2023/10/18

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【特別インタビュー】キリル・ゲルシュタイン/「チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番」1879年版(第2版)について語る

キリル・ゲルシュタイン

「チャイコフスキー3大協奏曲の響宴」のソリスト、キリル・ゲルシュタインに、今回演奏する「チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番」1879年版(第2版)について、興味深いお話を伺いました。

Q.今回演奏する版は1879年にチャイコフスキーが改訂した第2稿とのことですが、今回の日本公演でゲルシュタインさんがなぜこの版を選ばれたのでしょうか?

A.チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番が1875年に初演されたことはよく知られています。当然ながら、この曲の演奏を何度も聞いた後、チャイコフスキーはいくつかのひねりを加え、小さな改訂を行いました。それが1879年完成の第2稿となりました。その時からその改良版が誕生し、1893年に亡くなるまで、チャイコフスキーは自分の1879年の最終的な原譜版を指揮していました。さらなる大きな変更は、チャイコフスキーの死後に取り入れられたものです。しかし、これらの相違点がチャイコフスキーに容認されたものだったのか彼自身によるものだったのかを証拠付けるものは発見されていません。判明している作曲家自身の最後の意思として残っている通りにこの曲の楽譜を演奏することは、歴史的にも芸術的にも正しいと思えます。

Q.1875年の初稿、1888年の最終稿との違いをお聞かせください。

A.最終稿は実際には1888年からではなく、1893年のチャイコフスキーの死後の期間から始まります。もっとも可能性が高いのが、チャイコフスキーの弟子であるアレクサンドル・ジロティが変更したというものです。作曲家自身よる1879年版と死後に改訂された版の相違点はきわめて多数あります。全体として原典版の方が抒情的でロマンティックであり、誇大さが少なく洗練された細かい点が多くあります。

Q.チャイコフスキーはどの版を気に入っていたと思われますか?

A.私達が演奏する1879年版は、チャイコフスキーが最後に行った1893年10月28日の公演で彼が使用した指揮譜に基づいています。この時のピアノ協奏曲は、交響曲第6番の初演のプログラムの中で演奏されました。結果的に彼の最後の公演となったこのコンサートで、チャイコフスキーが自分の意図が表現されている楽譜を使って指揮したであろうことは、結論づけるに全く理にかなっていると言えます。その時に彼が指揮したのがいわゆる1879年版です。というわけで、私が日本の聴衆のために演奏したいと思っているのも、この版です。

Q.ゲルシュタインさんには、1879年版の演奏の録音が2つあります。それぞれの録音についてご紹介いただけますでしょうか?

A.私がこの版を初めて録音したのは2015年で、ジェイムズ・ガフィガン指揮ベルリン・ドイツ交響楽団との共演でした。私は幸運でした。ロシアのクリンにあるチャイコフスキー博物館の保管所で新たに調査され改訂された原譜を使用して、この録音を行う許可がもらえたのです。その時はまだ楽譜は出版されていなかったのですから。スタジオでこの版の楽譜に取り掛かった時、演奏家として私達は興奮しました。皆この版は初めてでした。2回目の録音はその数年後で、セミョン・ビシュコフ指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団とでした。交響曲全曲はもちろんピアノ協奏曲全曲も含むチャイコフスキー・チクルスの一環でした。その頃には私もこの版の演奏の経験をかなり積んでいましたし、録音はコンサートのライブ録音でした。ライブという側面がこのレコーディング過程に自然さと興奮を加えています。

Q.最後に日本の聴衆へのメッセージをお願いします。

A.日本で演奏することの名誉と喜びをいつも嬉しく思い、感動しています。日本の文化には敬意、洗練、情熱があると私は感じるのですが、それらはアーティストとしても一人の人間としても私にインスピレーションを与えてくれます。東京の聴衆の皆様と共にチャイコフスキーの協奏曲と出会えることを幸せに感じております。

ありがとうございました。


《公演情報》
チャイコフスキー没後130年記念特別公演
名演奏家たちが一堂に会して描き出す作曲家の肖像
チャイコフスキー3大協奏曲の響宴
— 130年目の命日に捧ぐ —

2023年11月6日(月) 19:00 サントリーホール
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2064/

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