2015/8/12

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インタビュー:ザンダー・パリッシュ [マリインスキー・バレエ]

Q:ダンサーになったきっかけをお話いただけますか?
ザンダー・パリッシュ(以下、XP):僕にはあまり年が離れていない妹がいるのですが、彼女がバレエを習っていたのです。僕が8歳の時、彼女のバレエ学校の発表会を観に行って、思わず叫んだんでしまったんです。「お母さん、なんで妹が舞台にいるの?」って。僕は舞台にいる妹に拍手を送るだけではなくて、同じように舞台に上がりたくなったのです。

Q:舞台が自分の世界、だと思ったのでしょうか?
XP:はい。僕の居場所は舞台だ、と思ってしまったんです。実際のところバレエがどんなものかは判っていませんでしたが、舞台に立ちたかったんです。演じるのも大好きです。子供のころ僕はとても恥ずかしがり屋でした。でも舞台の上では緊張しなかったのです。

Q:今も緊張しませんか?
XP:そうですね。もちろん以前より強くなりましたし、成長もしました。何よりも舞台のことがさらに好きになりました。舞台は何よりも特別です。リハーサルの時は舞台の時のような感情が湧きませんからね。僕の力は舞台で目覚めるのです。リハーサルの時は、テクニックを重視した練習を重ねます。そして、舞台では踊りに熱中するというのが僕のスタイルです。そういえば、子どもの頃のことでいうと、僕はクリケットをするのが大好きでした。イギリスでは主要なスポーツですからね。練習を積んで、試合でそれを総動員する。そういう点ではクリケットをするのも、バレエを踊るのも似ていますね。

Q:日本公演で踊っていただく作品の魅力についてお話いただけますか?まずは「ロミオとジュリエット」から教えてください。
XP:「ロミオとジュリエット」は僕が舞台デビューした作品で、僕のバレエ人生の出発点で、人生を変えてくれた役です。僕はまだ若くコリフェだったのですが、ヴィクトリア・テリョーシキナのパートナーに抜擢されました。その頃のヴィーカ(ヴィクトリアの愛称)は僕にとってスーパースターのような存在でしたから驚きました。リハーサルは興奮の連続でした。僕はロミオの性格に少年らしい魅力や若く初々しいところ、そして少し軟派な挑発的に演じてみようと決めました。なぜならそれが僕が学校で学んだロミオ像だったからです。学校ではシェイクスピアについて学びましたからこの戯曲をよく知っていました。時代背景などを含めて、内側からも外側からもよく理解していましたから。僕は、このドラマをバレエに持ち込むことに熱中しました。
イギリス人の脚本をもとにして作曲されたロシア人の音楽と振付による作品を、ロシアで上演しよう、というのですから、イギリス生まれの僕の血が騒ぐのも当然でしょう(笑)。もちろん、これは僕の役づくりで、シェイクスピアが意図していたのとは違うかもしれません。でも僕は子どもの頃に学んだ感情を活かそうとしたのです。
僕はこのバレエが大好きです。そしてテリョーシキナと踊ることは僕にとって最大の栄誉です。彼女はご存知のように素晴らしいバレリーナで、愛すべき人です。彼女は僕が出会った中で、最も優しい人、素敵な女性です。舞台に立つ前に彼女が言ったんです。「ただ舞台を楽しみなさい。うまくいくから。だからひたすら楽しんで。何か間違えてしまっても心配しないで。私たちが助けになるわ!」と。その言葉がどれだけ僕の“救い”になったことか!でもそれも2年前のことです。

Q:英国ロイヤル・バレエではほとんど踊る機会がなく、マリインスキー・バレエで花開いたと聞きましたが。
XP:マリインスキー・バレエへの入団は、驚くべき体験でした。フェテーエフ監督が僕の潜在能力と未熟でしたが僕の才能を見つけてくださって、より強く踊れるように指導し、学ぶという事を覚えさせてくれたのです。それからは段階を追って・・です。いきなりロミオを踊りに来たわけではありません!練習に次ぐ練習です。どんな役もすぐにはやってきません。『ロミオとジュリエット』の中でも、最初は赤いベレー帽の二人組だったり、パリスを踊ったりしていました。それも良い経験です。

Q:英国ロイヤル・バレエではマクミラン版、こちらではラヴロフスキー版、両方を知っているのですね。
XP:はい。そして僕はマクミラン版の方が、ラヴロフスキー版よりも優れている、と聞いていました。しかし、マリインスキー劇場に来て、マクミランが自分の作品を創る前に、ラヴロフスキー版の舞台を観て、それにインスピレーションを受けたことを知り驚きました。優れた科学者や建築家は、先人から学んだものの上に構築しますから当然と言えば当然なのですが、ラヴロフスキー阪の素晴しさを改めて認識しました。マクミラン版の方がスムースです。不必要な部分はカットされていますから。しかしラヴロフスキー版はマクミラン版にはない、新鮮な驚きをもたらしてくれます。ラヴロフスキー版の特徴は、純粋性にあると思います。音楽とも共鳴して最後に大きな感動を呼び起こすのです。
マクミランやクランコがどのように刺激を受け、自分たちに取り入れていったかがよく判る、という点ではバレエに詳しい方にも、ぜひご覧になっていただきたいですね。とても興味深いと思います。

