2014/4/21

ニュース

  • Facebookでシェア
  • Twitterでツイート
  • noteで書く

【大好評!】座談会 Vol.2 プレトニョフの音楽とその魅力

プレトニョフ

プレトニョフ

プレトニョフの音楽の魅力を3名の専門家の皆様に語っていただく「座談会 Vol.2」です。
座談会 Vol.1はこちらから

・青澤 隆明・・・(以下A)
・寺西 基之・・・(以下T)
・伊熊 よし子・・・(以下I)

プレトニョフの世界に一度浸ったら、ひたすら突き進むのが良い。
脇目もふらずに・・・

I: 私はピアニストとして主に活動をしていた時期に何度かインタビューをしたことがあります。インタビューも個性的だったのですが、一番好きなピアニストはラフマニノフとミケランジェリだと言っていたのが印象的です。ラフマニノフもミケランジェリも作曲をした人で独特の個性がありました。だからそういうところを目指しているプレトニョフとしては、さっき皆さんがおっしゃったように、全部が有機的に結びついた上で、作曲家としての目で見ながら、ピアニストとして活動をしているのだと思います。そういう人はそんなに多くはありません。そういった意味でも彼のピアノは独特なのだと思います。誰かと同じような演奏では決してないので、プレトニョフの世界を楽しんで欲しいです。プレトニョフの世界に一度浸ったら、その世界に突き進むのが良いのではないでしょうか。
脇目をふらずに・・(笑)

A: 作曲家である側面はさておき、ピアニストのラフマニノフが好きというのは、彼の演奏からすると少々意外な気もしますね。

I: それとプレトニョフの音は本当に綺麗ですね。音にそんなに拘らないピアニストもいますが、そういった意味でも楽器に対する要求は高いのだと思います。

A: 自分が考えていることと実際の音を直結させたいという気持ちを強く持っているのではないでしょうか。精妙な技術と身体能力を駆使し、技術を超えて、音楽に直接触れて創造しているような演奏です。

I: 彼は自分の手が嫌いなんですよね?

実際、プレトニョフの手は小さいです。だからタッチが独特なのかもしれません。また、ものすごい運動神経の持ち主ですね。
I: 手首や指の使い方を工夫しているように見えます。手の小さい人は、例えばピリスやアシュケナージ、アルゲリッチ、ラローチャもそうですが、弾き方を工夫しています。それを見るのは楽しみのひとつです。

T: タッチコントロールも凄いですね。

I: 色々なことを克服しているのだと思います。

ピアノはすべてコントロールだとつねづね本人は言っています。

I: 精緻なんですよね。あの“弾き方”を見るとそう思います。

T: それこそミリ単位の話だと思います。音の強さにしても、音色の出し方にしても。

話題はリサイタル・プログラムのスクリャービンに。
I: それにしてもスクリャービンは楽しみですね。スクリャービンは彼の音に合っていると思います。

T: 色々な曲想の曲が出てくる作品です。彼の変幻自在な魅力が出てくると思います。

A: オーケストラ編曲で聴いているような印象を受けるかもしれませんね。スクリャービンの前奏曲は、1990年代半ばにヴァージン・レコードから素晴らしい録音が出ていたと思います。

T: あれからどう変わっているかも楽しみです。ただ予想がつかないところもあります。
いわゆるスクリャービンの暗いロマンティシズムといったロシア的なものと少し違ったものが表現されるのではないかという期待があります。

I: なにかもう少し神秘性があるように予想されます。聴いてみなければ分かりません
が・・ プレトニョフ独自の神秘性と言いますか・・

T: いわゆるスクリャービンの神秘性とは違うものですね。

A: プレトニョフは作品を未来に向かって拓いていくような展開をする人だと思います。
すべてが固定化した出来事ではない、というか・・・。

I: やっぱり響きだと思います。スクリャービンの響きをプレトニョフがどのように解
釈するかですよね。

A: 24曲を通じた大冒険になると思います。本当に何が起こるか分からないと言いますか・・

T: そのスリリングな面白さですよね。

I: どこか別世界に連れ去られるようなところが彼の演奏にはあると思います。異次元の世界に連れてってもらうと言いますか。スクリャービンの神秘性とプレトニョフ特有の世界に連れてってもらうという感じになるのだと思います。

A: 何かが“ハイパー”なんですよね!

