2021/9/3

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【スペシャル・インタビュー】 阪田知樹、新しい”最初の一歩”へ

阪田知樹

【スペシャル・インタビュー】
阪田知樹、新しい”最初の一歩”へ

10月14日(木)にサントリーホールでリサイタルを開催する阪田知樹。 デビュー10周年の節目となる記念公演に向けての思いを語っています。

5月に行われたエリザベート王妃国際コンクールで演奏されたブラームス《ピアノ協奏曲 第2番》、素晴らしかったです。

 あの曲は、私が高校2年の頃から10年間お世話になったパウル・バドゥラ=スコダ先生に最後にレッスンしていただいた曲でした。先生は2019年に亡くなりましたが、その3か月前、コンサートで演奏する予定だったそのコンチェルトを聴いていただくため、私は久しぶりに先生のお宅へ伺いました。先生は、「素晴らしい演奏をしているし、今後も弾いていけば、もっとうまくなるだろうから」とおっしゃってくださって…そのような思い出もあり、コンクールの演奏曲目に入れました。

パウル・バドゥラ=スコダさんは、学術的にも素晴らしい足跡を残したピアニストですよね。

 博識で、どの曲についてもとてもお詳しいのです。例えば、リストの曲のこともいろいろとアドヴァイスしていただきました。ピアノの演奏における基本的なテクニックという意味でも、彼から学んだことはとても大きいです。

10月14日のサントリーホールで開催されるリサイタルでも、リストを演奏します。

 バドゥラ=スコダ先生のもとで勉強したリストの曲数は、ものすごく多いのです。それから、ベートーヴェンのピアノ・ソナタもたくさん勉強しました。

このリサイタルのプログラムと結びついていますね。

 そういうこともあります。リストの《ピアノ・ソナタ》と《「リゴレット」による演奏会用パラフレーズ》は、エリザベートのコンクールでも演奏しましたし、ベートーヴェン《ピアノ・ソナタ 第14番「月光」》については、長く弾いてきました。 ベートーヴェンとシューマンは、ドイツ音楽の最もメインストリームともいえる作曲家ですけれど、自分がバドゥラ=スコダ先生のもとで学んだ10年、そしてドイツに7年住んで勉強してきたものを提示できればと思います。

今回のリサイタルのテーマは、「幻想」です。

 シューマンの《幻想曲》は、ベートーヴェンのオマージュとして書かれています。第1楽章ではベートーヴェンの歌曲を引用していると言われる部分がありますし、第3楽章を聴いていると、ベートーヴェンの《ピアノ・ソナタ第32番》のエコーが聴こえるような瞬間があります。
 それから、リストの《ピアノ・ソナタ》。聴き手の印象としてはさまざまな場面転換があり、しかも感情の起伏の幅が激しいですよね。これまでのピアノ・ソナタのなかには括れない作品だと思っています。ピアノ・ソナタという名前がついていながら、幻想曲的な要素を内包していると感じます。その正反対の作品は《巡礼の年第2年》の「ダンテを読んで」で、「ソナタ風幻想曲」と名前がついています。《ピアノ・ソナタ》は、記されてはいませんが「幻想曲ソナタ」であると。シューベルトの《さすらい人幻想曲》を下地にしているのではないかとも言われており、幻想曲的な要素を多分に含んでいる曲と捉えられています。
 それから、シューマンがリストに《幻想曲》を献呈しているのに対し、リストは《ピアノ・ソナタ》をシューマンに捧げたこともありますね。

 リストやシューマンの先輩であるベートーヴェンとのリンクは、かなり強くあると思います。シューマンの《幻想曲》は、もともとソナタとして構想されたけれど、最終的に幻想曲におちついた…幻想曲でありながらソナタ的な構築も持っています。この3つの作品は、密接に関わっているのではないかと私は考えています。
 そして最後に、肩の力を抜いて楽しんでいただきたいとの気持ちで《「リゴレット」による演奏会用パラフレーズ》を置きました。この曲は、パラフレーズと書かれてあります。ヴェルディ《オペラ「リゴレット」》の有名な四重唱だけを抽出して、それを増幅したり分解したりしていますが、ほぼそれだけで作られているので、オペラにもとづくファンタジーと言えると思います。

阪田知樹

ところで、8月27日にボンでリサイタルがあり、そこでベートーヴェン《ピアノ・ソナタ 第15番》などを含むプログラムを披露されました。また、Hakuju Hallでの「巡礼の旅」シリーズでは、ベートーヴェンの交響曲9曲のをピアノ独奏にも取り組んでいます。
例えば、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの32曲の全曲演奏について、将来的に考えていますか?

