2022/1/17

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1月28日(金)Hakuju Hall「尾崎未空 ピアノ・リサイタル」本人によるプログラムノートを公開!

尾崎未空

1月28日(金)Hakuju Hallにて<プラチナ・コンサート・シリーズ Vol.10>「尾崎未空 ピアノ・リサイタル」を行う尾崎未空本人によるプログラムノートを公開いたします!
PDFでもご覧いただけますので公演前にぜひご覧ください。
(※公演当日、会場でのプログラムノート配布はございません。)

尾崎未空
PDFはこちらから


《プログラムノート》
リサイタルに関心を寄せていただきありがとうございます。今回は3人の作曲家を取り上げ、ピアノという楽器でこそ可能な、多様なプログラムを演奏いたします。近年私が特に身を注いでいるドイツ音楽から、古典派とロマン派の時代の狭間に生きたシューベルトとベートーヴェン。そしてそのほぼ100年後、様々に変化した音楽が混在する音楽界の中でも、特に衝撃的なスキャンダルを起こしたストラヴィンスキー。それぞれが時代を切り開くのに欠かせなかった芸術家であり、彼らの作品から感じるエネルギーと美しさには幾度となく感動させられます。そんな何度でも聴きたく、演奏したくなる名曲・傑作と共に、皆さまと時間を共有できることを楽しみに・・・。

シューベルト
・即興曲集 第3番 変ロ長調 D935 Op.142-3
オーストリアのウィーン郊外で生まれたフランツ・シューベルト(1797-1828) は、少年合唱で歌っていた頃から誰もが一目置くほどの天才でした。たった31年の人生の中で数多くの歌曲はもとより、交響曲や室内楽曲、ピアノ曲、宗教曲などの各分野で名曲を残しています。生涯安定したポストに就くことなくフリーランスの音楽家として、孤独や病気と闘いながらもどこかで気ままなライフスタイルをとったと言えるかもしれません。そんなシューベルトの音楽は、早すぎる晩年に向けて恐ろしいほどの深化が見られます。
美しい主題と5つの変奏から成るこの即興曲は、死の前年の1827年に書かれました。このメロディーをシューベルトが用いるのは3度目で、自作の劇音楽《キュプロスの女王ロザムンデ》D797と、弦楽四重奏曲第13番の第2楽章にも登場しています。変奏ごとにさらにユーモラスで表情豊かなこの即興曲は、歌い心溢れ、無邪気なシューベルトの音楽のやはり代表曲の1つと言えるでしょう。

シューベルト=リスト
・歌曲集『白鳥の歌』より「セレナーデ」
『白鳥の歌』はシューベルトの死後に、出版社や友人たちによってまとめられた遺作の歌曲集です。“セレナーデ” とはもともと夜に恋人の元を訪れて、窓の下に立って楽器を演奏しながら愛を訴える歌。ドイツの詩人レルシュタープによるこの「セレナーデ」もその特徴を持ちます。ロマン派の大ピアニストで作曲家のリスト(1811-1886) によるこの編曲でも、彼の超絶技巧はぐっと抑えられて、夜の静けさやムードが見事に演出されています。
ちなみに絵画ではすでに存在していましたが、音楽でも19世紀前半ごろから夜、月や星に強い関心が示されて、多くの作品が生まれました。メンデルスゾーンによる『真夏の夜の夢』(1826,1843)、フィールドやショパンによるノクターン、バレエ『ジゼル』(1841) などなど。シューベルトがリートというジャンルを特別なものにしたのは、時代を先行し象徴するテーマを伴って開拓したことも含まれそうです。

・歌曲集『冬の旅』より「菩提樹」
ドイツの詩人ヴィルヘルム・ミュラーの詩集をもとにした、24曲の連作歌曲集『冬の旅』。シューベルトの中でもとりわけ人気の歌曲集ですが、全24曲に渡って失恋した若者がさすらいの旅を続けて行く様子が描かれているため、全体として暗く希望の見えない雰囲気に包まれています。第5曲「菩提樹」は、主人公がかつてこの木陰で見たたくさんの甘い夢を思い出し、木の葉のささやきと相まって一見穏やかな雰囲気が漂っているような一曲。しかし実際には主人公はここでは立ち止まらず、旅の道を歩み続けていくのです。この編曲ではリストの技巧が存分に活かされて、後半ではオリジナルにないトリルなども加わり、聴き手に情景の連想を一層刺激してくるようです。

シューベルト
・幻想曲 ハ長調「さすらい人幻想曲」D760 Op.15
シューベルトのピアノ作品の中で、この「さすらい人幻想曲」は異例な点が様々にあると言われています。一つには激しい技巧を伴ったパッセージの数々、冒頭から始まる力強い和音の連打など、まるで若い男性の自信に満ち堂々とした姿を浮かばせるようなこの曲の性格。シューベルト自身もあまりの難しさに演奏することができなくて憤慨したというエピソードも残っています。そして二つ目に挙げられるのは、幻想曲という名ではあるけれども4つの楽章から成るソナタ風の作品であるということ。曲全体が切れ目なく演奏されるその構造は、まるでリストのピアノソナタを先取りしたような形をとっています。シューベルト作品の中でも唯一無二の位置付けにあるさすらい人幻想曲は、冒頭から最終部分まで一つの主題が展開されて物語が進んでいることで大きなドラマを思い浮かばせる、作曲家25歳の1822年に完成された中期の大作です。

