2016/2/29

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オペラ「夕鶴」初日を観て

2月14日神奈川県民ホールで行われたオペラ「夕鶴」をご覧になった音楽評論家の青澤唯夫さんから、公演についての感想を頂きました。

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美しい『夕鶴』の舞台

 2016年2月14日、神奈川県民ホールでオペラ『夕鶴』を観た。美しい舞台であった。2年前のステージよりも、さらに洗練されて、「帰ってきたな」と思った。
 佐藤しのぶの「つう」も、人間的な情感の深さと哀しみ、鶴のような透明度の高い幻想性を、華やかな舞台姿のうちに、美しく演じていた。

 1952年の初演は観ていない。伊藤京子さんの舞台も、中沢桂さんの舞台も観た。手もとのスコアは76年発行、『夕鶴』について書く機会があったのだろう。鎌倉に移り住んで、團伊玖磨先生と言葉を交わすようになったのも、そのころであった。
 近年の舞台で強く印象に残るのは、鮫島有美子さん。先ごろ亡くなったプリセツカヤの『瀕死の白鳥』を想わせるものがあった。あれは94年の『夕鶴』600回記念公演で、團さんが指揮された。上演600回、たいへんな回数だが、木下順二さんの戯曲『夕鶴』は、山本安英さんだけでも1000回を超えたのではなかったか。鶴に化身したようなステージだったけれど。

 今回の舞台は、きわめてシンプルで、抽象化された美しさが際立っていた。ステージが抽象化されると、観ている想像力はどこまでも膨らむ。オペラ『夕鶴』の少し前に、能の『鉢の木』を観たが、ともに日本生まれの国際的に評価され得る作品ではないか。片方は恩と純愛、人間の物欲、一方は信義の物語。

 チューリッヒ音楽祭で上演されたドイツ語の『夕鶴』は、中国で上演された『夕鶴』は、どんな舞台だったのだろうか。オペラ『夕鶴』は、これからも愛され、上演されて、『蝶々夫人』のように世界のオペラになれるだろうか。そのためには、歌い手も美術も衣装も演出も、さまざまな試みが大胆になされ、その積み重ねが大きな意味をもつにちがいない。

青澤唯夫 (音楽評論家)

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オペラ「夕鶴」2016
3月24日(木) 14:00 東京文化会館
3月27日(日) 14:00 東京文化会館

公演詳細はこちらから

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