2023/7/18

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第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクールが今秋開催!

第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール

2023年10月5日~15日、ワルシャワで『第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール』が開催されます。
コンクールに先駆け、去る6月、東京都内でショパン研究所による記者会見が行われました。
音楽ライター・高坂はる香さんによる、ショパン国際ピリオド楽器コンクールの取材記事を紹介いたします。

第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール

執筆:高坂はる香(音楽ライター)

近年、ピリオド楽器の魅力、そして、ピアニストが作曲家が生きた時代の鍵盤楽器はどんなものだったか知る意義が、ますます広く認識されてきています。2018年にワルシャワでスタートしたショパン国際ピリオド楽器コンクールは、間違いなくその流れを後押ししているといえるでしょう。

 第1回ではポーランド生まれのトマシュ・リッテルさんが優勝。現代ピアノに加え、モスクワ音楽院でアレクセイ・リュビモフさんらにピリオド楽器を学んだピアニストです。
 また第2位には日本の川口成彦さんが入賞。コンクールの様子がNHKのドキュメンタリーで取り上げられたこともあり、川口さんは活動の場を大きく広げました。東京藝術大学とアムステルダムの音楽院でピリオド楽器を学んだ彼は、「それまでは古典派の作曲家にフォーカスしていて、ロマン派よりではシューベルトくらいまで。でもこのコンクールをきっかけに、ショパンをはじめロマン派の作曲家を集中的に学び、とても良いターニングポイントになりました」と振り返っています。
 これはまさに、ショパン研究所がこのプロジェクトで伝えたかったことのひとつ——人気作曲家ゆえ、ピリオド楽器ブームの中でもモダンピアノで弾くことが当たり前となり続けたショパンについて、ショパンが作曲していた楽器で弾くからこそ見える本当の魅力を浮き彫りにすること——を体感し、活動を広げた例といえるでしょう。

第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクール

 10月5〜15日に開催される第2回を前に、6月、東京都内で行われたショパン研究所による記者会見によれば、同研究所はショパン博物館再オープンに向けて、2003年からショパンの時代の楽器の収集を始めたといいます。1849年製エラールを最初に、現在では複製品も含め十数台を所蔵。中には、ショパンが使ったとされるプレイエルや、彼がイギリスのプレイエルと呼んで親しんでいたブロードウッドもあります。
 手稿譜の収集も進め、現在全体の3分の2ほどが集まったそう。これらの楽譜と楽器を用いた演奏により「現代の楽器による演奏の中で失われてきた」ショパン音楽の特性を再発見することを目標に活動。「こうした資料収集を軸に研究を行うなか、ショパン学という学問に生まれていると思う」と、ショパン研究所ディレクターのシュクレネルさんは話します。
 ショパンの本来の響きを世界に伝えていく。そのために人々の関心を引くことができるのはコンクールであるということを、90年以上にわたり本家のコンクールを行ってきた経験から実感し、このピリオド楽器コンクールの創設に至ったといいます。

 第2回コンクールの応募者は、24ヵ国84名。川口さん活躍の影響もあるのか、そのうち日本からの応募は最多となる23名で、続くポーランドの15名を上回っています。
 そして映像と書類による審査の結果、14ヵ国35名の出場者が選ばれ、そのリストが予定通り7月中旬に発表されました。日本からはやはり最多の10名、続いてポーランドから6名、イタリアから4名となっています。
 顔ぶれを見ると、ピリオド楽器奏者としても活動する面々と並んで、モダン楽器のショパンコンクールで見かけたピアニストも目立ちます。ショパンの心を理解したうえで、ピリオド楽器演奏のしきたりをどこまで再現するのか、または現代だからこその感性を取り入れていくのか、千差万別のアプローチを見ることになりそうです。
 ちなみにコンクール事務局としては、開催の目的に、「ピリオド楽器ならではの特性とショパンの作品様式の現代的再解釈とを統合すること、その2つの世界を1つの芸術的表現という形にクリエイティヴに融合すること」と記しています。両方のアプローチを良いバランスで取り入れることが求められている、ということなのでしょうか……。
 いずれにしても、コンテスタント側には当然、“モダンピアノに戻った時の経験のためにピリオド楽器を勉強する”というレベル以上の探究が求められるところ。豊かな感性だけでなく、幅広い知識が必要となります。
 1次予選ではショパンに加え、J.S.バッハ、モーツァルト、そしてポーランド作曲家のポロネーズが課題。2次予選はオールショパン、そしてファイナルは、2つのピアノ協奏曲をはじめとするピアノと管弦楽の作品を選択し、審査員でもあるヴァーツラフ・ルクスさん指揮、{oh!} オルキェストラ・ヒストリチナと共演します。
 ピアノは、19世紀製のエラール、プレイエル、ブロードウッド、また、ポール・マクナルティによるグラーフやブッフホルツの複製など、複数の楽器から選択。モダンピアノのコンクールと違い、1ステージで複数の楽器を使用できるので、作品にあわせてどれを選ぶか、その判断力も試されます。

 審査員は、ヤヌシュ・オレイニチャクさん、エヴァ・ポブウォツカさん、ヴォイチェフ・シフィタワさんといったモダンピアノのショパンコンクールでお馴染みのポーランド勢に加え、アンドレアス・シュタイアーさんやパオロ・ジャコメッティさんといったピリオド楽器のスペシャリストら、9名を予定。
 前回は、ピリオド楽器専門の面々とモダン楽器のピアニストの間で、評価基準にどんな違いがあるのか、そのすり合わせがどの程度行われているのか、逆に多様な評価基準をそのまま反映させるとどんな結果がもたらされるのかが問題となるところもありました。
 5年を経て行われる2回目ということもあり、そのあたりの問題はどこまで突き詰められているでしょうか。新たな視点とレベルの高い演奏に出会える、見どころの多いコンクールに期待しましょう。


2024年1月には、同コンクール優勝者が来日し、東京、浜松、西宮で優勝者記念公演を開催予定!東京公演では、鈴木優人指揮バッハ・コレギウム・ジャパンと、ピリオド楽器でのピアノ協奏曲演奏を予定します。どうぞご注目ください。
https://www.japanarts.co.jp/news/p7942/


◆鈴木優人のプロフィールは下記をご参照ください。
https://www.japanarts.co.jp/artist/masatosuzuki/
◆バッハ・コレギウム・ジャパンのプロフィールは下記をご参照ください。
https://www.japanarts.co.jp/artist/bcj//

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