2025/5/13

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セミヨン・ビシュコフ 来日前インタビュー!


©Marco Borggreve

 今年秋、音楽監督・首席指揮者のセミヨン・ビシュコフ率いるチェコ・フィルハーモニー管弦楽団が全6公演の日本ツアーを実施!
近年、グラモフォン誌「オーケストラ・オブ・ザ・イヤー」やBBCミュージック・マガジン・アワード「オーケストラ賞」受賞など、チェコ・フィルを新たな黄金時代へと導いているマエストロ、セミヨン・ビシュコフにインタビューを行いました。

取材・執筆:中村真人(音楽ジャーナリスト/ベルリン在住)

-ビシュコフさんが2018年にチェコ・フィルの首席指揮者に就任されてから、早いもので7年の歳月が経過しました。この間の成果をどのように見ておられますか。そして、チェコ・フィルという特別なオーケストラへの思いも聞かせてください。
 私がこの仕事を始めてから、本当に素晴らしい日々が続きました。そして7シーズン目が終わりに近づいた今、私たちの共同作業が大きな発展を遂げてきたのを感じています。
 今シーズン、私たちはまずアメリカへのツアーを行いました。チェコ音楽イヤーにちなんで、チェコ音楽を演奏しました。それに対して、ちょうど終えたばかりのヨーロッパ・ツアーでは、モーツァルト、マーラー、ショスタコーヴィチというまったく異なる音楽を披露しました。聴衆が私たちに対して示したのは、チェコ・フィルが今や世界の一流オーケストラの中でもトップクラスに位置しているという反応です。このオケはかつてアンチェルやノイマンとの録音で偉大な伝説を築きましたが、もうかなり昔のことです。今チェコ・フィルと私にとって最も重要なのは、この楽団のDNAに刻み込まれたチェコ音楽の解釈で認められるだけでなく、国際的なレパートリーにおいてもいかに説得力のある演奏をできるか、なのです。まさにそれが実現していることに、私は満ち足りた気持ちでいます。


ニューヨーク・カーネギーホールでの公演の様子公演の様子/©Petr Chodura

-今回の来日公演のプログラムも、チェコ音楽に留まらない多彩な内容となっています。まず、没後50年のショスタコーヴィチの交響曲第8番という大作が目を惹きました。
 私はこれまでの人生を通してショスタコーヴィチについて考えてきましたが、今その思いをさらに強くしています。なぜなら、この交響曲第8番は第二次世界大戦中の1943年に作曲されたからです。当時、戦争の行方はまったく不透明で、どちらにも転ぶ可能性がありました。ウクライナで起こっていることを考えると、まさに現代の人々が再び経験している状況といえます。
 先週、私たちはプラハで交響曲第5番を演奏しましたが、第8番はさらに複雑な5楽章構成です。そして、ドイツ語のVerklärung(浄化)という言葉が示すように、人々が死にゆく状況の中で、ハ長調の穏やかな音楽で締めくくられます。戦争の最中にショスタコーヴィチはある意味で生き残るための闘いを描き、最後に光と希望を込めた。それがこの曲のメッセージだと私は思います。政治的な楽曲とは考えていません。人生そのものを反映した曲です。ショスタコーヴィチが生き、彼の世代が生き、私たちが今生きている人生そのものを。


©Petr Kadlec

-2019年にビシュコフさんにプラハでインタビューした際、「国籍を問わず、どの人の中にも祖国や母国、心のホームと呼べる場所がある。あらゆる人に心のホームを見せてくれるのがスメタナの《わが祖国》です」とおっしゃったことが印象に残っています。あれから6年が経ち、世界情勢は大きく変わっていますが、ビシュコフさんとチェコ・フィルがこの曲を演奏し続ける意味をどう見ていらっしゃいますか。
 興味深いご質問で、先ほどのショスタコーヴィチとの関連性についても考えさせられます。当時《わが祖国》についてお話ししたことを私は今も信じています。あらゆる人にはルーツがあります。そして、芸術作品がルーツと結びつき、普遍的な意味を持つならば、それは生まれた国だけのものではなくなります。
 2022年、ロシアによるウクライナ侵攻が起きた頃、私たちはヨーロッパ・ツアーの準備をしていました。《わが祖国》もプログラムのひとつでした。大きな衝撃を受けながらも、チェコ・フィルは普段と同じ集中力と情熱をもってリハーサルで演奏したのですが、以前とは響きが異なるように聞こえたのです。それは私たちがその瞬間に生きている状況のためでした。その後ウィーンやロンドンで《わが祖国》を演奏したのですが、聴衆も私たちと同じことを感じていました。つまり、150年前に生まれた作品であっても、それは私たちの人生とつながっているのです。

-もうひとつのメインプログラムは、チャイコフスキーの交響曲第5番です。
 チャイコフスキーの音楽は、マーラーと同じく、非常に自伝的です。彼が感じたこと、経験したことが作品に反映されています。それは夢であり、結局のところ闘いです。第4番も第5番も、運命の主題で始まり、その主題が何度も繰り返されます。実際、チャイコフスキーは運命の力というものを信じていたと思います。この第5交響曲は、巨大な傑作です。

-今回の日本公演には2人のソリストと共演されますね。ピアニストのチョ・ソンジンと、チェリストのアナスタシア・コベキナです。
 チョ・ソンジンとは、私が委嘱したフランスの作曲家、ティエリー・エスケシュのピアノ協奏曲で一度共演しました。技術的に非常に難しい曲で、彼にとっても極めてチャレンジングな体験だったと思いますが、この作品にいのちを吹き込むため献身的に努力する様には心打たれました。日本で共演するのは彼の十八番ともいえるラヴェルの協奏曲ですから、今から楽しみにしています。


セミヨン・ビシュコフとチョ・ソンジン/©Petr Kadlec

 アナスタシア・コベキナはロシア出身で、現在はドイツ在住のチェリストです。つい先日、チューリヒ・トーンハレ管弦楽団とハイドンの協奏曲を共演しました。注目すべき才能のチェロ奏者であり、彼女が音楽を奏で始めると、音楽そのものになります。それはとても感動的です。


アナスタシア・コベキナ/©Andy Paradise

-興味深いお話をありがとうございました。最後に日本の聴衆にメッセージをいただけますか。
 私のメッセージはいたってシンプルです。再び日本に行くことが待ちきれません。そして日本を離れるときは、いつも次の訪問が待ちきれなくなります。


©Petr Chodura

◆セミヨン・ビシュコフのアーティストページはこちら
https://www.japanarts.co.jp/artist/semyonbychkov/


◆チョ・ソンジンのアーティストページはこちら
https://www.japanarts.co.jp/artist/seongjincho/


◆チェコ・フィルハーモニー管弦楽団のアーティストページはこちら
https://www.japanarts.co.jp/artist/czechphil/

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