 バドゥラ=スコダ先生のもとでベートーヴェンのピアノ・ソナタをたくさん学びましたが、とても難しく近づきにくいと思っていました。でも、最近になって、彼のピアノ・ソナタは良いなぁ…と純粋に受けとめられるようになり、32曲に向き合ってみたいと思うようになりました。歳を追って考え方が変わるのは、味覚と同じだと思います。若い頃はあまりこういう食べ物は好きではなかったけれど、いろんなものを食べていくうちに、味の良さや新たな魅力の発見もあります。ここ1、2年、ようやくベートーヴェンにより力をかけたいと考えるようになってきました。もしかしたら、いま取り組んでいるベートーヴェンの交響曲のシリーズのおかげかもしれません。交響曲を弾く機会は、ピアニストの私にはあまりありません。でも、弾くことが決まって楽譜を読んでいくと、新しく見えてくる彼の魅力があったのかもしれません。私自身の心境の変化もあったのだと思います。

今後の活動について、「幻想」というテーマをもって活動を続けていくとうかがっています。

 2021年秋から2022年春までのリサイタルは、「幻想」というテーマで行なう予定です。例えば、リストの《ピアノ・ソナタ》と《「リゴレット」による演奏会用パラフレーズ》は今回のサントリーホールでのリサイタルでしか聴けません。べートーヴェンの「月光」も、ほぼそこでしか聴けないと思います。
 その他のリサイタルのプログラムでは、リスト「ダンテを読んで―ソナタ風幻想曲」も演奏します。それから、ショパンには《幻想曲》もありますが、彼の幻想というアイディアについて面白いと感じるのは、「幻想ポロネーズ」なのです。楽譜には「ポロネーズ・ファンタジー」と書かれています。これは、幻想曲でありながらポロネーズであると考えるべきなのかと思います。
 最近発見したことですが、「幻想ポロネーズ」の一部分は、リストの《ピアノ・ソナタ》に影響を与えているのではないかと。時代の流れのなかで見ていくと、発見することがいろいろありますね。

10月14日のサントリーホールでのリサイタルは、その時その場でしか味わえないひと時ということですね。

 私にとって初めてサントリーホールでソロ・リサイタルです。自分の音楽への思いを提示できる時間となれば良いと思いますし、デビュー10周年という記念の演奏会でもあります。この10年間、思ったことや考えてきたこと、目指したことのひとつの節目にもなりますし、今後自分がどうなっていきたいかという目標といいますか、新しい最初の一歩にもなります。私のなかでの歴史的瞬間を、みなさまと一緒に過ごすことができればと思います。

インタビュアー:道下京子


飛翔する若き巨匠の現在(いま)を聴くー
阪田知樹 ピアノ・リサイタル

日程:2021年10月14日(木) 19:00
会場:サントリーホール
プログラム:
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 Op. 27-2「月光」
シューマン:幻想曲 ハ長調 Op. 17
* * *
リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S. 178 / R. 21
リスト:「リゴレット」による演奏会用 パラフレーズ S. 434 / R. 267
公演の詳細はこちらから


⇒ 阪田知樹のアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/tomokisakata/

ジャパン・アーツ ライブ・ビューイング (LIVE配信) 中止のお知らせ

表記公演は、ジャパン・アーツ ライブ・ビューイングにて、公演同時LIVE配信サービスとして、10月2日(土)より視聴購入のご案内をしておりましたが、弊社の都合により予定されていたライブ配信を中止することとなりました。

なお「阪田知樹 ピアノ・リサイタル」は予定通り実施されます。
また、本公演のアーカイブ映像の配信につきましては、配信が決まり次第改めてお知らせいたします。

阪田知樹公演のライブ配信を楽しみにされていた皆様には、このたびの配信が中止となります事を心よりお詫び申し上げます。

2021年10月9日(土)
株式会社ジャパン・アーツ

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