一同 大きく頷きながら(笑)

作品の眠った部分を目覚めさせ、聴き手に異様な覚醒の体験をもたらす
A: “ハイパー”をどう説明するかというと、まず異様に立体的です。そしてスクリャービンに限らず、お二人がおっしゃられているように精妙なタッチコントロールから導き出される音の繊細な変化も含めて、すべてが明確な人だと思います。鋭敏かつ明確で、つまり何も隠し立てをしないのです。全部を暴いてしまう。作品の中にもし曖昧な要素があったとしたら、そういうものも含めて全部をクリアに見せてしまうのです。そしてそれを鮮やかなハプニングとして聴き手に迫ります。本来作品の中には眠っている部分があるかもしれない。それをプレトニョフは全部目覚めさせて、その目覚めによって聴き手に異様な覚醒の体験みたいなものをもたらします。プレトニョフの演奏を聴くことは非常に大きな集中力を要します。次の瞬間に何が起こるか分かりませんので・・ 生死に迫るようなところで作品を追求する容赦のなさとストイックさがあります。

T: すべての音を突き詰めて考えているからだと思います。どういう風に音の遠近や強弱、モチーフを出すか、普段聞こえてこない声部の浮き上がらせるのか、完全にすべてを把握した上で、明瞭に出してくるというのが彼の特徴だと思います。伝統的なスクリャービンの演奏は曖昧さなどを濁らしたり、ぼかしたりすることがありますが、それを彼は行わない。

A: 全部を表出すると言いますか・・ シューマンでも同じようなことが起こると思い
ます。

T: シューマンの協奏曲は初めて弾くということで楽しみですよね。

長い音楽家人生の中で、この年になって初めて良さが分かったと本人は言っています。
今はシューマンの協奏曲を随分気に入って世界中で弾き始めています。
A: とても興味深いですね。シューマンの作品は全体としての説得力を導くのが難しい部分もありますし、未解決な部分が残っていたりします。それをプレトニョフがどのように解決というか、彼なりの確信と読みを持った表現を出してくるかという点が興味深いです。

T: 解決というのではないかもしれませんね。むしろ作品の問題点をしっかり出してくるのかもしれません。

A: なにかを暴き立ててしまう人なんですよね。

I: オーケストラの弾き振りしていた時にオーケストラの配置にすごく拘っていました。
まずピアノの蓋をすべて開けて、自分とピアノを向かって左側に配置して、全部楽員の顔を見ながら演奏するのです。今回、指揮者はいますが、楽員と顔を見合わせ、オーケストラと濃密なコミュニケーションをとりながら演奏するというような音の対話が出来る人ですので、オーケストラとの対話がどのようになるのか、それが私にとって今回のシューマンのピアノ協奏曲の楽しみな点です。

A: シューマンの協奏曲はオーケストラにも多くが要求されますが、度重なる共演で通じ合う東京フィルの仲間たちですから、安心感をもってより自由自在に演奏するのではないでしょうか。あれだけ自分でピアノが弾けると、他者に対する要求も厳しいと思いますので。

T:
 モーツァルトの協奏曲は以前の演奏ではかなり極端なフレージング、アーティキュレーション、テンポ、アゴーギクなどをしていたのですが、果たして今回どうなるのか。8番の協奏曲というところがまた面白いですね。

A: 逆にオトナシクする可能性もあるでしょうか??

一筋縄で行かないところも魅力
T: たまにこっちが構えていると普通に演奏して、あれ? ということがあるんですよね。そういうところ、この一筋縄で行かないところがまた魅力なのではないでしょうか?

一同笑い

A: とにかく創造的な音楽家であることは間違いありません。今回モーツァルト、シューマン、スクリャービンのほかにバッハもありますが、その時代のオーセンティックな見解にある限度があるとすると、プレトニョフが見ている作品像はもっと大きく立体的な空間の中で捉えられているように思います。20世紀以降の作曲家としての自分の理念の中で見てきた響き、指揮者としての経験からくる響きの理解をもって広がったキャンパスの中に、大きく投影していくようなところがあります。例えばモーツァルトでも、往時の演奏様式の表現に捉われることはありません。モーツァルトが彼の時代に示した前衛的で実験的な精神を現代において具体的にデモンストレートするように演奏します。寺西さんがおっしゃった、演出家的な要素に通じるかもしれませんが、とにかく芝居小屋が広いんですよね。

T: その通りだと思います。例えばベートーヴェンの協奏曲のCDが出た際のインタビューの中で「最近流行の古楽的なアプローチはまったく意味がない」とはっきり言い切っていました。要するにその時代の演奏習慣に即して今の時代にやっても意味が無いということです。ピリオド系の演奏スタイルが現在主流になってきて、そのような演奏が20世紀的な演奏スタイルを崩してきたわけですが、プレトニョフはそのようなアプローチではなく、現代に則したアプローチで新しいものを生み出している、創造しているというところがあると思います。ある意味では問題提起というとこともあるかもしれません。

A: プレトニョフにはロマンティストな面もあると思いますが、聴衆にみせる顔は「進歩主義者」的な側面が強いですね。未来に何があるかを示そうとして音楽活動をしている人だと思います。

T: そうですね。未来志向だと思います。

A: 現代では、未来志向というか進歩的な思考は持ちにくくなっていると思います。どこかで皆行き詰まりを感じている。そういう中で非常に強い意志で未来への確信を貫こうとしている稀な音楽家だと言えると思います。

Vol.3へ続く……

—————————————
ついに復活!ロシア・ピアニズムの巨匠
ミハイル・プレトニョフ リサイタル&コンチェルト

<<協奏曲の夕べ>>
2014年05月27日(火) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
<<リサイタル>>
2014年05月29日(木) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール

プレトニョフ

公演の詳細はこちら

ページ上部へ