2015/5/18

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【曲目解説】舘野泉 ピアノ・リサイタル~左手の文庫(募金)応援プロジェクト~

2015年6月3日に開催の、左手の文庫(募金)応援プロジェクト『舘野泉 ピアノ・リサイタル』のプログラム解説をご紹介します。
公演前に、ぜひご覧ください。

シサスク:左手のためのピアノ組曲《エイヴェレの星空》 Op.142(2012)
(舘野泉に捧げる/舘野泉左手の文庫助成作品)

 エストニアの首都タリンからおよそ80キロ南方に位置し、遥か中世の時の面影を静かに残す村エイヴェレ。その地の象徴として優美に佇むとある荘園に縁(えにし)を分かち合うシサスクと舘野泉の友情のもと、全6曲から成る左手のためのピアノ組曲が生まれた。各曲はそれぞれ、エイヴェレの澄み渡った夜空の世界に繰り広げられる神秘的な光景に霊感を得て作曲されている。本日のプログラムにおいて演奏される第2曲は1987年にシサスク自らが太陽系に属する惑星の軌道構造から数学的に導き出した「プラネット・スケール(惑星の音階)」に基づいている。
ウルマス・シサスク(Urmas Sisask, 1960年- )
 エストニアの作曲家。ラプラ出身。1985年エストニア音楽アカデミーを卒業。特にグレゴリオ聖歌とバロック音楽を専攻。 シサスクは天体観測を趣味とした祖母の導きで、幼い時から星の世界に魅入られてた。現在ヤネダにある仕事場は《星の塔―ヤネダ音楽観測所》と名づけられ、作曲に没頭している。彼のピアノ曲は全て天空に関係したもので、「銀河巡礼―北天」に続く「南天」、ソナタ「天の川」、ソナタ「アンドロメダ」、「黄道十二宮」などがある。太陽系の惑星の軌道計算に基づいた、#ド・レ・#ファ・#ソ・ラという音階を編み出したが、偶然にもこれは日本の音階と同じものになっており、神秘的かつ古風な作風をもたらしている。

coba:Tokyo Cabaret
(舘野泉とブリンディス・ギルファドッティルに捧げる/舘野泉左手の文庫助成作品)

 舘野さんのために2曲目の曲を書かせていただく光栄に預かった。今回はチェロとのデュオ曲にした。「Tokyo Cabaret」は、東京という誇大妄想都市でうごめく人々をハバネラのリズムに乗せて描いた作品だ。ハバネラは情念、苦悩、エロス、策略、嫉妬などを彷彿とさせる、何とも魅力的なラテンのリズム形態だ。曲中でハバネラは、タンゴの特殊なリズム形式ジュンバ(Yumba)に変容し、混沌へと導く。純真と欲望の隙間に見え隠れする儚く切ない夢が、ポップソングの泡の様に現れては消えて行ってくれたら、この曲は多分成功です。
coba
 アコーディオニスト・作曲家。 数々の国際コンクールで優勝。以来アコーディオンのイメージを劇的に革新するcobaのサウンドは、国境を越え、世界中に多くのフォロアーを生み続けている。驚異的なセールスを記録するオリジナルアルバムも待望の次作で31枚目となる。アコーディオニストとしての活動のみならず、作曲家としても映画、舞台、テレビ音楽をはじめ、日本クラリネットコンクールファイナリスト用課題曲、東京交響楽団への楽曲提供と鋭敏な感性溢れる作品を発表し高い評価を得る。日本レコード大賞特別賞、日本アカデミー賞音楽賞優秀賞などを受賞。 http://www.coba-net.com

エスカンデ:チェスの対局 クラリネットとピアノ(左手)のために
(舘野泉と浜中浩一に捧げる/舘野泉左手の文庫助成作品)

1.オープニング
2.ポーン 小さなステップ
3.ナイト 黒と白のジャンプ
4.クィーン 色気のワルツ
5.ビショップ 白と黒の対角線
6.キング ファンファーレと孤独
7.ルーク 半音階のステップ
8.ゲームの終わり

エスカンデ:「音の絵」~三手連弾曲~
(舘野泉と平原あゆみに捧げる/舘野泉「左手の文庫」助成作品)

 「音の描写」は、絵画と音楽のユニークな融合作品です。絵画に接し、その印象を音楽にすることはよくあることですが、私の場合は、まず自由に作曲し始め、途中でその音楽に合う絵画を見つけ、そこから得たイメージと共に作品を完成させていくというプロセスを取りました。
 1曲目の「爬虫類」は、ミニマルミュージックです。基本的に同じ要素が繰り返されながら、クライマックスに向かって活発になり、その後次第に弱くなり、殆ど消えそうになります。エッシャーの爬虫類が輪を描きながら頂点に登り、その後テーブルに置かれた絵の中に溶け込んでいく様子が表されていると思います。
 2曲目の「夢」では、ロマンティックな夢の気分を表現しています。度々戻ってくる小さなテーマは、その度ごとに違った和声が使われています。真ん中の部分では、夢の中の夢へ入り込みます。
 3曲目の「砂に埋もれた犬」は、ゴヤの“黒い絵”のひとつです。体は埋もれ、頭だけ出した犬は、上のほうに何かを求めているように見えます。私はこの絵にとても深遠で、悲哀に満ちたものを感じています。この曲を東北地方太平洋沖地震で亡くなられた方々、被災者の方々に捧げたいと思います。
 最後の4曲目「空の青」は、リトルネッロ形式のフーガです。カンディンスキーが描いた「空の青」のようにエネルギッシュで、躍動感にあふれています。
私はこの組曲を、左手のピアノのためのレパートリーを広げ、作曲家たちにインスピレーションを与え続けている舘野泉さんに捧げたいと思います。(パブロ・エスカンデ)
パブロ・エスカンデ Pablo Escande
 1971年アルゼンチン生まれ。1990年にブエノスアイレスの音楽院にて「Maestro Nacional de Musica」を取得。その後オランダに渡り、J.オッホのもとでチェンバロとフォルテピアノを、アムステルダムの旧スヴェーリンク音楽院でR.ライナに作曲を学ぶ。オランダ、オーストラリア、アメリカ、スペイン、日本他各国から委嘱を受け、色々なジャンルの作品を作曲している。また、チェロオクテット“コンフント・イベリコ”の専属アレンジャーとしても活躍中。2007年アメリカアリエノール作曲コンクールにて名誉賞を受賞。これまでにも舘野泉氏の委嘱により、ヴァイオリンと左手のピアノのための小曲、ピアノ協奏曲「ANTIPODAS」を作曲。

