2013/12/26

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ジュリー・ケント インタビュー<1>[アメリカン・バレエ・シアター ABT]

“ABTを代表するバレエ・ダンサー”として活躍するジュリー・ケント。
ロマンティックな表現と、優雅な踊りでアメリカはもちろん世界中にファンが多いケントに電話インタビューを行いました。
ジュリー・ケント

―ケントさん、今日はインタビューに応じていただきありがとうございます。
ジュリー・ケント(以下、JK):こちらこそ。どうぞよろしくお願いいたします。

―まず、ダンスの表現についてお聞かせください。ケントさんは、独特な繊細な身体表現をされるダンサーです。体の動きのすべてがストーリーのクライマックスに向かって集約されていき、見ている私たちに大きな感動を与えます。本拠地のメトロポリタン歌劇場(ニューヨーク)で、今シーズンの「白鳥の湖」でもそうでした。2014年春の日本で踊られる「マノン」にも、私たちはそのような感動を期待しています。あなたの特別な表現能力には、何か秘密があるのでしょうか? どうやってそのような演技の領域に到達されたのですか?
JK : 質問されているより、すごく褒められてしまった!という感じですね(笑)。嬉しいわ。そうですね、どうお答えしたらいいかしら。私の場合は、ステージを終えて1日の最後に、ストーリーの展開を振り返り、その日の観客のみなさんを、ひとりやふたり、ということではなく全員を、感動させることができたかしら?と、考えるのです。みなさんの心をどこか、現実ではない世界に連れて行くことができたかしら?そして、その非現実のドラマの中に、みなさんをしっかり結びつけることができたかしら?と。私にとってそれがいちばん大事なことなんです。振付や踊りのテクニック、体の動き、といったものは、すべてその大事な表現に至る手段です。動き、そしてダンスが、ただ「踊っているだけ」ではいけない。私はストーリーを「語り」たいのです。
私がいつも気をつけていることは、ひとつひとつの体の動きが、主人公の内面をどのくらい投影できるかにあるのです。それを見た人に、「何かが伝わってくる」と感じてもらえなかったら、意味がないでしょう。どうしてここでこんな動作をするのか、という理由です。私はそう考えて踊っています。おそらく他のダンサーの人たちも「自分のやり方」を持っていると思います。私のように長いキャリアを積むと、「これが自分のやり方」ということが見えているし、また、どこをさらに発展させたらいいかもわかってきます。ダンサーとしての潜在的な能力に深く関わってくることですが、自分の中にある感覚の正体を見抜き、具体的な表現に結びつけ、さらに真摯に全力を向けられるか、という問題でしょうね。まだまだ努力は続きます。

―教えていただきたいのは、どんな人にもアイデアは浮かぶと思うのです。けれども、それを身体の機能にいかに結びつけるか、という方法は、ダンサーにより千差万別で、ケントさんは究極まで磨かれていますよね?
JK : そのように見ていただけているのでしたら、本当に嬉しいです。

―今回踊っていただく『マノン』の主人公マノンは、子供っぽい女性で、物欲が強く、わがままで、だからこそデ・グリューにとってファム・ファタール(=魔性の女)となりますね。
JK : そうです。

―これが、マノンという女性に対する定番の解釈ですけれども、ケントさんご自身は、独自の解釈を付加しておられますか?
JK : 言葉にしますと、今のご指摘で十分だと思います。ですが、さらにひとつ言えること、これが彼女を描写する鍵になりますが、「それなのに、誰もが彼女を愛した」という事実でしょうね。人々を振り回し、愚かな決断をする少女であっても、彼女は愛されたのです。ここで目を向けるべきなのは、彼女が生きた社会の背景です。時代はいつだったか?それは1700年代のフランスです。食べるものがなければ、一般の人たちが道ばたで死んでいたような時代だったわけで、人生の選択肢など非常に少なかった。「生きること」ができなければ「死んでしまう」、そんな二極だけだったのです。「どう生きるか」などというバリエーションが少なかったと思うのです。現代とは違います。
ですから、裕福でなく、収入のなかったマノンが、何か仕事を見つけるという発想は、可能だったでしょうけれど、とても選択肢が少なかった、と想像できます。ですから追い詰められた彼女がどう振る舞ったか、という点について、現代の女性と比較してはいけません。200年の歴史を遡って考えなければね。
そして、軽薄な行動をとる女性だったにもかかわらず、彼女には人の心に「愛しい」と感じさせるものがあったのでしょう。みんなが彼女に自然に関心を寄せるのですね。惨めな転落の方向にすすんでも、手助けしようと、彼女を理解しようとする人がまだ周りにいる、そういう女性だったのです。

