2023/4/21

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ディアナ・ダムラウ&ニコラ・テステの曲目解説が届きました!

6年ぶり待望の来日!ディアナ・ダムラウ&ニコラ・テステのオペラ・アリア・コンサート、岸純信氏(オペラ研究家)による作品解説を公演に先がけてこちらでご覧いただけます。Kings&Queensの世界をたっぷりご堪能ください。

ディアナ・ダムラウ&ニコラ・テステ

PROGRAM NOTES

岸 純信(オペラ研究家)

ロッシーニ:歌劇《セミラーミデ》より
      序曲
      「麗しい光が」

 ジョアキーノ・ロッシーニ(1792-1868)は、当時のイタリア人でただ一人モーツァルトを敬愛。リズムの規則正しい古典派の「最後の巨匠」として、喜劇のオペラ・ブッファと、格調高い英雄劇・歴史劇などを扱うオペラ・セリアの両分野でオペラ界を席捲した、19世紀前半の大作曲家である。
 本日は、彼のオペラ・セリアの最高傑作《セミラーミデ》(1823)から、二つの聴きどころをご紹介。セミラーミデは古代バビロニアの女王であり、夫の国王を毒殺して即位したという。ただ、彼女は亡夫との間に息子を儲けていたが、その子が幼いうちに行方不明になったことを悲しんでいた。時が経ち、若き武将アルサーチェを見初めた女王は彼に恋してしまうが、実は、そのアルサーチェこそ、息子の成長した姿であったことで、悲劇の幕が開く。
 まずは序曲の演奏から。19世紀の当時、イタリア・オペラの序曲はシンフォニア sinfoniaと呼ばれたが、このシンフォニアは劇中の複数のメロディを繋ぎ合わせた「ポプリ(接続曲)」の構造を採る大曲。指揮者パーヴェル・バレフのきびきびとした棒捌きをお楽しみに。
 続いては、第1幕中盤でセミラーミデが、アルサーチェとの再会を待ち焦がれて歌う華麗なアリア〈麗しい光が〉。歌手の裁量で装飾音型を幾つも足し、旋律線の基本形を自由に - ただし、上品に - アレンジできるベルカント・オペラの名曲として、ダムラウの鮮やかな声の技と共にじっくりと味わって頂こう。


トマ:歌劇《ハムレット》より「私は貴男に懇願する、おお、兄上よ!」

 アンブロワーズ・トマ(1811-96)は、パリ音楽院長も務めたフランス楽壇の実力者。オペラ史ではゲーテ原作の《ミニヨン》(1866)とシェイクスピアの悲劇のオペラ化《ハムレット》(1868)で名を遺すが、本日は《ハムレット》第3幕から国王クローディウスのエール【アリア】が歌われる。王は、暗殺した実兄(先王)の魂に首を垂れ、神の赦しを請うが、本作では王妃(主人公の実母)も先王殺しの事実を把握しているので、原作よりもドラマの業が深い。テステの哀感ある声音が際立つ一曲であり、フルート重奏の神秘的な響きにもご注目を。


アダン:歌劇《我もし王なりせば》より序曲

 バレエ《ジゼル》で名高いアドルフ・アダン(1803-56)は、オペラ界の隠れた功労者。「新人作曲家にさらなる登竜門を!」と政府に請願書を出し、パリ第3の歌劇場と謳われるテアトル・リリックを作らせた「行動する作曲家」である。オペラでは《ロンジュモーの郵便御者》(1836)が人気だが、次に知名度ある一作が、そのテアトル・リリックで初演の《我もし王なりせば》(1852)。物語は、西洋人に狙われる南西インドの王国の危機を青年漁師が救い、王女と結ばれるというもの。この序曲では、中間部の打楽器の清冽さや終盤部の弦の華々しさをお楽しみに。


