならない。謎を解けなければ、処刑される。」
 ダッタン国のカラフ王子は、謎を解けなかった男の処刑の場に現れた姫に一目で恋におち、周囲の反対を押し切り自らが新たな求婚者になることを宣言する。 カラフは姫の出す謎を解いてみせるが、姫はなおも結婚を拒む。それを見たカラフは逆にたった一つの謎を出す。 「明日の夜明けまでに私の名を知ることができたなら、私は潔く死のう。」
 命を賭した謎解きの果てにあるものとは−。



豊かなブルガリアンヴォイスに酔いしれる
劇場の十八番「トゥーランドット」

 ブルガリア国立歌劇場の来日公演において看板と言える「トゥーランドット」。 プッチーニの未完でありながら代表作としても名高いこのオペラが今秋、再び日 本へやって来る。初来日時には世界的なソプラノ、ゲーナ・ディミトローヴァがタイト ルを演じた名演が記憶に新しく、その時からすでに15年を過ごしたことになる。  ブルガリアオペラの特色としてあげられるのは劇場総裁でありながらトータル プロデュースを手掛けるプラーメン・カルターロフの描く独創的な舞台であろう。 独創性あっても斬新さは控え目であり作曲家の意図を汲んだ構成が多く目を引 く。 プッチーニ晩年の思想の中にある生への絶望と魂の不朽性がこのオペラの 中に生かされていることを説く演出家カルターロフは、トゥーランドット、リュー、 そしてティムールそれぞれの生き方を創作半ばで作品を放棄せざるを得なかった プッチーニに成り代わり残された記録をもとに脈々と描きだしている。
 ブルガリアで上演されるもの、日本へ渡ってくるものを問わずほぼすべての演目 にブルガリア人のアーティストを起用しているのがこの劇場のもう一つの特色。 国が運営する教育機関で学び劇場の舞台でさらなる研鑽を積む。 世界へ羽ばた くものがいれば国にとどまり活躍するものもいて、伝統と歴史が輩出してきた ブルガリアンヴォイスの豊かさには実際驚かされる。 世界を魅了して止まなかっ たいまは亡きディミトローヴァのイタリア色に溢れた音楽はともかく、ヴァーグナー 歌いとして欧州全土で活躍するヨルダンカ・デリロヴァの歌うトゥーランドットは 凄味の中に包容力があり、天賦の美貌もって放たれるしなやかな曲線的な動きに 客席は釘付けになる。 カラフを演じるマルティン・イリエフはすでに日本でも馴染 みのテノール。 ドイツのヘルデン役を朗々と歌えば、イタリアのヴェリズモオペラ までを幅広くこなす。煌びやかな力強い声色が不屈のカラフをより印象づけるだろ う。 カルターロフの構想の中でこのオペラの中核を担う三大臣の存在は絶対的な ものである。 その中でも三角形の頂点に立つピンがオペラ全体のバランスを保つ ことになる。 気鋭バリトン、アタナス・ムラデノフがその役を歌い演じる時プッ チーニのオペラにブッファのスイッチが入りすべてがそれを軸に回りはじめる。 軽快で愉快なアンサンブルが展開されてオペラ全体の臨場感が高まるのである。  紹介したいブルガリアらしさはまだたくさんある。 すでに歴史を刻んできた来 日公演ながらこの「トゥーランドット」は新たな挑戦になると総裁カルターロフ自ら 語ってくれている。

堂満 尚樹(音楽ジャーナリスト)