オペラ「夕鶴」見どころ・聴きどころ



新プロダクション《夕鶴》への期待
岸 純信(オペラ研究家)
≪新プロダクション舞台美術(イメージ)≫
 

ソプラノ佐藤しのぶはこれまで、「日本のこじんまりした枠組み」を打破する勢いで活躍してきた。オペラの主役を歌うプリマドンナとして、国内の大ステージは勿論のこと欧州各地の歌劇場にも出演し、豊かな声と華やかな面差しで、客席を惹きつけてきたアーティストである。
  この名花が日本オペラの傑作《夕鶴》に主演するというニュースに、筆者も最初は驚いた。でも、その後すぐに「なるほど」と呟いた。作曲者の故・團伊玖磨の他のオペラに出演を重ね、歌曲もたびたび歌ってきた彼女が満を持して挑むのだ。これまでに無い境地を創り上げようと心に誓ってこその出演なのだろう。
 今回は、佐藤自ら「ドリームチーム」と呼ぶ芸術家たちが彼女の舞台を支える。彼ら彼女らが記者会見で熱く語っていたのは「世界に通用する『和モダン』の美を作る」という意欲。従来の民話劇のスタイルを取り払い、能楽に近い動きをもとに、自然美と空間を重んじながらドラマのテーマを追求するという。
 そのトークを聞きながら、筆者の脳裏にある想いが去来した。オペラのつうは、男への恋心というよりも、人間の普遍的な愛情で与ひょうを包み込む存在。いわば、母性にも近い感情で夫を見守り続けるのである。これまで何度も佐藤にインタヴューし、実生活でも母たる姿を垣間見た筆者だけに、「自分のすべてを賭けて、魂の美しい愛を歌いたい」と語る彼女の意欲のほどがはっきり見てとれた。だからこそ、真に斬新な《夕鶴》が生まれるものと大いに期待する。

《あらすじ》

いつ、どことも知れぬ雪の中の村での物語。
青年与ひょうは、あるとき矢に撃たれて苦しんでいた鶴を助けた。
その後、与ひょうの前に現れた美しい女性つうと恋に落ち、結婚し二人は幸せに暮らす。
つうが折る千羽織の布が都で高価に売れるのに目をつけた強欲な二人の男、惣どと運ずは、つうの素性を探ろうと試みる。
欲深い二人の男は、つうにもっと布を織らせ、大儲けしようと企む。二人にそそのかされた与ひょうも、それに巻き込まれていく。
愛する夫が欲に取り付かれていくのを悲しむつう。
しかし、与ひょうへの強い愛情の下に、自分を犠牲にして、新しい布を織ることを決意する。
布を織るときは、機屋の中を絶対に覗き見ないでと告げて。 しかし、二人の男は、つうと約束したにもかかわらず、無理矢理、機屋を覗き見、一羽の鶴が羽をくわえて機の上を動き回る姿を見て驚愕する。
二人につられて与ひょうも約束をやぶり、機屋の中を見てしまう。
正体を見られてしまった鶴は、もう美しい女性つうとして暮らしていくことはできない。
やせ細ったつうは、出来上がった布を与ひょうに渡しながら、涙で別れを告げ、鶴に戻って去ってゆく。

日本の美をグローバルに発信するドリーム・チームによる新プロダクション!


歌舞伎で培った美意識、発想を駆使し、
世界で活躍する制作チームの皆さんと共に、日本を代表するオペラ《夕鶴》の演出に挑みたい。
市川右近

オペラは人間の心を歌うもの。その普遍的な世界を、現代の我々が等身大に作る《夕鶴》でお見せします。
才能のハーモニーにご期待を!
千住博

これまで幾つかの《夕鶴》を手がけ、とても印象深く、愛情深い作品。
また新たな名舞台が上演の歴史に刻まれることを確信している。
成瀬一裕

日本を代表するオペラ歌手の佐藤しのぶさんと一緒に、新鮮で魅力的なものをお見せしたい。
デザインはまだ秘密ですが、お楽しみに。
森英恵

私のすべてをかけて、團先生が本当に描きたかった《夕鶴》、どうしても届けたかった思いを伝えたい。
佐藤しのぶ

“与ひょう”は、人間が誰でも持っている純粋さと弱さを持っている人物。
それを描ききるよう、頑張って準備しています!
倉石真

團伊玖磨先生は世界中でコミュニケーションができるコスモポリタンでした。
素晴らしい先生の心を伝えたい。
現田茂夫