2021/10/15

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【連載】サンダーバード 音楽の秘密 (2021年1月9日 東京オペラシティ コンサートホール)

2021年1月9日(日)東京オペラシティ コンサートホールにて「サンダーバード55周年シネマコンサート ~世界の人の命を守る科学と勇気の物語~」が開催されます。
特撮TV番組「サンダーバード」は1965年にイギリスで制作されました。秘密組織「国際救助隊」を名乗るトレーシー一家がメカを駆使して事故や災害などで危機に瀕した人々を救う科学と勇気の物語です。
日本放送開始から55年のメモリアル・イヤーに開催するシネマコンサート。音楽ライター富樫鉄火さんの執筆による全4回の連載で、今もなお愛され続ける「サンダーバード」の音楽の秘密に迫ります。

サンダーバード


第2回 バリー・グレイの生涯 (2021年10月15日)
第1回 これぞ「脳内補完」音楽! (2021年10月2日)


サンダーバード 音楽の秘密
第2回 バリー・グレイの生涯

富樫鉄火(音楽ライター)

サンダーバード
< 写真中央:バリー・グレイ>

 『サンダーバード』の音楽担当、バリー・グレイは、1908年にイギリス北部のランカシャー州で生まれた。1908年といえば、“歌劇王”ヴェルディが亡くなってまだ7年。マーラーの交響曲第7番が初演された年だ。オーストリアではカラヤンが、フランスではメシアンが生まれている。あのショスタコーヴィチは2年前に生まれたばかり。つまりバリー・グレイとは、もう1世紀以上前の、大昔の作曲家なのだ。
 両親は音楽好きだったらしいが、いつ、どういう形で音楽を身につけたのかは、正確にはわかっていない。どうも専門家の個人レッスンを受けたようだが、少なくとも音楽学校で専門教育を受けた形跡はない。
 成人後、ロンドンに出て音楽出版社に所属し、ポピュラー曲の出版や編曲に携わる。どうやらまったくのたたき上げ、半ば独学に近かったようだ。
 1940年、召集されて空軍へ。空軍ダンスバンドの指揮・編曲者として活躍。ビルマやアフリカへ遠征した。
 終戦で除隊後、BBCで編曲などをしているうちに、“イギリス軍の恋人”と称された国民歌手、ヴェラ・リンの専属ピアニスト・編曲家となる。彼女が2020年に103歳で逝去した際は、国葬に準ずる「軍葬」でおくられ、スピットファイアが惜別飛行をおこなった大歌手だ。
 スタンリー・キューブリック監督のSF映画『博士の異常な愛情』(1964)のラスト、核爆発による“人類滅亡”シーンで、ヴェラが1954年に再録音した《また会いましょう》が流れる。この伴奏指揮はローランド・ショーだが、編曲やピアノでバリーも参加しているようだ。
 このヴェラとの約10年間の日々が、バリーのキャリアを決定づけることとなった。
 あるとき、ヴェラの紹介で、絵本作家・作詞家のロバータ・リーを紹介された(後年、ヴェラ&ロバータの童謡アルバムを手がけることになる)。このとき、ロバータ原作のTV人形劇『トゥイズルの冒険』(1957)が準備中で、バリーは主題歌の編曲を手伝うことになった。この番組のプロデューサーが、ジェリー・アンダーソンだった。ここから、ジェリーとバリーの黄金コンビがはじまる。以後、『スーパーカー』(1961)、『宇宙船XL-5』(1962)、『海底大戦争 スティングレイ』(1964)等々、彼のSF人形劇ドラマの音楽を続けて担当し、6作目が、決定打『サンダーバード』(1965~66)となる。
 バリーは、ロンドンのドリス・ヒルに自宅兼小スタジオを建てていた。当初は大型スタジオを使用できるほど予算がなかったうえ、特に1960年代は大量のTV-CM曲も書いていたので、音楽はここで録音した。しかし狭いので、午前中は弦楽器、午後は管楽器とパート別に録音し、ミックスダウンして、いかにも大型オーケストラが演奏しているようなサウンドをつくりあげた。彼の音楽、特に『サンダーバード』を聴くと、「管楽器」「弦楽器」「打楽器」などのパートがはっきり分かれて、うまくからみ合っているのがわかる。あのアレンジのルーツは、この“小スタジオ方式”にあったのだ。
 バリーは電子音楽にも興味を持ち、初期の電子楽器「クラヴィオリン」や「オンドマルトノ」をいち早く購入、『宇宙船XL-5』などで使用した。フランソワ・トリュフォー監督の映画『華氏451』(1966)の音楽はバーナード・ハーマンだが、電子音楽部分はバリーがスコア協力している。
 そしてついに、バリーが大オーケストラを指揮する日がやってきた。映画『サンダーバード 劇場版』(1966、原題『Thunderbirds Are GO』)だ。火星探査機ZERO-X号をめぐる物語である。録音は、1966年10月、ロンドン北部の「デナム・フィルム・スタジオ」で、3日間にわたっておこなわれた。ここは、過去にはヒッチコックの『めまい』、後年に『ライアンの娘』『スター・ウォーズ』『エイリアン』などが録音される映画音楽スタジオの名門だ。バリーは、ついにドラマ・映画音楽の世界で、それも「人形劇」で、頂点を極めたのである。あの名曲、《ZERO-X号のテーマ》は、ここで生まれたのだ。
 1970年、バリーは、リゾート地でもあるガーンジー島に移住した。1984年に75歳で亡くなるまで、同島のオールド・ガバメント・ハウス・ホテルの専属ピアニストをつとめ、大きな仕事の時だけ、ロンドンに滞在した。
 1979年には、ロイヤル・アルバート・ホールの音楽祭に招かれ、93人編成のナショナル・フィルハーモニック管弦楽団を指揮、『サンダーバード』を含む自作組曲を演奏した。翌年には、女王陛下の入場ファンファーレを作曲した。
 ピアノを弾く際、バリーの左手の小指には、万年筆のキャップのような“補助指”がはめられていたという。バリーは音楽の専門教育を受けていないせいか、自らのピアノ演奏に自信がなかった。そこで、左手の小指(低音部)を“延伸”させて、オクターヴを超える「10度」の音程を弾いていた。
 『サンダーバード』の、あの力強い響きは、この“補助指”から生まれたのかもしれない。
 2022年1月9日の「サンダーバード55周年シネマコンサート ~世界の人の命を守る科学と勇気の物語~」では、その響きを存分にお楽しみいただけると思う。