Q:ロミオに共感する部分も多いのでしょうね。
XP:そうですね、他のどのバレエ作品よりも共感します。なぜならラヴロフスキーは人間の感情というものを熟知していたからです。小説を題材にしラヴロフスキーは感情とともに踊りを紡いでいきました。僕はこの作品を踊る時、お客さまも一緒に泣いて欲しい・・・と願っています。お客さまに共感してもらい、舞台と同じ感情で客席を満たしたいのです。『ロミオとジュリエット』をご覧いただいた後は、観客をいつも泣きぬれた目で帰らせなければなりません。もし彼らの目が濡れてなかったら、公演のできのせいでしょうね。僕はテクニックは感情表現のための手段だと思っています。ストーリーのないバレエであっても、テクニックのことだけを考えようとは私は思いません。ステップ、ジャンプ、ピルエット、それらが出来るのはもちろん素晴しいことです。でもそれは、表現したいことをお客さまに届ける手段にすぎないと思っています。

Q:日本では「白鳥の湖」も踊ってくださいますね。
XP:僕が「白鳥の湖」の王子役を踊ったのは、2014年3月のことです。それから舞台で10回は踊ったでしょうか。ロシア・バレエと聞いてすぐに思い浮かべるのは「白鳥の湖」ですよね。ですから私にとってトップで踊るというのは…マリインスキー劇場で『白鳥の湖』のジークフリート王子を踊るというのは僕にとってとてつもない名誉だったわけです。なぜならこれはロシアの基本であり、ロシアの伝家の宝刀、『白鳥の湖』は宝石の中の宝石なのですから。イギリス人の僕にとってこれを踊ることは素晴しい栄誉であり、重い責任でもあります。私はベストを尽くさねばならいと思いますし、また私をキャスティングしてくださった期待に応えなくてはなりません。ご存知のとおり、マリインスキー劇場には多くの才能あるダンサーたちがいます。それなのに僕をロンドンから連れてきて、僕を育て、さらにロシアのダンサーたちと共に海外公演にも出演させてもらっている。ですから僕は僕が選んだ道で、最大の努力をする、と決めています。

Q:あなたのジークフリート王子の特徴は?
XP:僕は自分自身のキャラクターを作りあげようと思っています。この作品の場合は、感情がどうこうというよりも、まず作品のストーリーについて考えます。この男は誰なのか、どういう人物なのかということを改めて見つめ直します。母である女王が一人でやってきて王子である僕に結婚するように言う。父はどこにいるんだ?どうしてここにいないんだ?王子には王国を背負うという重圧がかかっていて、王子はそれを逃れようと友達と楽しんでいるのだろうか?おそらくたくさんの問題を抱えているんだろうな・・・など、自分の役を追跡するようにして内容を詰めていくのです。僕は、ジークフリート王子が客席の間に座っていてもおかしくないような、そんな感覚を持っていただけるようにこの役を創りあげたいと思っています。僕が舞台の上にいる間、客席から僕に触れることはできません。けれど感情は客席のひとりひとりのところまで届いて心に触れることが出来る、これこそが生の舞台の素晴しいところだと思うのです。僕はすぐそばにいるのです。
僕は先生とともに日々、舞台でベストのものを届けるためにいろいろと試しています。例えば、パイプ(水道管)を思い浮かべてください。振付とテクニックは水道管だと思うのです。パイプをふさわしい場所に、ふさわしい角度で、ふさわしい方向に置けば、感情は水のようにとめどなく流れて届くのです。振付とテクニックと感情を寄り添わせて流れさせていくのです。過去には多くの素晴らしい例がありました。例えばザクリンスキーは僕にとってヒーローであり美しいスタイルのお手本です。そして現在の劇場には、コルスンツェフとイワンチェンコがいます。彼らが踊っている時は目が離せません。どうやったらあのように踊れるのだろう、彼らはどうやっているのだろう、自分は何を学び取れるか、というようなことを考えてしまいます。

Q:ロイヤル・バレエとマリインスキー・バレエの違いはどのようなところにあると思いますか?
XP:最も大きな違いは統一性、メソッド由来する様式の統一性ですね。マリインスキー劇場のほとんどワガノワ・メソッドの練習を積み重ねて来たダンサーがほとんどです。統一感があり、統一されたフォーム、同じ規則を持っています。女性の美しいコール・ド・バレエによくそれが表れていますよね。ロイヤル・バレエにはもちろん学校はありますが、生徒は様々な国からやってきます。日本、キューバ、南アメリカ、アメリカ、ニューカレドニアなど開かれた場所ですが、統一されたフォームはありません。振付家も世界中からやってきます。それが大きな違いでしょうか。そういう僕はマリインスキー劇場では、マイノリティーであり、アウトサイダーですね。

