2012/11/20

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サロネンとフィルハーモニア管弦楽団 公演レポート

エサ=ペッカ・サロネン

 エサ=ペッカ・サロネンとフィルハーモニア管の2012/13年のシーズンは、ベートーヴェンの「第九」で颯爽と始動した。首席指揮者に就任してから早くも5年目のシーズンを迎えたサロネンは、今年取り組んできたベートーヴェン・シリーズの仕上げとして、また10月のボンのベートーヴェン・フェスティヴァルでのフィルハーモニア管との初のベートーヴェン交響曲ツィクルスに備え、ベートーヴェンをメインとしたプログラムで開幕した。
 もちろんサロネンのことだから、現代的な視点を取り入れないはずがない。コンサート冒頭に置かれたのはクルタークの《幻想曲風に・・・ …quasi una fantasia…》作品27(1987~88年作曲)である。タイトルおよび作品番号からもわかるようにベートーヴェンの《月光》ソナタにちなんだ曲で、クルタークのすべての作品同様、ひとつひとつの音のジェスチャーに深い思想が凝縮されているように感じられる。舞台中央に置かれたピアノを取り囲むようにして弦楽器、管楽器、打楽器が配置され、さらに一部の奏者は客席の入口や通路に立って演奏し、サロネンはオルガン席の中央に客席を向いて立ち、クルタークのユニークなサウンド・ワールドを厳粛に取り仕切った。
 続いて、クルタークでのピアノ・ソロも受け持ったレイフ・オヴェ・アンスネスの独奏で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番が演奏された。アンスネスがフィルハーモニア管に登場するのは実は久しぶりであるが、サロネンとは十数年来共演してきているので、呼吸もぴったりと合い、相性の良さを感じた。目下3年かけて『ベートーヴェン・ジャーニー』と銘打ったベートーヴェン・プロジェクトに取り組んでいるアンスネスは、軽やかなタッチとニュアンスに富んだ音色で、若きベートーヴェンの瑞々しい感性にあふれる曲を活き活きと演奏した。
 そして後半、サロネンの「第九」はある意味では予想に違わず、快速なテンポで、作曲家の視点から作品を分析的に浮き彫りにした演奏であった。会場ロイヤル・フェスティヴァル・ホールの舞台の広さの関係からか、4人の独唱者たちが指揮者とチェロ・セクションの間に並んで配置されたため、チェロとコントラバスが上手よりの配置になっていたのはやや奇妙に感じられたが、それ以外は全体を通じて響きのバランスの良い演奏であった。とりわけホルン・セクションが輝かしい音色で傑出しており、ひじょうに快速な第二楽章のトリオ部分においても、ホルンおよび木管楽器は見事な演奏を聴かせた。
 続く第3楽章はヴィブラート少なめで、あっさりとした印象であったが、第4楽章では、それまできわめてクールなアプローチだったサロネンがテンポの緩急やアーティキュレーションにおいていろいろな仕掛けをしてきて、独自の解釈が垣間見えておもしろかった。とりわけ興味深かったのは合唱の扱いで、彼が音楽的に強調したい箇所では合唱パートの細かいアーティキュレーションやフレージングも徹底しており、それによってベートーヴェンのメッセージを明確に浮かび上がらせていた。もちろんオーケストラも緻密なアンサンブルを展開し、間奏部分においても歯切れのよい演奏を聴かせていた。そして最後のアレグロの手前で合唱が「Bruder! 兄弟よ!」と声を合わせる箇所ではまさに渾身の力を 振り絞って指揮、胸に熱いものが迫ってきた。
 今シーズンのサロネンとフィルハーモニア管は、ボンのベートーヴェン祭、北米ツアー、2月の日本ツアーと海外公演が多く(ロンドンでの次のサロネンによるプロジェクトは1月に始まる2013年のルトスワフスキの生誕100周年シリーズ)、地元ファンとしてはやや残念だが、日本の皆さんはぜひこのクールで熱いコンビの来日をお楽しみに!

後藤菜穂子(音楽ライター/ロンドン在住)

≪サロネン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 来日公演情報≫
2013年02月08日(金) 19時開演 サントリーホール
サロネン指揮 フィルハーモニア管弦楽団

[曲目]
ベートーヴェン:劇付随音楽「シュテファン王」序曲
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 〔ピアノ:レイフ・オヴェ・アンスネス〕
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マーラー:交響曲第1番「巨人」

⇒ 詳しい公演情報はこちらから

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