2014/6/18

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【インタビュー】 金子三勇士  ハンガリー国立フィルとの共演に向けて

聴き手:高坂はる香(音楽ライター)
ハンガリー国立フィル、そして、長年憧れつづけていたピアニストで指揮者のゾルタン・コチシュさんと、この6月にいよいよ初共演を果たす金子三勇士さん。日本人とハンガリー人のご両親のもと生まれた彼が“ハンガリアンな”要素全開で、リストのピアノ協奏曲第1番を演奏することになるという。その公演に寄せての意気込みを伺った。

金子三勇士

─今回は、コチシュさんとの初共演となります。おばあさまからコチシュさんがピアノを弾くCDをプレゼントされたことが、ピアノを始めるきっかけだったそうですね。
はい。僕は日本人の父とハンガリー人の母のもと群馬に生まれましたが、両親とも仕事をしていたので、母方の祖父母が日本に来て僕の面倒をみてくれていました。祖母が音楽学や民族音楽研究を専門としていた人だったこともあり、一緒に歌を歌って遊ぶなど、幼少の頃、僕のまわりには常に音楽がありました。
そんな中で祖母がプレゼントしてくれたのが、当時ピアニストとして活躍していたマエストロ・コチシュの弾くバルトーク「子供のために」のCDでした。シンプルでかわいらしい曲が並んでいるピアノ作品集で、そのほとんどがハンガリーの民謡がもとになっています。いつも歌っていたメロディも入っているので、自然と興味を持つようになりました。CDは毎日繰り返し家の中で流れていて、それを耳にしながら絵を描いたりおもちゃで遊んだりしていたわけですが、ある日、家にあったアップライトピアノの音とCDから流れてくる音が、僕の中で一致するようになったわけです。まだ2歳ぐらいの頃の話ですから覚えていないことも多いですが、ピアノの音とコチシュさんの音を、かっこいい、うらやましくてなんとか真似したいと感じたことは、はっきり覚えていますね。
祖父が撮っていた当時のビデオが残っているのですが、それを見ると、自分ひとりで“耳コピ”で弾こうとしている僕の様子が映っています。もちろんうまくいきませんから、祖母が手伝おうとやって来ると、僕は必ずどこかに行ってしまう(笑)。まるで、そういうのは嫌だ、一人にしてくれ!という感じで。

─ずいぶんと頑固なお子さんだったんですね。
確かにそんな感じがしますよね。子供なりのプライドなのか、ハングリー精神なのか、負けず嫌いだったということなのか……。ですがそのうち、うまく弾けると褒めてもらえるということが幼いなりにわかって、そのためにはどうやら多少のサポートを受けたほうがいいらしいと気付いたみたいで(笑)。そこからは、コチシュさんの演奏を何度も聴いては、祖母に教えてもらいながらピアノで弾いてみるということをするようになったわけです。

─そんな憧れていたコチシュさんと共演できると聞いたときの気持ちは、いかがでしたか?
もう、飛び上がるくらいうれしかったですね。“えっ! 本当にできるんですか!?”という感じで。こんなに早く共演が実現して、本当にありがたいことだと思っています。
2008年にバルトーク国際ピアノコンクールに優勝した後初めてお会いすることができましたが、その時はお目にかかることができただけでも夢のようだと思っていました。“僕はあなたのCDを聴いて育ち、今があります”と直接お礼をお伝えすることができて、この経験は人生からのプレゼントだと思いましたね。

─それを聴いてコチシュさんはなんとおっしゃっていましたか?
ちょっと照れられた感じで、でも嬉しそうに、私も自分の演奏を聴いてピアノを始めたというピアニストが出てくる年齢になってきたのかな、みたいなことを小声でおっしゃっていました(笑)。ご一緒したのは今のところこの時一度きりなのですが、シャイなところのある方なのだと思いましたね。言葉よりも表情からお気持ちが伝わってきました。

─ピアノを知り尽くした指揮者と共演することは、ピアニストにとってどうなのでしょうか?
きっとピアニスト寄りの解釈でオーケストラをコントロールしてくださると思うので、ピアニスト側にしてみれば演奏しやすいものになるだろうと思います。
リストのピアノ協奏曲は、ピアニストとしてのコチシュさんの十八番です。僕も過去に何百回と聴いてきましたが、やはりコチシュさんならではの解釈というものがあります。それがどのくらい僕に求められるのか、またはこちらの解釈を活かしてくれる方向にいくのか、それともその間にある何かを一緒に探していくことになるのか……。ハンガリー国立フィルは、指揮者とソリストとオーケストラの各首席奏者が話し合って音楽を作ってゆく傾向があるので、今回もリハーサルや休憩中などにいろいろな話し合いができるのではないかと、楽しみです。

─ハンガリー国立フィルの演奏にはどのような印象がありますか? 小林研一郎さんの指揮による公演をこの3月にハンガリーでお聴きになっているそうですね。
6歳からハンガリーで育った僕にとって、小学生のころからずっと聴いている親しみのあるオーケストラです。その間オーケストラにももちろん変化がありましたが、今のハンガリー国立フィルは、90年代後半の明るくエネルギーを持った独特の響きを取り戻していて、とてもよい世界観がそこにあると思いました。
3月の演奏会は、マエストロ小林とオーケストラ久しぶりの共演で、聴衆にとっても演奏家にとっても懐かしさがこみ上げる特別なコンサートだったようです。僕自身ものすごく感激して、涙をポロポロ流しながら聴いていました。

