2012/12/10

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ラファウ・ブレハッチがプログラムについて語る(2)

インタビュー(1)に続き、ラファウ・ブレハッチのインタビューをお届けいたします。

ラファウ・ブレハッチ

Q : 今回のツアーでは、いくつかの都市でバッハも弾いていただきます。覚え違いがなければ、たしか、ピアノを勉強されるより前に教会のパイプオルガンの勉強をされた、と伺っていますが、その通りですか?
RB : はい、その通りです。

Q : そうでしたか。オルガンは、今もお続けになっているのですか
RB : 以前ほど時間をかけることはできなくなってしまいましたが、私の最初の音楽体験はパイプオルガンだった、ということは本当です。教会のオルガニストになりたかったのです。教会でその音楽を聴くのが好きで、よく出かけていました。ですので、バッハは私の「初恋」です。最初に挑戦した音楽コンクールも、ポーランド国内のバッハ・コンクールでした。11歳のときです。ヨハン=セバスティアン・バッハの曲を、たくさん弾きました。バッハは、私にとってとても大切な存在です、いまでも、ほんとうに大切なのです<ここで、ちょっと息が詰まりそうなぐらい熱が入る・訳注>、私は、自分のリサイタルの幕をバッハの曲でスターとする、というのが好きなんです。そこで、日本のいくつかの場所で、そうさせていただくことにしたのです。バッハのパルティータ第3番です。さらに、バッハとシマノフスキの関連性も、興味深いと考えました。バッハの音楽には、和声(ポリフォニー)を強調した部分が非常に多くあります。シマノフスキも同じなのです。たとえば彼のソナタの最終楽章は、3つの音声部分から成り立ち、たいへん聴き応えのあるパートです。そんな観点からバッハとシマノフスキとを聴き比べていただくのも、面白いのでないか、と思ったのです。

Q : バッハとシマノフスキを関連づけてみる、というご提案、ありがとうございます。いずれにしてもバッハは、私たち音楽を愛する者にとって、あまりにも重要です。プロの音楽家にはもちろん、プロでない人にも、そして聴衆にも。もし言葉で「バッハはこういう存在である。」と言うならば、あなたならどのような言葉で表現しますか?
RB : ・・・・<しばし沈黙>・・・それは・・・そうですね、バッハは本当に特別な作曲家です、疑いの余地なく「唯一の」存在です。もちろんショパンが残した作品も、たいへんなものですが・・・バッハ、彼はおっしゃるとおり重要きわまりない音楽家で、後世の作曲家や演奏家たちに与えた影響は計り知れません。私は、バッハがもつ「空気」の特性、音に表される多くの沈想に、打たれます・・・そしてポリフォニー。多音性のおもしろさ・・・そこに自分自身との距離の近さがあります。ヨハン=セバスティアン・バッハの音楽の、その混ざり合う音の見事さに、魅了されてしまうのです。そして今、他の作曲家の曲の中にも、ポリフォニックな断片をより多く発見するに至っています。たとえば、ショパンの曲の中にもそれがありますが、作品61の幻想ポロネーズを見てみましょう。非常に多く和声パートを用いていますよね。後期のノクターンや、マズルカ作品の中にもそれが見られますが、なぜなのかと言うと、思考の方法と無関係ではないからだと思うんです・・・う~ん、音楽に関することを言葉で説明するというのは、難しいものですね・・・

Q : 申し訳ないですね(笑)。
RF : いえいえ、いいんですよ、ただ、申し上げたかったのは、そのように思考の方向だけでは表しきれないものを、私も、音を通して、演奏を通して表現できると思うのです。言葉を越えたところで。そこには音があるのみです。それは美しいことです。音楽の力。音楽を通せば、全てに近いものごとを発見できます・・・なにごとにも勝るものです。

Q : パイプオルガンを勉強されたことが、のちのピアノの勉強には役立ちましたか
RB : もちろんです。具体的にいいますと、オルガンの場合は、レガートで弾こうと思ったら、自分の指だけで調整しなければなりません。ペダルのメカニズムが、オルガンのそれとピアノのそれとではまったく違うからです。ですから、バロック音楽や古典派のレパートリーをピアノで弾く場合に、私はある特殊な指のテクニックでレガートを弾くことができるのです。また、オルガンを演奏する場合には、音のトーンを調節する装置があります。「レジストレーション=音栓操作」と言われる作業です。これは、ピアノでは反対に、音色や音のフォルムは、すべて自分の指での操作にかかってきます。このような機能の違いを認識できるので、オルガンで得た知識は、ピアノ奏法に大いに参考になります。

Q : そうだったのですか。たしかに、私もオルガンの構造をすこし調べてみたことがありますが、たくさんのボタンやレバーがついていて、さまざまな音が出せるようになっているのに驚きました。一般の聴衆には、じつはそのような機能がある、ということは驚きだと思います。
RB : そうです、オルガンには無限に音の変化の可能性があるのです。ですがピアノにも、やはりほんとうにたくさんの音の色合いがあり、またそれらを変化させていく可能性があると思っています。色合いのみならず、音の形といったものまで指の使い方、いくつかのペダリングテクニック、そして力学上の強弱のつけ方によって多彩にできると思っています。私は、ピアノの音の多様性もまた信じています。

ラファウ・ブレハッチ

Q : ところで、哲学もお勉強されたと伺ったのですが、本当ですか?
RB : はい、本当です。地元ポーランドで学びました。

Q : 勉強はお続けになっているのですか、それともおやめになりましたか?
RB : 続けています。とくに音楽美学、音楽哲学に集中して勉強しています。

Q : 強い影響を受けている哲学者がいますか?
RB : はい。ドイツ哲学や現象学(=フェノメノロジー)には興味があります。また、芸術上の解釈に関して論考されている本も読みます。たとえば、ポーランドの哲学者でローマン・インガルデンという人がいますが、彼には心酔しています。彼は現象学の研究家で、エドモント・フッサールの弟子になります。フッサールはドイツ哲学界において現象学という分野の創始者でもあります。

Q : お教えいただいてありがとうございます。インガルデンについて、勉強してみますね。
BR : あなたは日本で哲学を勉強されているのですか?

Q : はい、日本にもたいへん優秀な哲学者がいます。もしビッグネームを二人挙げるならば、近現代の日本ではまず西田幾多郎、この人は仏教をベースに日本の西洋化の流れを含めて独自の哲学をうち立てた人です、もう一人は、吉本隆明、ごく最近の人物で、じつは娘さんが作家で、すでにヨーロッパでも著名なのですが、父親である彼は世界トップレベルの哲学に通用する思想を持った人です。ただし、両者とも「日本語」という言語形態に根ざして理論を展開しており、西洋言語への直接の転換が非常に難しいため、世界ではあまり知られていません。
RB : そうでしょう、哲学においては言語の問題というのはとても難しいものだと思います。想像できます。

Q : けれどももしご興味があれば、来日されるまでに、これらの哲学者に関してなにかわかりやすい資料を用意しておきましょう。
RB : ええ、興味があります、ぜひお願いいたします。

Q : ヨーロッパの方たちが日本文化に向けてくださる興味に感謝します、ありがとうございます。
本日は貴重なお時間をほんとうにありがとうございました、来日をお待ちしております。どうぞよい午後を、そしてお仕事のご継続を。

電話インタビュー:高橋美佐
Photo by Felix Broede


―深化する音楽。―
ラファウ・ブレハッチ ピアノ・リサイタル
ラファウ・ブレハッチ
2013年02月05日(火) 19時開演 サントリーホール
2013年02月10日(日) 14時開演 横浜みなとみらいホール

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