吉松 隆:KENJI…宮澤賢治によせる 語り、左手ピアノ、チェロのための   
詩:宮澤賢治/構成:吉松 隆(舘野泉に捧げる/舘野泉左手の文庫助成作品)

 宮澤賢治の作品の中にある、サイエンティストの目をした詩人の思想、ひんやりとした北の空気感、インテリ少年っぽい不思議なタイトル、情熱と哀感を混淆させた透明で清冽な抒情。それらは、私が作曲家として音楽を紡いできた45年間、心の奥の響きの宇宙へ導いてくれる里程標のような存在でした。
 そんな彼の世界への共感は、同じ北の香りを持つシベリウスの音楽を知ることで深まり、さらに私自身が2つ年下の妹を若くして亡くしたことで、同じ深淵を覗いた同志の共振にまで至ったような気がします。
 銀河鉄道の夜の中でセロのような声がこう語ります。
「おまえの友だちがどこか遠くへ行ったのだろう。
 あの人はね、本当に今夜、遠くへ行ったのだ」
 舘野泉さんから「銀河鉄道の夜をテーマにした(語り付きの)作品を書いてくれませんか」という相談を受けた時、この言葉がまず舘野さんの声で聞こえ、そこからすべてが始まりました。ただ、この台詞を含む「賢治の言葉」は、私がむかし読んだ昭和30年代頃の…研究や改訂が施される以前の「初期稿」…を主に採用していますので、一般の読者には馴染みのない文章も混じっていることをおことわりしておきます。
 曲は…序(作品第1074番)/やまなし/宛名のない手紙/間奏曲1/烏百態/間奏曲2/オホーツク挽歌より/銀河鉄道の夜より…という8つの部分からなります。素材および構成は、20年ほど前の賢治生誕100年(1996年)の際に書いた、賢治への信仰告白と亡き妹への追慕を試みた作品(宮澤賢治によせるコラージュ風オマージュ)をベースにしたもので、あるいは再作曲とでも言った方がいいかも知れません。
 それぞれの章は別の世界を持つ独立した作品ですが、そこに聞こえる賢治の思いの断片を繋げてゆくと、最後に「銀河鉄道の夜」のジョバンニの独白に収斂してゆきます。そこに聴き手の皆さんそれぞれの「物語」を聞き、それぞれの「遠くへ行ったあの人」を思って頂ければ幸いです。(吉松 隆)
吉松 隆
 1953年東京生まれ。慶應義塾大学工学部を中退後、一時松村禎三に師事したほかは、ロックやジャズのグループに参加しながら独学で作曲を学ぶ。1981年「朱鷺によせる哀歌」でデビュー。交響曲・協奏曲・室内楽曲、ギター曲、邦楽作品、舞台作品を発表。イギリスのシャンドス(CHANDOS)とレジデント・コンポーザー契約。執筆、FM音楽番組解説者やイラストレイターとしても活躍中。映画「ヴィヨンの妻」、2012年NHK大河ドラマ「平清盛」の音楽担当。第33回日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。http://homepage3.nifty.com/t-yoshimatsu/

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~左手の文庫(募金)応援プロジェクト~
舘野 泉 ピアノリサイタル

6月3日(水) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール

<プログラム>
シサスク:エイヴェレの星(舘野泉)★
エスカンデ:チェスの対局 (二宮和子と舘野泉) ★
coba:Tokyo Cabaret (多井智紀と舘野泉) ★
エスカンデ:音の絵 (三手連弾:小山 実稚恵と舘野泉) ★
吉松隆:KENJI…宮澤賢治によせる 世界初演 (柴田暦と多井智紀と舘野泉) ★
★「舘野泉左手の文庫(募金)」助成作品~ 舘野泉に捧ぐ

公演の詳細はこちらから

[募金要項]
口座名:左手の文庫募金 代表 舘野 泉
銀行:三菱東京UFJ銀行
支店名:渋谷明治通支店
口座種別:普通
口座番号:3440111

事務局
舘野泉 左手の文庫(募金)
〒150-0072 東京都渋谷区渋谷2-1-6ジャパン・アーツ内
TEL:03-3797-7698(10:00-18:00 土・日・祝日を除く) FAX:03-3499-8092

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