─小林研一郎さんは“ハンガリーで一番有名な日本人”だそうですね。
はい、日本の話題になると、「スズキ」「トヨタ」そして「コバヤシ」、この3つが必ず出てきます(笑)。マエストロが優勝した第1回ブタペスト国際指揮者コンクールは、ハンガリー国営放送主催による初めてのコンクールでした。テレビが普及し始めた頃でほとんど番組がありませんでしたから、コンクールの様子が生放送で流れると、全国民がそれをドキドキしながら見ていたわけです。そんな中で、マエストロの輝きはハンガリー人たちから大いに共感を得て、一瞬にして注目の参加者となり、優勝したときにはみんなが大喜びしたと聞いています。特に今の40代、50代の人は誰でも知っていますよ。一度でいいから生で演奏を聴きたいといってコンサートに来る人もたくさんいます。

─そして16歳で再び日本に戻られた金子さんにとって、ハンガリーに行くとどのような感覚があるのでしょうか?
住んでいた時に比べて、客観的にハンガリーという国を見るようになったと思います。でも周りの人に言わせると、ブタペストに降り立った瞬間、話し方や声のトーン、動き方、顔の表情が、完全にハンガリー人になるらしいです(笑)。ハンガリー、日本、どちらに行っても“帰る”という感じがあります。

金子三勇士

─祖国をふたつ持つということについて、今の金子さんはどうお感じになっているのでしょうか。
 小さい頃はアイデンティティ探しに苦労しました。どちらの国に行っても自分は違う感じがするし、実際にそういう扱いを受けるので、自分はなに人でどこに属しているのかという悩みはずっとありました。ですが、日本に帰国してしばらく経ち、いろいろな方との交流や演奏機会が増えていくに従って、音楽という特殊な分野で仕事をしていると、むしろ複数のアイデンティティを持つ自分にしかできないこと、すべきことがあるのだという使命感を持つようになりました。複数の文化、言語を通して自分に何ができるのか、それを考えているとモチベーションも上がります。今の僕にとっては、とてもプラスの要素になりました。

─リストは時代により作風に大きな変化がありますが、ピアノ協奏曲第1番は、彼がずいぶん長い間あたためていた作品ですね。
リストの作品は、明確に時代によって作風が異なります。この作品は、基本的に若いころに書き上げられていますから、振り返るたびに気にかかる部分があって、次々手直しを加えたのだろうと思います。
1番の協奏曲には、技巧的な部分だけを考えて演奏すればそれで終わってしまうという危険性があります。テクニックは気にすることなく、その先にある、若いリストだからこそ表現できたドラマティックな要素をどう再現するかに集中して演奏したいです。
ブレーキをかけておとなしく弾けば無難に終わるのですが、リスクをかければかけるほど戻ってくるものが大きい。つまり、“ハイリスク、ハイリターンな曲”で、そのリスクをとるためには相当な準備が必要です。ドラマティックに演奏しようとすると、フィーバーして演奏に熱が入り、ブレーキがかからなくなってくる。それがスリルであり、楽しさでもあります。しかもそれを、指揮者、オーケストラと一緒にやらなくてはならないわけで、互いにアピールし合いながら音楽をひっぱる、まさに協奏をしてゆくことになります。

─ということは、準備が万全であればあるほど……。
はい(笑)、ブレーキがかからない演奏になると思います。ハンガリー人に囲まれた演奏になりますから、例え場所は日本でも、日本の演奏会で普段しているのとは違う解釈や表現になると思いますね。思いっきり“ハンガリアンな演奏”になるはずです。

─それは楽しみです。一方で、そうやって熱くのめり込んでいく部分と、冷静さを保つことのバランスが難しそうでもありますね。
そうですね、そこは、日ごろのトレーニングなのだろうと思います。ブレーキがかからず気持ちが熱くなっていくと、当然冷静さは失われていくわけですが、そういうときにも身体が冷静でいられるかどうかは、日頃から神経や筋肉に仕込んでおくものが重要になるのではないでしょうか。

─ところで“ハンガリアンな演奏”とは、言葉で説明するとどういったものなのでしょうか?
ハンガリー人は基本的にはピュアでおひとよしなので、歴史上も損することが多かったようなところがあります。少し人見知りで、日常的には感情を外に出さないほうです。しかし、それが芸術になると一気にはじけて、特に音楽の分野では、熱く、爆発するような演奏をするんです。あえて表現にブレーキをかけない演奏になるのではないかなと思いますね。
普段、ハンガリー国立フィルが熱い演奏をすることができるのは、それを楽しみに来ているお客さんがいるから、それによる相乗効果というところも大きいと思います。演奏家にとって、客席から伝わってくるパワーはとても重要です。ですから日本の聴衆のみなさんにも、ぜひそんな熱い演奏を楽しみにいらしていただけたらと思います。
今回は、ハンガリー人になる金子三勇士を日本にいながらにして聴いていただくことになると思います。僕にとっては特別な共演なので、今まで応援してくださった方には絶対聴いてほしいですね。そして、ハンガリー文化や音楽がお好きな方にも、ハンガリーのオリジナルな音楽を聴ける貴重な機会になると思いますので、ぜひ聴いていただきたいです。

憧れのコチシュとの共演は6/23サントリーホール!
今ここで夢の実現を見届けよう!

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輝く真珠! ドナウの名門
ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団

ハンガリー国立フィル

[公演日程]
6月23日(月) 19:00 サントリーホール
指揮:ゾルタン・コチシュ ピアノ:金子三勇士
6月26日(木) 19:00 サントリーホール
指揮:小林研一郎 ヴァイオリン:千住真理子

公演の詳細はこちらから

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