2025/10/31

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ジャニーヌ・ヤンセン 来日直前インタビュー!

世界最高峰のヴァイオリニストの一人、ジャニーヌ・ヤンセンが、まもなく、デニス・コジュヒンとのデュオ・リサイタルで来日します。今シーズン、ベルリン・フィルの「アーティスト・イン・レジデンス」を務めているヤンセンに、公演の合間をぬって、インタビューを行いました。ぜひご覧ください。

(取材・文:中村真人(音楽ジャーナリスト/在ベルリン)

 ヴァイオリンのジャニーヌ・ヤンセンは、今シーズンベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の「テーティスト・イン・レジデンス」を務めている。10月16日、その幕開けとなる演奏会がサイモン・ラトル指揮により行われた。
 ヤンセンが弾いたのはプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番。弦楽器のトレモロに乗ってヤンセンがやわらかい音色を奏でるところから、夢見るようなこの作品の世界に一気に引き込まれた。地元紙『ベルリン・モルゲンポスト』は、「生粋の音楽家のヤンセンがこの音楽に情熱を注ぎ、そこから生み出された陶酔感と吸引力。彼女の奏でるすべてを信じたくなるほど魅力的だ」と絶賛した。
 初日公演の翌日、フィルハーモニーでヤンセンにインタビューする機会に恵まれた。話はやはりベルリン・フィルとの共同作業から始まった。

「アーティスト・イン・レジデンスに選ばれたのは、とても光栄です。この素晴らしい楽団とはすでに何度も共演していますが、シーズンを通してさまざまな形でご一緒できるのは特別なこと。首席指揮者キリル・ペトレンコとの共演もありますし、室内楽、さらにカラヤン・アカデミーの若手音楽家たちと一緒に音楽をつくるのも楽しみです」

 ヤンセンはかねてからソロだけでなく、室内楽の活動を大切に育んできた。そんな彼女がこの11月、デニス・コジュヒンとのリサイタルを行う。2018年以来となる来日は、待望というにふさわしいだろう。ロベルト・シューマンの第1番、ブラームスの第2番と第3番という3つのヴァイオリン・ソナタの間に、クララ・シューマンの「3つのロマンス」が挟まるという濃密なラインナップだ。そのコンセプトを尋ねてみた。

「このプログラムはヨーロッパで何度か演奏し、とても手応えを感じました。ロベルト・シューマンのソナタ第1番は、リサイタルの幕開けとして最適です。この曲には、特に第1楽章と第3楽章に何か不安を感じさせる要素があります。もともとシューマンの音楽は、分裂症的なところがありますよね。第1楽章の終盤に、ピアノによる八分音符のオクターブに乗ってヴァイオリンが奏でる箇所があるのですが、静寂に満ちた瞬間のこのおそろしい響き!他に適切な言葉が見つかりません。不気味で、おそろしい……。ロベルトはこの響きを自分の耳で聴いていたのでしょう。私は彼の内面で起きていたことを想像します。彼が聴き取った歪みは、ほとんど不快なほどです。この曲には内面の激動が多く込められています。きっとロベルト自身もそのような人だったのでしょう。
 続くブラームスのソナタ第2番は、第1楽章に『アマービレ』(愛らしく)という指示が書かれており、彼の他の曲ではあまり見られない表現です。非常にあたたかく、おおらかで、ロベルトの作品との対比が絶妙なのです。その後にクララ・シューマンの美しいロマンスが続き、最後はブラームスの二短調のソナタ第3番で締めくくられます。第2番よりも技巧的で、はるかに激しい感情の奔流があります」

 歌手のようによく通る声で熱っぽく語るヤンセンを前に、彼女の演奏でこのプログラムを聴いてみたいと思わずにはいられなかった。「この3人の作品には愛が流れています。形はさまざまですが、愛そのものがテーマのプログラムなのです」
 今回のリサイタルの伴奏を務めるのはデニス・コジュヒン。音楽を共につくるパートナーへの言葉も興味深かった。

「長年共演を重ねてきた、本当に素晴らしいピアニストです。そもそも、“伴奏者“という言葉は間違っていると思います。このソナタはピアノとヴァイオリンのための作品で、どちらかと言えば、私が彼に“伴奏“するのです。私たちは共に与え合い、受け合うという完全に対等な関係です。『私がこうするから、あなたも一緒にいて』という姿勢を私は取りません。大切なのは、互いへの信頼と敬意。それがあれば大きな自由と共にリスクを取る勇気が生まれ、演奏はさらにエキサイティングなものになるでしょう」

 実は、この2人のリサイタルは2020年に予定されていたが、コロナ禍で中止となった。それから5年。着実に深化を遂げているヤンセンとコジュヒンの愛にあふれたプログラムは、聴き手の心をあたためてくれるに違いない。


≪公演情報≫
9年ぶりのリサイタル公演!魂が響き合う奇跡のデュオ
ジャニーヌ・ヤンセン&デニス・コジュヒン デュオ・リサイタル
日時:2025年11月13日(木) 19:00
会場:東京オペラシティ コンサートホール
出演:ジャニーヌ・ヤンセン(ヴァイオリン)、デニス・コジュヒン(ピアノ)
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2163/


⇒ ジャニーヌ・ヤンセンのアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/janinejansen/

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