ハジエフ:歌劇《マリア・デシスラヴァ》より「偉大なる神よ、私の願いを聞いてください」

 オスマン・トルコの支配が長かったブルガリアでは、母国語のオペラ作りは19世紀末に漸く始まったが、中で最も成功した作曲家がパラシケフ・ハジエフ(1912-92)である。未完作を含め、彼は21作のオペラを手掛けたが、全7場からなる《マリア・デシスラヴァ》(1978、ルセ)は13作目にあたり、イスラム教徒に抑圧されるも篤い信仰心を守り抜いた人々を描いている。題名役のマリア・デシスラヴァは14世紀の第2次ブルガリア帝国に実在した王女の名。このアリアで彼女は、死を覚悟しつつ、神の救いを求めて必死に祈る。ダムラウの白銀の声音が輝くさまに聴き入って頂こう。


グノー:歌劇《シバの女王》より「一人の女性の足元に」

 瑞々しい旋律美が光るシャルル・グノー(1818-93)。彼の《シバの女王》(1862、パリ・オペラ座)は、知名度の高いアリアやバレエ曲を幾つも含む、佳作と呼びたいオペラ。今回歌われるのは第4幕のソリマン王のカヴァティーヌ。女王が来ないことに苛立つも、王者の矜持は保つべく、三連符を連ねる緩やかな四拍子の上で、美女の魅力に勝てない自らを彼は切々と歌い上げる。なお、締め括りの部分にグノーは二つの選択肢を置いており、テステが難易度の高い方を選んだなら、ヘ音記号の五線譜下のホ(ミの音)が厳かに鳴りわたるだろう。


ドリーブ:バレエ《歓楽の王》よりガイヤルド

 フランスの文豪ユゴーの戯曲『歓楽の王(王様はお楽しみ)』(1832)は、体制批判が強すぎ、初演後すぐ上演禁止となったが、後にヴェルディの歌劇《リゴレット》の原作に用いられ、1882年には初演50周年記念で完全復活した。その際、歌劇《ラクメ》やバレエ《コッペリア》で知られるレオ・ドリーブ(1836-91)が劇付随音楽を提供し、6つの舞曲が後に組曲になった。本日は第6曲〈ガイヤルド〉をお聴き頂こう。ガイヤルドはスピーディーな3拍子のダンス。跳ね飛ぶステップを特徴とし、リズムの刻みが耳を惹く。


ドニゼッティ:歌劇《マリア・ストゥアルダ》より「私のタルボ」

 イタリアの作曲家ガエターノ・ドニゼッティ(1797-1848)は英国にルーツを持つともいわれるが、確かに、彼はブリテン島の物語を好み、この《マリア・ストゥアルダ》もスコットランドの女王メアリーの悲劇を描いている。なお、実在の女王二人(相手はイングランドのエリザベス1世)が対立する筋立てが検閲に拒まれた結果、本作は設定を変えた《ブオンデルモンテ》として初演され(ナポリ、1834)、翌年にミラノで本来の題に戻して披露された。この二重唱(第2幕:版によっては第3幕)は、マリアが忠臣タルボに過去の罪を懺悔し、「贖罪のため死ぬ」と決心する一場。テステの滋味とダムラウの毅然とした表現法をお楽しみに。


ヴェルディ:歌劇《ドン・カルロ》より「ひとり寂しく眠ろう」

 ジュゼッペ・ヴェルディ(1813-1901)がパリで初演した全5幕の《ドン・カルロス Don Carlos》(1867)は、フランス語の台本に拠るオペラながら、今はイタリア語訳詞の上演が多く、《ドン・カルロ Don Carlo》の訳題が一般的。このアリアは第4幕(4幕版の場合は第3幕)でスペイン国王フィリップ2世が憂いを独白する名場面。新しい妻に愛されず、王子のカルロスの心も掴めぬ権力者の孤独さが、淡々とした旋律美に色濃く滲む。前回のリサイタルで圧倒的な喝采を得たテステの歌いぶりは、明晰な発音と柔和な響きを融け合わせたもの。今回も、解釈の深みをお聴き逃しなく。


