2020/4/23

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「サンクトペテルブルグ・フィル 公演プログラム 寄稿エッセイ ご紹介」~シューマンのピアノ協奏曲にはたくさんの思い出が詰まっていますーエリソ・ヴィルサラーゼ (伊熊よし子 音楽ジャーナリスト)

シューマンのピアノ協奏曲にはたくさんの思い出が詰まっています―エリソ・ヴィルサラーゼ エリソ・ヴィルサラーゼは、演奏も話もすべて直球勝負。長年演奏し続けた作品でも、いま初めて弾くような新鮮な思いで作品と対峙し、2度と同じ演奏はしない。インタビューでも心の内を率直に語り、教育の場でも生徒たちに「けっして焦らず、じっくり勉強すること。早く成功したい、有名になりたいなどと思わず、作曲家に敬意を表すこと」と辛口コメントを伝える。そこには、ヴィルサラーゼの生き方、これまでの歩みが凝縮している。

「私はゲンリヒ・ネイガウス、ヤコフ・ザークという歴史に名を残す偉大なピアニストから教えを受けることができました。当時のレニングラード・フィルとも何度も共演を重ね、多くのことを学んでいます。ユーリ・テミルカーノフとは1968年に初めて出会い、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番で共演を果たしました。以来もっとも多く共演している指揮者です。当時テミルカーノフは全ソ指揮者コンクール優勝後で、破竹の勢いでスター街道を突っ走っている時期。私は初めて音合わせをした瞬間からとても弾きやすいと感じました」

 今回、ヴィルサラーゼはシューマンのピアノ協奏曲を演奏するが、これはチャイコフスキー国際コンクールに参加したとき、本選で演奏した自家薬籠中の作品である。

「コンクール前にモスクワ音楽院でネイガウスに見てもらった思い出深い作品です。長年演奏していますが、テミルカーノフも私も2度と同じ演奏をしないと心に決めているのは、それが作曲家に対する礼儀だと思うから。まず作品が大事。自分の存在など消し去り、作品の奥深く分け入りすばらしさを聴いてくださる方に届けたい。それが音楽家の使命です」

 ヴィルサラーゼのピアノは冒頭の特徴ある主題から打鍵の深さが違う。鍵盤をたたくことなくロシアの大地を思わせる響きを駆使し、深々とした強靭なタッチと躍動するリズム、文学的で独創的な表現。すべてが分厚い響きで奏でられ、作品の内奥へと迫っていく。しかも細部まで神経が張り巡らされた緻密さが際立ち、音楽は明晰で人間味あふれ、温かい。

「シューマンとの出会いは8歳。以来、時間をかけて作曲家の魂に近づくよう努力してきました。シューマンはすぐに理解でき、たやすく弾ける作品ではありません。私はチャイコフスキー・コンクールのときにキリル・コンドラシンと共演できたことが忘れられません。この作品を演奏するときはそのときの喜びを思い出し、常に新たな気持ちで演奏します」

伊熊 よし子(音楽ジャーナリスト)

伊熊 よし子(いくま・よしこ)
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。近著は「35人の演奏家が語る クラシックの極意」(学研)。http://yoshikoikuma.jp/

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