2025/7/24

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ウラディーミル・ユロフスキ 来日前インタビュー!(2025年6月3日、ミュンヘンにて)

まもなく、今秋9月に、名門バイエルン国立歌劇場を母体とするバイエルン国立管弦楽団が芸術総監督ウラディーミル・ ユロフスキとともに来日します!知性派で知られるウラディーミル・ユロフスキ、6月の現地公演の後にインタビューを行いました。ぜひご覧ください。

中村真人(音楽ジャーナリスト/ベルリン在住)

-昨晩、バイエルン国立管弦楽団のアカデミーコンサートで指揮されたショスタコーヴィチの交響曲第8番は、大変感動的な演奏でした。このオーケストラが同曲を上演するのは1996年以来、約30年ぶりだったそうです。なぜ今、この交響曲を取り上げようと思われたのでしょうか?

 私たちがふたたび戦争の時代を生きている中、この交響曲ほど今にふさわしい作品はないと思うからです。この第8交響曲は音によるマニフェストであり、戦争への告発です。しかし、ある特定の戦争ではなく、戦争そのものへの告発が込められています。私はこの作品を分析する過程で、第二次世界大戦中の1943年に作曲されたにもかかわらず、この交響曲にユートピア的な要素とディストピア的な要素が含まれており、戦後の世界がどのようなものになるかを予感させる点があることに気づきました。
 つまり、ショスタコーヴィチは、この曲の中で1945年以降の世界を空想したのです。そこには平和への憧れと、新たな戦争につながる苦い現実との間の激しい対比があります。最後の第5楽章で、私にとって最も恐ろしいクライマックスが訪れますが、私は1945年以降に起きた出来事をいやが上にも考えます。例えば、広島と長崎への原爆投下であり、その後に続く冷戦の恐ろしい年月。ショスタコーヴィチはまるでこれらの悲劇的な未来の瞬間を音楽で予見したかのようです。この交響曲は第二次世界大戦だけを描いたのではなく、それよりもはるかに深い意味を持っていると私は考えています。

-ユロフスキさんがこの曲に寄せる強い思いが伝わってきました。9月末、バイエルン国立管とは待望となる初来日をされますが、そこで演奏されるワーグナーやR・シュトラウスについてもお聞かせください。

 バイエルン国立管のような長い歴史のあるオーケストラと日本公演を行う場合、彼らが最も得意とする音楽を披露したいものです。すなわち、それはショスタコーヴィチではありません。
 今回ワーグナーからは《タンホイザー》序曲を演奏しますが、バイエルン国立管が演奏するワーグナーはすべてが独特です。まるでワーグナー自身を聴いているような感覚に陥ります。ワーグナーはミュンヘン宮廷劇場で指揮をしたことはありませんが、その伝統は今に脈々と受け継がれています。

-ワーグナーはミュンヘンで行われた《ニュルンベルクのマイスタージンガー》や《ワルキューレ》の初演に聴衆として立ち会いました。

 ええ。ワーグナーはこの楽団の多くの音楽家を知っており、彼らを後にバイロイト音楽祭に招きました。その一人がリヒャルト・シュトラウスの父、フランツ・シュトラウスでした。バイロイトで最初のソロ・ホルン奏者となった人です。もっとも、フランツはワーグナーの音楽を好んでおらず、息子のリヒャルトは父親の影響で反ワーグナー派として育てられました。結局はワーグナーに魅了され、偉大なワーグナー指揮者になったのですけどね。しかし、シュトラウス最高のオペラは、ワーグナーの影響から離れた作品だと私は思います。そのひとつが、モーツァルトへのオマージュとして書かれた《ばらの騎士》でしょう。実は、私がバイエルン国立歌劇場で最初に手がけたシュトラウスのプロダクションが、2021年に新演出上演された《ばらの騎士》でした。今回このオペラからオーケストラ組曲を演奏します。

-モーツァルトもこの楽団とゆかりの深い作曲家ですよね。オペラ《イドメネオ》は1781年にミュンヘンで初演されました。

 モーツァルトがまさにミュンヘンの宮廷楽長の職を目指していた時期に書いた《イドメネオ》は、管弦楽の色彩の豊かさが特徴です。彼はこのオペラのいくつかの場面で、当時かなり珍しいことに4本のホルンを使いました。ただ、《イドメネオ》をコンサートで取り上げるのは難しいので、その代わりに上演される機会が稀な交響曲第32番を選びました。もともと別のオペラの序曲のために書かれた短い曲ですが、やはり管弦楽の色合いが豊かで、4本のホルンが使われています。モーツァルトの交響曲で4本のホルンが用いられるのは、ほかに「小ト短調」と呼ばれる第25番しかありません。

-日本ツアーへの期待が膨らみます。最後に、楽しみにしているファンへメッセージをお願いします。

 私はこれまでロンドンやベルリンのオーケストラと日本を訪れましたが、今回バイエルン国立管弦楽団と初めて日本に行けるのを心待ちにしています。ミュンヘンのオーケストラならではの、美しく、コントラストに富んだプログラムを披露する機会を得たことを嬉しく思っています。私たちは日本の聴衆の皆さまの前で演奏するのがとりわけ好きです。なぜなら、私たち音楽家は演奏に深く集中することができ、お客さまは静かで、同時に非常に感情ゆたかな反応をしてくださるからです。2023年に創設500年を迎えた、私たちの伝統の響きを心ゆくまで味わっていただけるものと確信しています。

【公演情報】
ウラディーミル・ユロフスキ指揮
バイエルン国立管弦楽団

2025年9月26日(金) 19:00 サントリーホール
2025年9月27日(土) 13:30 ミューザ川崎 シンフォニーホール
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2149/

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