2024/10/25

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【インタビュー】阪田知樹 リスト~ピアノ協奏曲の夕べ

阪田知樹インタビュー1

©︎千葉秀河

高坂はる香(音楽ライター)

—2025年は一夜でリストのピアノとオーケストラのための4つの作品を演奏するという大変なプログラムに取り組まれます。リスト好きとして知られる阪田さんですから、やはりこの演奏会が実現することは嬉しくてたまらないですか?

 はい、このような重要なレパートリーをすばらしい共演者のみなさんとサントリーホールで演奏する機会をいただけて、本当にありがたいです。
 2023年のラフマニノフ・イヤーに5曲の協奏曲を1日で弾いたコンサートが好評で、またやってほしいというお声をたくさんいただいていたのですが、全く同じプログラムよりはなにか新しい挑戦をしてみたいと、リストのピアノと管弦楽のための主要作品を集めることにしました。
 「リストの真髄をこの一夜で聴いていただく」というのが、この演奏会を説明するうえでは一番しっくりくるフレーズですね!

—リストへの道がまた一歩先に進みそうですね。

 そうですね、髪の長さだけでなく、音楽的な意味でも(笑)。
 リストについては、一般的に少し苦手だと思っている方もいるのが現状なので、そんな方に彼の魅力を伝えたいという想いもあります。私にとって、とても大切な一夜になると思います。

—改めて、リストのどんなところがすごいのでしょうか。

 彼自身が優れたヴィルトゥオーゾであり作曲家だったことはもちろんですが、やはり、自分の経験を若い世代に伝え、優れた弟子をたくさん育て、世界水準でピアノ演奏のレベルを上げた人だというところを尊敬しています。
 作曲の分野でも、グリーグやスメタナ、フォーレなど、才能ある次世代の作曲家の背中を押して、彼らの活躍を助けました。さらにはシューマンやベートーヴェンという前の時代の作曲家の作品も積極的に演奏し、時にはピアノ用に編曲して人々に広めました。今私たちが優れた作品を享受できているのは、リストのそんな功績によるところも間違いなくあると思います。
 音楽界に大きな影響を与えたという意味で、音楽家として一つの理想的な形だと思います。

—一方で、若き日の女性関係はじめ人間らしいエピソードもたくさん知られていますね。

 そうですね、そのあたりに人間的な矛盾を感じるところがまたいいのです。だからこそ彼の音楽には、天使と悪魔が両方あるように感じられるのでしょう。そういう二面性に私はすごく惹きつけられます。

—数あるピアノと管弦楽のための作品から、この日は第1番と第2番の協奏曲、「死の舞踏」、「ハンガリー幻想曲」を演奏されます。それぞれの作品にどんな想いがありますか?

 まず、4曲中、私が一番好きな作品を選ぶとすれば、ピアノ協奏曲第2番です。物語の要素、前述の二面性の要素が強く現れています。
 オーケストラが最初に奏でる旋律が徐々に変化して最後は別物になるという作曲手法には、リストのピアノソナタに通じる個性が感じられます。ピアノ入りの交響詩のようです。それまでのピアノ協奏曲と全く異なる革新性も好きです。
 「ハンガリー幻想曲」は、ハンガリー狂詩曲第14番を改定してピアノ協奏曲の形にしたもので、リストのハンガリー人だという自覚や愛国心の強さが伝わってくる楽曲です。また「死の舞踏」は私が2016年にリスト国際コンクールに優勝したときファイナルで演奏した、思い出のレパートリーです。
 そして、これまで折りに触れてたくさん演奏してきたのが、ピアノ協奏曲第1番。リストは、チェルニーのもとで学んだ自分はベートーヴェンの孫弟子にあたると強く意識していて、ベートーヴェンの「皇帝」を数え切れないほどの回数弾いたといいます。そして、いざ自分が初めて協奏曲を書くとなって、「皇帝」と同じ調性、ファンファーレ風のオーケストラに続けてすぐに華やかなピアノが入るという「皇帝」に似たはじまり方を選びました。ベートーヴェンの孫弟子としての意識があらわれた、とても重要な作品だと思います。
 作曲するうえでは、その人ならではのポリシーがあることがとても大切です。例えばリストは、ベートーヴェンが31番のソナタで行った、多楽章を一つに結びつけることを発展させて、ロ短調ソナタや二つの協奏曲を書いたといえます。そこには、自分は歴史を引き継いでいるのだという、リストの作曲家としてのポリシーがよく現れていると思います。

—長くリストに向き合い、いろいろな先生のもと学ぶ中で、記憶に残っていることはありますか?

 ピアノ協奏曲第1番は、私が10年間お世話になったパウル・バドゥラ=スコダ先生が長い時間をかけてレッスンをしてくださった曲です。スコダ先生というとウィーン古典派のイメージが強いかもしれませんが、彼の先生はエドヴィン・フィッシャーというリストの孫弟子にあたる方でしたから、“その系譜にいる自分のリストは正統派の演奏だ”とよくおっしゃっていましたね。
 ピアノ協奏曲第2番のほうは、もう一人お世話になった師であるタマーシュ・ヴァーシャーリ先生のもとでたくさん勉強しました。ハンガリーのピアニストですから、先生ご自身にたくさんこの曲を演奏した経験があり、そこから多くのことを教えてくださいました。
 こうした先生方から伝統やアイデアを受け継いだ部分と、実際に自分で勉強して繰り返し演奏する中で発見したことをあわせて、より進化した音楽をお届けできるのではないかと思います。

—長く触れていると、作品への理解や感覚も変わってきますか?

 変わりますね。この前約1年ぶりにリストの2番の協奏曲を演奏したのですが、改めてこの曲の特殊性、例えば美しいチェロのソロが作品全体に影響を及ぼしていく様などに気づいて、作品への尊敬がより大きくなりました。
 毎日会うお友達の変化には気づきにくいけれど、1年ぶりだと自然と変わったところがわかる感じに似ているかもしれません。次に弾くまで半年以上開くので、また新たな魅力を発見できると思います。

阪田知樹2

©︎千葉秀河


阪田知樹 リスト~ピアノ協奏曲の夕べ

≪公演情報≫
リストのスペシャリストによって描き出される“リスト像”
阪田知樹 リスト~ピアノ協奏曲の夕べ
日時:2025年1月23日(木) 19:00
会場:サントリーホール
出演:阪田知樹(ピアノ)、角田鋼亮(指揮)、東京フィルハーモニー交響楽団
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2117/


◆阪田知樹のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/tomokisakata/

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