Q:感情表現の面での違いはあるのでしょうか?
XP:それは僕にとって、嬉しい質問です。そういう点では僕にアドヴァンテージがあります!僕はロイヤル・バレエでも、マリインスキー・バレエでも学びましたからね。ロイヤル・バレエでは当時ディレクターだったモニカ・メイソンによって厳しく指導を受けました。彼女は本当に何よりも自然に見えることを求めました。演技して、自然に見えることを求めました。全ての動き、例えば槍を持つにしても、どんな小さな役でもそれぞれに役の背景を持っているとおっしゃっていました。彼女はリハーサルを細かく指導してくださいましたが、それこそがロイヤル・バレエの舞台にとっては、とても重要なことでした。全てが演技ではなく自然に見えるようにすることを求められました。
マリインスキー劇場では、それが強調されることはほとんどありませんでした。それよりもラインやテクニック、振付の正確さに重きを置いています。そして、役づくり、演技は本人にゆだねられるのです。僕はロンドンで演技を学べたことを嬉しく思います。それを思い出してマリインスキー劇場での舞台に活かしています。ヴィーカとともに「ロミオとジュリエット」を踊った時、僕は役を「演じ」たくないと強く思いました。それがまるで本当の出来事のように感じて舞台に立ちたかったのです。僕はワガノワ・バレエ学校で学んだ経験ありませんから詳しいことは判りませんが、きっとそれが違いなのではないかと思います。

Q:ところでロシアでの生活には慣れましたか?
XP:はい。今はとても楽になりました。ロシアに暮らして5年になりますがロシアが大好き、快適です。メンバーとも親しくなりましたし、僕にはあっています。もちろん1年目は大変でした。初めてロシアに来た時はロシア語がしゃべれませんでしたから、何も理解できませんでした。それから天候もひどくて・・・。

Q:何月にロシアに来たのですか?
XP:1月に来ました。5年前の冬は、雪が多く積もっていました。あんなにたくさんの雪を見たのは、ロイヤル・バレエ学校時代に日本の札幌に行った時以来です。樹氷がきれいだったこと、そして壁のようにそびえたつ雪を覚えています。

Q:来日したことがあるんですね。
XP:はい。ロイヤル・バレエ学校の前、2004年にはロイヤル・ダンス・アカデミーのメンバーとしてガラ公演で踊るために招かれたこともあります。それが初来日、18歳の時のことです。何から何まで「なんてすごいんだ!」と驚きの連続でした。それから、2008年にはロイヤル・バレエ日本公演に参加して東京と大阪で、槍を持って舞台に立っていました。それから日本には行っていません。戻ってくるまでずいぶん時間が経ってしまいましたね。日本公演が今から楽しみです。

Q:日本のファンにメッセージをお願いします。
XP:日本の皆さんは、広い視野でバレエを愛していて、これこそがバレエという舞台芸術への理解が深い証拠だと思っています。アーティストは自分の芸術を理解して欲しいと常に願っていますから、日本に行くことが楽しみです。ぜひ僕の舞台を楽しんでいただけたら嬉しいです。長くお待たせして、ごめんなさい!今回の日本公演は、僕にとっては本格的な日本デビューになる、そんな風に感じています。

~サマーキャンペーン実施中~
 [対象公演]

 □11月28日(土)13:00 「愛の伝説」
 □12月1日(火)18:30 「ロミオとジュリエット」
 □12月2日(水)13:00 「ロミオとジュリエット」
 □12月4日(金)18:30 「白鳥の湖」

ザンダー・パリッシュが出演する12月1日の「ロミオとジュリエット」も対象日となっております。
期間限定!この機会をお見逃しなく。
詳細:http://www.japanarts.co.jp/s_campaign2015/index.html

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世界のバレエの至宝。ロシア芸術の都サンクトペテルブルグの高貴な華
マリインスキー・バレエ<キーロフ・バレエ>
2015年来日公演

詳細はこちらから

「ジュエルズ」
 11月26日(木) 18:30 文京シビックホール大ホール
「愛の伝説」
 11月27日(金) 18:30 東京文化会館
 11月28日(土) 13:00 東京文化会館
「ロミオとジュリエット」
 11月30日(月) 18:30 東京文化会館
 12月1日(火) 18:30 東京文化会館
 12月2日(水) 13:00 東京文化会館(平日マチネ公演)
「白鳥の湖」
 12月4日(金) 18:30 東京文化会館
 12月5日(土) 12:30 東京文化会館
 12月5日(土) 18:30 東京文化会館
 12月6日(日) 13:00 東京文化会館


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