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アレクサンダー・ガヴリリュクに聞く Vol. 1

アレクサンダー・ガヴリリュクに聞く Vol. 1

年明けすぐに来日するガヴリリュクに、直前インタビューができました。
ますます充実する日々、どのようにピアノに向き合い、どのように人生に向き合っているのか・・・。
3回に分けてお届けします。 

質問:ガヴリリュクさん、来日直前のお忙しい時に、インタビューをお受けいただき、ありがとうございます。
AG : どういたしまして、日本に行くのがとても楽しみです。

質問:いま、カタールのドーハにいらっしゃるそうですが、お仕事ですか、それとも休暇ですか?
AG : 年末の休暇をこちらで過ごしています。義理の両親が仕事でドーハに滞在しているので彼らに会うために来ています。でも本当を言うと、それを理由に時間を作って一生懸命練習しているんです。演奏に追われているとなかなか次の練習ができませんから!ドーハにはヤマハピアノのスクールと練習施設があって、私もそこを使わせていただけるので、助かっています。

質問:なるほど、そうでしたか。演奏のスケジュールが非常にお忙しい中で、まずはお身体が疲れないのかな、ということと、はたして演奏家のみなさんは「練習が思うようにできない!」というフラストレーションはないのかな、ということ、私たちファンには気になるところですが。
AG : 私は無理なスケジュールを組んだために自分が満足できないような演奏をする羽目になるのは、絶対に嫌なので、そもそもスケジュールを組む段階で以前より慎重になりました。曲によってはかなり長時間の練習が必要なものもありますから。さらに、演奏だけでなく、家族と過ごす時間も大事と考えるようになりました。娘が二人おりますのでね、この休暇中も妻と娘たちと一緒に過ごしています。 よき夫、よき父でもありたいんです。

質問:人生そのものに変化が起こっているのですね。
AG : ええ。いずれの局面も充実してきていて・・・これまでの経験を土台にいま、レパートリーを広げたいと思っていますので、そのための時間もほんとうはもっと欲しいですし、できるだけ時間を作るよう努力しています。でも同時に人間として成長するために家族や周囲の人たちとの触れ合いも大事にしたい。日々の密度が、すべてにおいて濃くなっていくのを感じます。

質問:人としての役割の幅も、奥行きも増してきているのですね。ご自分より若いアーティストのお手本としても責任がありますね、そろそろそのような目線もお持ちですか。
AG : 生きることそのものが、音楽というひとつの柱であり、さらにずっと広がりのあるものだと思うんです。以前から、私のインスピレーションの源はつねに「出会う人たち」でした。私は「ひと」が大好きです。その中に観客の皆さんももちろん含まれます。たとえばアーティスト本人の中に何かしらインスピレーションが湧くとしても、それをすぐ近くで受け止め、反応してくれる人たちがいることこそが、そのインスピレーションに息吹を与えるプロセスだと思うんです。それがなければその音楽的な体験は、生気のないものに留まってしまいます。音楽としての「リアル」に迫れるか、と言い換えてもいい。そしてそのような他者との関係性は、ステージ上での私の誠実で正直な心の持ち方から生まれると信じています。そのためにも、自分のバランスをつねによい状態で保てるよう、賢く仕事をしなければなりません。他者とのインタラクティヴな関係を保つことも。すべてがバランスよく作用するように心がけたいですね。

質問:ガヴリリュクさんのそのような考え方、むしろ音楽家としての「本質」とも言える部分は、どのように形成されたのでしょうか。
AG : そうですね、いろいろなものが、長い年月をかけて生成されたような感じですね。少年時代は音楽一色でした。大変きびしい練習をこなす日々でしたので、ほかのことをする時間がなかったのです。でもだんだんと、音楽が音楽だけにとどまるものではなくて、それを実践している人物そのものの表出というか、そういう幅のあるものだ、という意識を持つようになりました。ロシアの著名な俳優であり演出家のスタニスラフスキーの著書などを読み、スタニスラフスキー・システムがピアノ奏法へのアプローチとしても役立つと考え、工夫して取り入れているんです。

質問:主観的な目線から客観的な目線への成長というか、そのような過程にあたるのでしょうか?
AG : ・・・そうなのだと思います。はっきりとしたターニングポイントというよりは、ほんとうに少しずつ、自分の目線が変わってきたのだと思います。ひとつ象徴的な出来事がありましたが・・・それは日本で起こったんですよ。

質問:どのような出来事ですか?
AG : 私のコンサートを聴きに来てくださったある女性が、終演後に話しかけてくださって、その内容にショックを受けました。実はその方はお子さんを亡くされて、苦悶のあまり家から一歩も出る気になれない日々を送った後、初めて家から外に出たのが私のコンサートだったのだそうです。音楽というものの力に励まされて、つらい出来事から立ち直る希望が持てたとおっしゃっていた。私はそのときの彼女の姿が忘れられません。音楽の力によってある人の閉ざされていた心が開いた、という事実は、私の目をも、ひとつ大きく開かせてくれました。音楽の力はかくも大きいものです。私ひとりの満足のためにあるわけではないのです。

質問:そう言えばガヴリリュクさんは、ご自身のウェブサイト冒頭で「人々を結びつけられるものは数少ないが、音楽こそはそのひとつである」とおっしゃっていますね。
AG : はい、ほんとうに、魔法のようなことが起こるのです。たとえば私が、世界のいろいろな場所で、同じプログラムを演奏しますと、聴衆のみなさんの反応は、その社会形態がどのようなものであっても、同じように起こるのです。日本でも、ロシアでも、ヨーロッパでも中国でもオーストラリアでも。奏者である私に返ってくるのは、答えてくれる 声、つながりの感覚、そして活力です。まったく共通しています。これは、私たちが体の奥に持っているものは、言葉をも超えて、皆が共に持っている何かだということの証明に他ならない、と。

つづく・・・。


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煌びやかな超絶技巧!深い詩情
アレクサンダー・ガヴリリュク ピアノ・リサイタル
2018年1月8日(月・祝) 14:00開演 紀尾井ホール
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