オペラ「夕鶴」 2016年 新しい≪夕鶴≫像、鮮烈の舞台



新しい《夕鶴》像、鮮烈舞台
長木 誠司(音楽評論家)
≪2014年の舞台より≫
 

 日本の民話オペラの創始でもある《夕鶴》は、これまで「民話」性に引きずられた具象的な装置のなかで、代々の主人公つう歌いたちが楚々とした演技と日本的情緒を競う場であった。だがオペラの現場も歴史的に変わってきている。作品を換骨奪胎し、今日のオペラ感覚のなかで、また今日の新しい日本像のなかでこの作品を捉えた舞台が現れてもよいと思っていた。その矢先、佐藤しのぶが主役を演じ歌ったプロダクションは、市川右近の演出プランにより、舞台を可能な限り抽象的に保ちながら、周り舞台の特性をも活かしつつ、極めて「日本的」とも言える見立てのアイディアを導入した。舞台はあるときは与ひょうの田舎家の囲炉裏の側の風景であり、あるときは雪のしんしんと降る屋外の風景として幻出される(美術の千住博担当による背景の、静かに動き続ける映像も効果的)。これは新しい《夕鶴》像に挑戦して成功した稀有の例と言えるだろう。意外にもつう役に初めて挑んだ佐藤しのぶは、森英恵の衣装をまといながら、清楚だけではない、妖艶でもある「異人」としての役柄を見事に演じ、同時にさまざまなオペラの役柄で培った歌唱力やオペラ独特の表現を十全に盛り込んで、ヴィオレッタやミミにも通じるような、それでいてこの上なく「日本女性」というつう像を作り上げている。それは團伊玖磨が半世紀以上も前に書いた音楽をある意味超えてしまい、オペラのより大きな歴史的文脈、それも現代的な文脈にこの作品を置き直す偉業でもあろう。これまでの《夕鶴》に満足していたひとも、逆に飽き飽きしていたひとも、ともにさまざまなことを発見でき、作品を改めて見直せる鮮烈な舞台だ。


≪2014年の舞台より≫
《あらすじ》

いつ、どことも知れぬ雪の中での物語。
青年与ひょうは、あるとき矢に撃たれて苦しんでいた鶴を助けた。
その後、与ひょうの前に現れた美しい女性つうと恋に落ち、結婚し二人は幸せに暮らす。
つうが折る千羽織の布が都で高価に売れるのに目をつけた強欲な二人の男、惣どと運ずは、つうの素性を探ろうと試みる。
欲深い二人の男は、つうにもっと布を織らせ、大儲けしようと企む。
二人にそそのかされた与ひょうも、それに巻き込まれていく。
愛する夫が欲に取り付かれていくのを悲しむつう。
しかし、与ひょうへの強い愛情の下に、自分を犠牲にして、新しい布を織ることを決意する。
布を織るときは、機屋の中を絶対に覗き見ないでと告げて。
しかし、二人の男は、つうと約束したにもかかわらず、無理矢理、機屋を覗き見、一羽の鶴が羽をくわえて機の上を動き回る姿を見て驚愕する。
二人につられて与ひょうも約束をやぶり、機屋の中を見てしまう。正体を見られてしまった鶴は、もう美しい女性つうとして暮らしていくことはできない。やせ細ったつうは、出来上がった布を与ひょうに渡しながら、涙で別れを告げ、鶴に戻って去ってゆく。

待望の再演!あの美しい舞台が帰ってくる!!

豪華布陣が贈る日本の美の真髄


また観てみたい。日本の美を世界に放つドリーム・チームによる伝説のプロダクション
いつともしれない物語、どこともしれない雪の中の村。
時空を越えて現在「夕鶴」が世界に放つメッセージ。それを伝えたい。。
― 市川右近

気がつくと時も空間も超えて、夢のような想像の世界の中に入り込んでいる、そしてそこには美しい音楽とけがれのない人々がいる…そしてドラマが始まる…。そんな設定をつくり上げました。
― 千住博

これまでいくつかの「夕鶴」を手がけ、とても印象深く、愛情深い作品。
また新たな名舞台が上演の歴史に刻まれることを確信している。
― 成瀬一裕

日本発、世界に共通する人間たちと美しい“鶴”の物語。
メイド・イン・ジャパンの新鮮な旅立ちを願って表現しました。
― 森英恵

与ひょうが持つ純真さは誰もが心の中に持ち続けたいと願うもの。
会場の皆様と彼の気持ちを共有できたら幸せです。
― 倉石真

2014年初春に実現した夢のような「夕鶴」新プロダクション!!
2016年にまた皆様にご覧頂けますこと心より嬉しく思います。応援よろしくお願い致します。
― 現田茂夫


写真全て © 三浦興一