2015/9/15

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マエストロ・イルジー・ビエロフラーヴェクのインタビュー【1】(チェコ・フィルハーモニー管弦楽団)

今年の秋、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団を率いて来日するイルジー・ビエロフラーヴェク氏。
休暇中のマエストロに、チェコ・フィルの今、そしてオーケストラ目指していることを伺いました。

Q:マエストロ、こんにちは。本日はインタビューを受けていただき、ありがとうございます。
イルジー・ビエロフラーヴェク(以下、JB):今ちょうど、休暇を取ってのんびりしているのです。たくさんお話できますよ。

Q:この秋に、マエストロと、そしてチェコ・フィルのみなさまとまたお目にかかれることになり、嬉しい限りです。
JB:私もです。オーケストラのメンバーもみなとても喜んでいます。日本のみなさんの反応の温かさ、それはいつも私たちの心に刻まれていますから。

Q:マエストロとチェコ・フィルとは、長い関係を築いておられます。1990年に首席指揮者に就任され、その後、3年前の2012年に復帰されています。20年余の歳月を経てオーケストラの中に進歩を感じていらっしゃいますか?

JB:はい、大きな変化があったと思います。長い年月を経て時代の状況も変わりましたが、やはりなんといっても、いまオーケストラを構成しているのはとても若いメンバーたちだ、ということです。世代交代がなされました。そしてその新しい世代のメンバーたちの質はすばらしいものです。
コンサートマスターのヨゼフ・シュパチェクは、中でも注目の若手ですし、他にも素晴らしい若手が入りました。新しい顔がみられるのです。ですが同時に、中堅のよい奏者をキープしておくことも大事です。そこでなされるべき作業は、前の世代と次の世代にまたがって同じクオリティの音を伝えるという事。これは、非常に注意を要する作業です。ターリヒ、ノイマン、アンチェルなど、伝説的な指揮者たちが築き上げ、私たちがそれを受け継いでいる音のクオリティを、変えてはならないからです。

Q:正直に伺いますが、若い世代の演奏家たちは、素直に伝統を受け入れますか? 彼らはむしろその情熱ゆえに、先に進もうという気持ちが強すぎて、新しいことに目が向きすぎたりすることはないのでしょうか?
JB:そのような心配を感じたことはないですね。全員が協調してとてもまとまりのあるオーケストラなのです。こんにちの若者の演奏テクニックはほんとうに素晴らしいです。けれども、たとえば彼らがそこに甘んじて、伝統を軽視するようなことはないですね。また、若い世代は現代音楽への取り組みにも熱心ですが、そのような彼らの姿勢がむしろ年配の世代への刺激になってくるのです。まさに相互作用です。

Q:それは、とても喜ばしい現象ですね。ひとつのオーケストラには、そこに当然のことながら現役の奏者で年配者と若者がいるわけですが、たとえば、なにか特殊な楽器の場合など、すでに引退されたメンバーが、後進の指導のために現場に足を運ぶようなこともあるのですか?
JB:ええ、ありますよ。ただそのような場合は、具体的に「ああしろ、こうしろ。」という現場での直接指導というよりは、「さっきの演奏を聴いてて思ったけれど、こんなふうにやってみてもいいんじゃないのかな?」というような、やや距離を置いた、若者の自主性を重んじたうえでのアドバイス、という感じです。節度を保ちながら、しかし欠いてはならない伝統の部分は、それはしっかり伝えよう、というね。若者たちは、もちろん過去の録音を聴きながら勉強することはできるのです。でも、他でもない自分の担当のパートを、その道を過去に究めた人物たちからマン・ツー・マンで指導してもらえる・・・これは非常によいことです。貴重な体験になります。

Q:そうにちがいありませんね。そのような現在の状況をふまえて、マエストロは、チェコ・フィルの未来をどのように予想しておられますか?
JB:私は占い師ではないので(笑)、未来がこうなりますよ、とは言い切れませんが、でも、いまもすでに進行中の、この「伝統維持」と「相互理解による発展」が保てるのなら、チェコ・フィルの未来は明るい (bright)、と言えるでしょう。ここでメンバーたちが吸収しようとしているのは、まさに「現代性」と言えるものだと思うのですが、それが、いまの音楽の世界に求められていることだからです。世界の聴衆がわれわれの奏でる音楽に魅力を感じてくれるかどうかは、そこにかかっているのですから。

Q:若手と言いますと、今回も若く、しかも世界で活躍する二人のソリストを向かえての演奏があります。ヴァイオリンの庄司紗矢香さんとはメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、ピアノのダニール・トリフォノフさんとはラフマニノフのピアノ協奏曲第2番です。
JB:トリフォノフさんとはまだ共演したことがありませんが、素晴らしい才能の持ち主です。現在、最高の若手ピアニストのお一人だと思います。彼のプラハでの演奏を聴きましたが、じつに素晴らしかった。まさに「エクセレント(excellent)、卓越した」という形容がぴったりです。彼には、高度な技術が身についているだけではなくて、楽曲のフィーリングをつかむ優れた感性が備わっています。庄司紗矢香さんとメンデルスゾーンのこの曲を演奏する面白さは、若いヴァイオリニストが必ず通過すると言っても良いほどポピュラーなこの曲を、彼女も私も、ではいま、どう料理すれば、聴衆のみなさんに満足してただけるか、そこを本気で工夫しなければならない、という点でしょうね。お客様が聞き慣れてよく知っている曲、演奏するほうも「こう弾けば、ひとまず合格。」というような定型、ロジックが出来上がっている曲ほど、じつはプレッシャーがかかります。とくに日本の皆さんは、演奏のレベルをよくわかっていらっしゃいますしね。

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ビエロフラーヴェク指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

◆2015年10月28日(水) 19時開演 サントリーホール

スメタナ:“シャールカ”~連作交響詩「わが祖国」より
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 Op.64(ヴァイオリン:庄司紗矢香)
ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」Op.67

◆2015年10月31日(土) 18時開演 サントリーホール【予定枚数終了】
スメタナ:“モルダウ”~連作交響詩「わが祖国」より
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 Op.18 (ピアノ:ダニール・トリフォノフ)
チャイコフスキー:交響曲第5番 Op.64

公演詳細はこちら
https://www.japanarts.co.jp/concert/p316/

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