第1楽章 ハ長調: この曲の主題である♩♫♩♫の形によって、明朗に力強く幕開け。シューベルトの魔的な転調方法であらゆる調に旅をしながら展開されてゆきます。

第2楽章 嬰ハ短調: 歌曲「さすらい」のテーマがここで登場。冒頭楽章と対照的で暗く悲愴的な雰囲気が漂いますが、主人公に何があったのでしょうか。

第3楽章 変イ長調: 辿り着いたのはトリオ形式のスケルツォ楽章。3拍子でも背景にはこの曲の主題が隠れています。テーマに戻ったあと次第に荒れ狂い、最終楽章への突入に向けて一つのクライマックスを迎えます。

第4楽章 ハ長調: ベートーヴェンを彷彿させるフーガ風の主題回帰によって始まるフィナーレ。ヴィルトゥオーゾ性をふんだんに含んだこの楽章は、シューベルト自身が技巧的なピアニストではなかったことを考えると一層の驚きです。華々しく増すばかりのエネルギーを伴って幕を閉じます。

〜〜 Pause 〜〜

ベートーヴェン
・ピアノソナタ第31番 変イ長調 Op.110
誰もが知る交響曲やピアノ楽曲がいくつも存在するベートーヴェン(1770-1827) ですが、ピアノソナタほど生涯に渡って書かれ続けたジャンルは他にありません。ピアノという楽器がちょうど発達した時代ということも手伝い、初期から中期・後期 (最後のソナタが第32番) と見ていくことで作風の変化を様々に追いかけられます。

師のハイドンからの影響が見られる初期のソナタに比べ、後期になると従来のソナタ形式からの離脱、そして抽象的で瞑想的な雰囲気が漂います。そこには意外なことに古典派よりずっと前の時代から存在する対位法や変奏形式、レチタティーヴォなどあらゆるものが織り込まれているのです。形式から来る表現ではなく、表現のための形式が既存の様式を自由に使い力強く拡大されています。

この第31番Op.110 について。第1楽章は冒頭に“愛をもって”と書かれており、優しさの溢れる旋律が我々をこの曲へと迎え入れてくれるようです。スケルツォ風の第2楽章では、当時の流行歌のメロディーが2曲も用いられているそう。ソナタの大部分を占める第3楽章 (もはや1つの楽章として捉えるのは難しいですが) では、レチタティーヴォのあと「嘆きの歌」と呼ばれる美しくも沈痛な旋律が歌われ、フーガへと続きます。この曲のフーガ部の中でテンポの加速や強弱が作曲家本人によって指示されていることは注目すべきで、このようなことは音楽史の中でも最初期の作品と思われます。転調されてもう一度「嘆きの歌」とフーガが現れ、最後は「嘆きの歌」と対極的な”歓喜”に向かって終曲。

せっかくなので、ベートーヴェンがフーガについて秘書に述べた、彼の音楽観が強く伝わる言葉をここに載せます。

“フーガをつくることは、技術ではありません。私はそれらを学習期にかなりの数つくりました。しかしファンタジーはその権利を主張するだろうし、今日ではその古くからの形式は、別の、真に詩的な要素がなければいけないのです。”

第1楽章 Moderato cantabile molto espressivo

第2楽章 Allegro molto

第3楽章 Adagio ma non troppo – Fuga – L‘istesso tempo du Arioso – L‘istesso tempo della Fuga poi a poi di nuovo vivente

ストラヴィンスキー
・「ペトルーシュカ」より3つの断章
19世紀初頭からロシアでは文学界でプーシキン、ゴーゴリー、音楽界でもグリンカが現れ、ロシアの文化界が黄金時代を迎え始めました。第1次大戦前の時期はロシア文化の〈銀の時代〉とも呼ばれますが、そのような時期にストラヴィンスキー (1882-1971) は、サンクトペテルブルク近郊で生まれました。大学では法学を勉強、しかしその頃から音楽に本腰を入れるようになります。ストラヴィンスキーはその革新性で生涯に作風が変わり続けたことから「カメレオン」とも呼ばれていますが、現在1番頻繁に演奏されているのは、初期の3大バレエ「火の鳥」「ペトルーシュカ」「春の祭典」でしょう。

1911年にパリで初演された「ペトルーシュカ」は、ディアギレフ率いるバレエ・リュス (ロシアバレエ団)のために作曲されました。ロシア民謡その他からの引用も多く含まれるほか、ハ長調と嬰ヘ長調の主和音を同時に鳴らす「ペトルーシュカ和音」が用いられ、ときに現れるグロテスクな響きに聴衆はショックを受けたそうです。ピアノソロ版は、20世紀最大のピアニストの1人であるアルトゥール・ルービンシュタインの依頼で、1921年にストラヴィンスキー本人によって編曲されました。

1. ロシアの踊り

2. ペトルーシュカの部屋

3. 謝肉祭の日

(尾崎未空)


《公演情報》
<プラチナ・コンサート・シリーズ Vol.10>
世界に飛翔する大器が魅せる多彩なプログラム
尾崎未空 ピアノ・リサイタル
日程:2022年1月28日(金) 19:00開演
会場:Hakuju Hall
プログラム:
シューベルト:即興曲集 第3番 変ロ長調 D 935 Op. 142-3
シューベルト=リスト:歌曲集「白鳥の歌」S. 560 R. 245より『セレナーデ』
シューベルト=リスト:歌曲集「冬の旅」S. 561 R. 246より『菩提樹』
シューベルト:幻想曲『さすらい人幻想曲』ハ長調 D 760 Op. 15
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 Op. 110
ストラヴィンスキー:「ペトルーシュカ」より3つの断章
公演情報 ⇒ https://www.japanarts.co.jp/concert/p929/

⇒ 尾崎未空のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/misoraozaki/

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