2025/6/25
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【海外公演レポート】ウラディーミル・ユロフスキ指揮バイエルン国立管弦楽団 現地公演レポート(6/2)
名門バイエルン国立歌劇場を母体とするバイエルン国立管弦楽団が9月に来日します!芸術総監督のウラディーミル・ ユロフスキ指揮バイエルン国立管弦楽団の現地公演(6/2)レポートが届きました。8年ぶりの来日公演に期待が高まります!日本公演のソリストはブルース・リウです。
取材・文:中村真人(音楽ジャーナリスト/在ベルリン)
6月2日、ミュンヘンのバイエルン国立歌劇場で行われた、バイエルン国立管弦楽団のアカデミーコンサートを聴く機会にめぐまれた。アカデミーコンサートとは、この歌劇場を母体とするバイエルン国立管の伝統あるオーケストラ公演のシリーズのこと。今シーズン最後となる第6回公演を指揮したのは、芸術総監督・指揮のウラディーミル・ユロフスキである。
筆者がバイエルン国立歌劇場の中に入るのは、初めてのことだった。美しいエントランスホールでは、正面にモーツァルト、左右にワーグナーとR・シュトラウスと、この歌劇場のレパートリーにおいて最も重要な3人の作曲家の像に迎えられる。ロビーには、歴代の指揮者の肖像画が所狭しと並び、2023年に創設500年を迎えたというこの楽団の並外れた歴史に思いをはせた。
さて、この夜のプログラムはハイドンの交響曲第45番《告別》とショスタコーヴィチの交響曲第8番という興味深いカップリング。ユロフスキはやはり首席指揮者を務めるベルリン放送交響楽団とすでにショスタコーヴィチを幾度も共演しているが、ミュンヘンのオーケストラにはこの作曲家のイメージがあまりない。案の定、プログラム冊子の記録によると、この第8交響曲は1996年にセミヨン・ビシュコフ指揮で一度演奏したことがあるだけだという。
奏者全員が立ったスタイルで《告別》の第1楽章が始まると、風が吹き抜けるようなスピードのある音で満たされる。弦楽器の響きはあかるく、透明感があり、よく歌う。明らかに北ドイツとは異なる魅力をもつオーケストラだ。それに添えられるオーボエの太くふくよかな音色も心地よい。
第2楽章のアダージョでは、ユロフスキの小気味いい指示から大きなラインが描き出される。フィナーレではふたたび勢いよく音楽が始まるが、アダージョに転じて奏者が一人ずつ去っていく有名なシーンでは、舞台が少しずつ暗くなりながら、宮廷歌劇場の過去へと誘われるかのように夢心地に浸った。
しかし後半、ショスタコーヴィチの交響曲第8番の激しい序奏が始まると、18世紀から20世紀、そしてふたたび戦争がリアルとなった21世紀の現実に連れ戻される。この翌日に実現したユロフスキとのインタビューで、第二次世界大戦中の1943年に作曲されたこの交響曲をバイエルン国立管と共演することは、彼の強い思いからだったことを知った。
「交響曲第8番は単に第二次大戦を描写したのではなく、それよりもはるかに深い意味を持っています。つまるところ、戦争は宇宙のどこかに存在するのではなく、人間の中に存在します。人間が戦争を引き起こすのです。その意味で、この交響曲は、Conditio Humana(人間の条件)についての哲学的な考察といえるでしょう」
シェフの意欲に応えるかのように、オーケストラは決して経験豊富とはいえないレパートリーに対して、驚くほど迫真の演奏を展開する。暴力的な金管が主導する鳥肌が立つようなカタストロフィーの描写、トッカータやパッサカリアによるバロック様式の厳格さ、弦のみで奏でられる第4楽章の葬送風の音楽の深さ、等々。
第5楽章に入って、冒頭の明るい主題をなめらかな歌い回しで吹くファゴット奏者の顔に見覚えがあった。後になって、1996年収録のカルロス・クライバー指揮のコンサート映像にも登場するベテランのホルガー・シンケーテだと知る。このオーケストラの歴史の一端に触れたような気がして、不思議となつかしい気持ちになった。長大な曲が最後消え入るように締めくくられると、沈黙を経て、熱い喝采がオペラ座を満たした。
地元紙の「南ドイツ新聞」は、この夜のショスタコーヴィチについて「バイエルン国立管弦楽団とウラディーミル・ユロフスキは、音楽家として可能な限りのことを超えて、この1時間の作品の恐ろしいまでの容赦のなさを、かすかな弦の絨毯から、甲高い管楽器の挿入、そして劇場の土台を揺るがすような爆発まで、細やかに描き出した」と絶賛した。
この9月、バイエルン国立管はユロフスキとともに8年ぶりとなる待望の来日を果たす。そこで披露されるのは、バイエルン国立歌劇場の三大守護神ともいえるモーツァルト、ワーグナー、R・シュトラウスを中心としたプログラムだから、このオーケストラの伝統とユロフスキとの蜜月ぶりを体感できる絶好の機会になるだろう。
【公演情報】
ウラディーミル・ユロフスキ指揮
バイエルン国立管弦楽団
2025年9月26日(金) 19:00 サントリーホール
2025年9月27日(土) 13:30 ミューザ川崎 シンフォニーホール
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2149/