〈つづく/敬称略〉

※記述の一部はバリー・グレイ公式サイトを参考にしました。


サンダーバード 音楽の秘密
第1回 これぞ「脳内補完」音楽!

富樫鉄火(音楽ライター)

サンダーバード
< 写真:サンダーバード2号格納庫>

 『サンダーバード』がNHKで初放映された1966年、わたしは小学校2年生だった。そのころ、最初に教室で男子たちが交わした会話は、いまでも覚えている。
「人形だから、顔が動かないんだよねえ」
 同時期の『ウルトラQ』や『ウルトラマン』など、俳優の実写ドラマに慣れていたせいか、ミニチュア人形たちの無表情な外見は、意外と評判がよくなかったのだ。
 ところが、回を重ねるにつれて、そんなボヤキを口にするものは、いなくなった。なぜか。
 もちろん、迫力ある展開や、カッコいいメカに魅せられたせいもある。だが、それよりも、「無表情」な人形たちが、本来はどんな表情で演じているかを、脳内で補完する鑑賞方法が身についたからではないだろうか。
 日本には、むかしから仮面劇の「雅楽の舞」や「能」、人形浄瑠璃「文楽」などがあった(歌舞伎ですら、強烈な化粧で表情を隠す傾向にある)。すべて「無表情」だが、観客はちゃんと彼らの内面を理解し、喜怒哀楽の表情を感じ取ってきた。日本人には、「無表情」を忖度して読み取る「脳内補完」能力があるのだ。
 イギリス発の『サンダーバード』が、海外もさることながら、極東の日本で、いまでも人気が絶えない理由のひとつが、これだと思う。
 だが、この能力には、あるエネルギーが必要だ。それが「音楽」である。雅楽も能も文楽も歌舞伎も、全編にベッタリ音楽をつけて、仮面や人形の内面を代弁し、「脳内補完」を助けてきた。
 『サンダーバード』は、これがすごかった。勇壮なテーマ曲はいうにおよばず、緊迫の救出シーン、コミカルな場面、ラウンジでくつろぐ一家。表情を変えられない人形にかわって、音楽がちゃんと説明してくれていた。
 たとえば第8話「死の谷」で、ミンミンの友人男性が、トレーシー島を訪れる。2人の親し気な姿に、ミンミンが好きな末っ子アランは気が気でない。そんな様子を、おばあちゃんがじっと見ていて……。ここはなかなか微妙な場面で、俳優だったら、表情や仕草でうまく表現するところだ。しかし、人形は、それができない。そこで、音楽の登場である。バリーは、ユーモアたっぷりのしゃれた音楽で、この場の状況をちゃんと描いている。
 名作として知られる第1話「SOS原子力旅客機」などは、正味53分中、約17分間が音楽付きのシーンである。比率にして32%で、全編中、3割以上のシーンが音楽に彩られているのだ。
 これらを何回か観て聴いていると、次第に、どのような場面にどんな音楽が流れるかのパターンがわかるようになってくる。すると、人形たちの表情を「脳内補完」して理解する習慣が生まれるというわけだ。
 そんな音楽をつくった男、それがバリー・グレイである。
 いったい、どういうひとだったのだろうか。
 2022年1月9日(日)東京オペラシティコンサートホールで開催される「サンダーバード55周年シネマコンサート ~世界の人の命を守る科学と勇気の物語~」をさらに楽しむために、次回から、作曲家バリー・グレイと、『サンダーバード』の音楽の魅力を具体的に探っていこう。

〈つづく/敬称略〉


サンダーバード55周年シネマコンサート
~世界の人の命を守る科学と勇気の物語~

日程:2022年1月9日(日) ①15:00開演/②19:00開演
会場:東京オペラシティ コンサートホール
プログラム:
バリー・グレイ:
Thunderbirds Are Go! Main Title(サンダーバード メイン・タイトル)
Dangerous Game (危険な賭け)
The theme of Thunderbird 6 (サンダーバード6号のテーマ) ほか
※曲目・曲順は変更になる場合がございます。
公演情報 ⇒ https://www.japanarts.co.jp/concert/p923/

おすすめの公演情報

サンダーバード55周年シネマコンサート ~世界の人の命を守る科学と勇気の物語~【2021年9/7振替公演】

  • 2022年1月9日(日) 15:00 東京オペラシティ コンサートホール  Tokyo Opera City Concert Hall
  • 2022年1月9日(日) 19:00 東京オペラシティ コンサートホール  Tokyo Opera City Concert Hall
公演情報はこちら
サンダーバード55周年シネマコンサート ~世界の人の命を守る科学と勇気の物語~【2021年9/7振替公演】
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