ジュリー・ケント

―非常に面白い観察ですね。私たちは日本人なので、ヨーロッパの長い歴史についてよく知っているとは言えません。
JK : 私も『マノン』を踊るために、 アヴェ・プレヴォーの「マノン・レスコー」の原作だけでなく、同時代のフランス文学の他の作品もいくつか読んでみました。そうやって知識を得て、時代をわかると、「そうだったのか、そんなふうにあっさり、人が餓死したりしていたのか」とか、「財産がある人たちは、そうでない人たちに比べて、こんなにもいろんな選択肢を持っていたのか」など、実感が湧かなかったことに対して理解が深まりました。マノンの取った行動も、ある意味、仕方がなかったのかしら、と。

―そうでしたか。バレエ・ダンサーも、歴史の勉強などあらゆることを知らなければいけないですね。読書は必須ですか?
JK : もちろんです。自分が演ずる役柄を、表面的ではない生き生きした人物にしたければ、その人物の生きた時代や世界を知るべきです。また、それはとても楽しい勉強のはずです。原作を読むこと、自分とは違う世界を知ること。幸い、17世紀や18世紀世界文学の多くの名作が英語で出版されていますので、私はそれらの本を読み、「そうか、今の私たちとはこんなに考え方が違ったのね」、といったことや、文章の記し方も行動も、特にバレエの役柄には恋愛や愛情の表現は大切なのですが、そのためのヒントもたくさん得ることができます。そもそもクラシック・バレエという芸術が大きく発展したのは、ちょうどその時代でもあります。そのころの小説の描写は、参考になる情報で溢れているんです。そんな知識が、最終的にどんな振付で、どんなパ・ド・ドゥで感情を表現するか、というところに繋がっていくのです。

―バレエ『マノン』は、振付そのものが大変高度ですが、演技に気を配りながら、テクニック面でも気をつけなければならない場合、どのようにしてバランスをとっているのですか?
JK : ケネス・マクミランの振付作品は、パ・ド・ドゥなど確かに非常に難しいのですが、素晴らしいところはダンサーに挑戦が求められるところです。彼の作品はその要所要所で、ダンサーたちが明確に動きを行うことで、自分たちの力量で「表現」が達成できるように作られています。ギャップがないんですね。動きが難しいからといって、私たちがそれにとらわれすぎて表現からかえって遠くなる、ということが起こらない。マクミランの作品は、物語の進行を忠実に表すようにできています。テクニック的に非常に高度な場合でも、です。踊る立場としては大きな喜びを感じます。彼は、ダンサーが充実感をもって踊れるようにと、考えた上で振付けているのです。どんな人物もその性格がきっちりと振付に表れています。

<2>へ続く・・・・


アメリカン・バレエ・シアター2014年来日公演
詳しい情報はこちらから
≪くるみ割り人形≫
 2月20日(木) 19:00
 2月21日(金) 13:00
 2月21日(金) 19:00
 2月22日(土) 13:00
≪オール・スター・ガラ≫
 Aプロ 2月25日(火)18:30
 Bプロ 2月26日(水)18:30
≪マノン≫
 2月27日(木) 18:30
 2月28日(金) 13:00
 2月28日(金) 18:30
 3月1日(土) 13:00

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