ドニゼッティ:歌劇《アンナ・ボレーナ》より「ああ、この純真な若者は」

 本作も勿論、イングランド史に名高い王妃アン(アンナ・ボレーナ)の悲劇を描くオペラ。1830年にミラノで初演されたドニゼッティの出世作である。この一曲は、アンナの登場のアリア(第1幕)。国王エンリーコの心が離れつつあると感じる一方で、彼女は、若い日の恋人の面影が忘れられない胸中を独白。高い地位を得ても満たされぬ女心がじっくりと歌われる。前半で抒情性を十分に表し、後半ではコロラトゥーラの肌理細やかなフレーズを力強く歌い上げるダムラウの、飛び切りの歌の技をご堪能あれ。


チャイコフスキー:組曲第1番ニ短調作品43番より第6曲ガヴォット

 帝政ロシアの作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840-93)の名は、交響曲《悲愴》やバレエ《白鳥の湖》で御馴染みだが、作風には西欧的な色彩が強い。フランス語に秀で、青年期からたびたび欧州を訪れた彼だけに、その楽才には自国の風土を愛する心と他国の文化に親しむ姿勢が絶妙なるバランスで共存する。この《組曲第1番》(1879)の第6曲〈ガヴォット〉も、四拍子のフランス古典舞曲のリズムに基く佳曲。弦のピツィカートの飄々とした風情と中間部のバロック的なメロディをお楽しみに。


チャイコフスキー:歌劇《エフゲニー・オネーギン》より「グレーミンのアリア」

 チャイコフスキーのオペラの代表作は、やはり文豪プーシキンの韻文小説に基づく《エフゲニー・オネーギン》(1879)だろう。このアリアは、第3幕の夜会の場で大貴族グレーミン老公爵が歌うもの。彼は若い妻を迎えた嬉しさを素直に口にするが、その妻こそは、かつてオネーギンがすげなくしたタチヤーナ。この「人生の皮肉」が場面の背景となる。本日は、滑らかな旋律美に沿うテステの柔和な歌いぶりにご注目を。


ベッリーニ:歌劇《ノルマ》より
      序曲
      「清らかな女神よ」

 耽美的なメロディづくりを得意としたヴィンチェンツォ・ベッリーニ(1801-35)。シチリア島生まれの作曲家だが、中でもオペラ《ノルマ》(1831)は、主人公ノルマ(古代のドルイド教の巫女)の歌が余りに難しく、ソプラノに対し、「この役を歌えてこそ、ベルカントの名手」と認識する聴き手が昔から多い。
 それではまずは序曲(シンフォニア)から。この曲も接続曲の形を採り、処女であるはずの巫女なのに、実は、敵方ローマの大将との間に密かに子供を儲けたというノルマの不安な胸の内が、嵐のように表現されてゆく。
 そして、本日の掉尾を飾る一曲として、第1幕の主人公登場のアリア〈清らかな女神よ〉を。月の女神に祈るノルマは、ゆっくりした曲調のもと、音符の連なりを極めて細やかに歌い繋ぐことで「巫女の神性」を発揮する。練り上げた声の技を持ち、息の力に余裕のある大ソプラノだけが乗り切れるこの難曲で、ダムラウの芸術性の真骨頂を堪能頂こう。


ディアナ・ダムラウ(ソプラノ)Diana Damrau, Soprano
ニコラ・テステ(バス) Nicolas Testé (バス, Bass)

◎公演情報
ディアナ・ダムラウ&ニコラ・テステ オペラ・アリア・コンサート
6年ぶり待望の来日!
ディアナ・ダムラウ&ニコラ・テステ オペラ・アリア・コンサート
日時:2023年5月23日(火) 19:00 / 2023年5月27日(土) 18:00
会場:サントリーホール
出演:ディアナ・ダムラウ(ソプラノ)、ニコラ・テステ(バス)、パーヴェル・バレフ(指揮)、東京フィルハーモニー交響楽団
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2012/

ディアナ・ダムラウ&ニコラ・テステ
ディアナ・ダムラウ&ニコラ・テステ
ディアナ・ダムラウ&ニコラ・テステ


◆ディアナ・ダムラウのアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/dianadamrau/

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