2020/4/23

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「サンクトペテルブルグ・フィル 公演プログラム 寄稿エッセイ ご紹介」~ピュアで自然な新世代のスター、藤田真央 (寺西基之 音楽評論家)

ピュアで自然な新世代のスター、藤田真央 昨年チャイコフスキー国際コンクールで第2位に輝いて、一躍、時の人となった藤田真央。今やあちこちから引っ張りだこで、各地でのリサイタル、内外のオケとの共演など、その活動ぶりは目覚ましい限りだ。まさに新世代のスターというに相応しいが、人気に溺れることなく、大コンクールで快挙を成し遂げた若手にありがちな気負いや見栄のようなものも彼には一切感じられない。

 そのことは彼の音楽性にも通じる。藤田真央の奏でる音楽はどこまでもピュアで自然で、奇を衒ったところやこれ見よがしなところは全くない。そこには清新な音楽センスが息づき、本然的なカンタービレやリズム、多彩な音色や陰影に富んだ響きが自ずと溶け合って、感興豊かな音楽が形作られる。音楽を心から愛し、作品と一体となってその美しさを生き生きと引き出していくのが彼の身上といえよう。

 そうした藤田真央のセンスの良さは、作品や共演者に対してフレキシブルに対応できる能力に結び付く。昨年は特に彼の多様な面を思い知らされる機会が多かった。ジョリヴェの「赤道コンチェルト」でのシャープなリズム感と明晰な響き(共演は秋山和慶指揮/東京交響楽団)は彼のモダンな感性を示すものであったし、チャイコフスキー国際コンクール後の凱旋公演となったベートーヴェンの「皇帝」(飯守泰次郎指揮/東京シティ・フィル)での雄渾な演奏ぶりは彼が正統的なピアニズムをしっかり身に付けていることを窺わせるものだった。一方で、ヴァイオリンの金川真弓との共演では、互いの音楽的交感のうちにまさにデュオというに相応しい密な音楽を作り上げるという、アンサンブル奏者としての卓越した資質を明らかにした。

 とりわけ驚かされたのがマリインスキー歌劇場管弦楽団来日公演でのチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番での演奏だ。降板したピアニストの代役としてゲルギエフの指名で急遽弾くことになったもので、まだレパートリーとしていないこの難曲の大作を数日間で見事に仕上げ、作品の魅力を存分に楽しませてくれる名演を披露してくれたのだ。

 こうした柔軟なセンスは今後彼の音楽性と活動の幅にさらに大きな広がりをもたらしていくに違いない。今回サンクトペテルブルグ・フィル来日公演で彼が演奏するのはチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。これまでも弾き込んできた十八番だが、名匠テミルカーノフ(東京)とアレクセーエフ(大阪)それぞれとの音楽的共感のうちに、藤田真央らしくその場の感興を大切にした瑞々しい演奏を聴かせてくれることだろう。

寺西 基之(音楽評論家)

寺西 基之(てらにし・もとゆき)
1956年生まれ。上智大学文学部卒、成城大学大学院修士課程(西洋音楽史専攻)修了。音楽評論家として執筆活動を行う一方、(公財)東京交響楽団監事、(公財)東京二期会評議員、日本製鉄音楽賞選考委員、(公財)アフィニス文化財団理事などを務める。共訳書にグラウト/パリスカ『新西洋音楽史』、共著に『ピアノの世界』ほか。

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