2025/7/30

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ブルース・リウ インタビュー!(ユロフスキ指揮バイエルン国立管弦楽団と共演)

ブルース・リウが、9月に再び来日します!偉才ユロフスキ指揮による名門バイエルン国立管弦楽団と初共演、モーツァルトの協奏曲を演奏会で弾くのは2016年仙台国際音楽コンクール以来です。モーツァルトは無垢な人と語るブルース・リウのインタビューをぜひご覧ください。

取材・文:青澤隆明(音楽評論家)

 ブルース・リウの音楽の地図は、多忙のなかでも着実に拡がっている。2021年に第18回ショパン国際ピアノ・コンクールで優勝してから4シーズンも経っていないが、来日の機会も多く、新たな指揮者やオーケストラとの共演も多く聴かせてきた。
 「ショパンだけを一生弾いていく人生もあるのだろうけれど、僕はもっといろいろなことに好奇心がある」と語っていたとおり、2025年3月のリサイタルでは、最新レコーディングにもまとめたチャイコフスキーの《四季》を主に、スクリャービンの第4番とプロコフィエフの第7番のソナタを織りなす独特のプログラミングで新しい挑戦を聴かせた。ロシア音楽への進境としては、続く6月の来日でラハフ・シャニ指揮ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団と共演し、プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番も鮮やかに演奏した。
 そして、夏をはさみ、9月下旬にはウラディーミル・ユロフスキ指揮バイエルン国立管弦楽団とまた日本を訪れる。偉才ユロフスキとも初顔合わせなら、名⾨バイエルン国⽴歌劇場を⺟体とし、500年もの歴史を誇る同オーケストラとも初共演となる。曲目がまさにオペラティックな天才、モーツァルトのイ長調協奏曲第23番K.488というのも楽しみだ。
 「ユロフスキとは初めての共演になりますが、ディテールへの配慮が行き届いた指揮者だということは知っています。そして、バイエルン国立管弦楽団はオペラを得意とするオーケストラですから、よく聴いてくれるし、歌手たちと演奏しているだけにフレキシブルなはず。オペラティックなアプローチはモーツァルトを面白いものにするでしょうし、たんなるシンフォニー・オーケストラにはない良さが表れてくると思います」とブルース・リウは6月の東京で控えめに語った。
 ビギナーズ・ラックという言葉もあるが、初めてのフレッシュさは、ときに大きな幸運を運んでくる。ショパン・コンクールでホ短調協奏曲を弾いたときもそうだったと以前リウは言っていた、「もし良い雰囲気で、自分がちゃんとしてさえいれば、初めてということが大きな成果をもたらす」と。世界的な活躍を通じて、たくさんの「初めて」が若き才能を歓迎しているさなかだろう。
 「まだ知らない人々と出会うのはいつだってエキサイティングだし、今回はすべてが新しいですからね。ミュンヘンという街が、他のドイツの都市にはない魅力をもつのは知っていますけれど。影響を受けたくないから、彼らの演奏も聴いていません。一流の指揮者と一流のオーケストラですから、ミステリーのままにして、知る愉しみは自分が共演するまでとっておきたい。初めての出会いは快適なことばかりではなく、理解し合うのに時間がかかるときもあるけれど、いったん確信をつかめば、演奏に良いものが生まれます。自分が正しいと思うことをただやり続けるのではなくて、僕はオープン・マインドに、いつも自由な精神を保つようにしていますから」。

 さて、モーツァルトのピアノ協奏曲と言えば、2016年の仙台国際音楽コンクールのファイナルでリウが弾いたのが第19番へ長調 K.459だった。しかし意外なことに、モーツァルトの協奏曲を公開で弾くのはじつにそれ以来で、第23番イ長調K.488も初めて取り組む曲なのだという。「どうして?」と聞くと、「わからない」とリウは笑った。「それは考えたこともなかった。いろいろとすることがあって、たまたまそうなっただけ」。
 「モーツァルトは古典派だし、キマジメでお堅いものだ、と人々は考えがちですよね。アカデミックな教育が必要で、すべてのディテールに配慮しなくてはいけないと教師たちは言うし、結果としてなにか行儀よく箱に入ったような演奏をしてしまうケースが多いと思う。でも、モーツァルトが当時どうしていたかといえば、それほどシリアスには捉えていなかった。構わず即興もしたし、楽譜に書いたとおりに弾いてはいなかったでしょう。モーツァルトは笑いながら、いつも友人たちと楽しんでいたし、聴衆もそれを期待していたのだと思いますよ」。
 初挑戦の愉しみはこの秋に聴くのを待つとして、モーツァルトに寄せるリウの愛着についてきいてみた。「どこか自分と似ているとは言わないけれど、モーツァルトで尊敬すべきは、成熟とイノセンスの間のコントラストですよね。モーツァルトは無垢だ、と人々は言いますがそうではなくて、彼は生まれながらにしてすでに世界のすべてを知っていた。モーツァルトの天才的なところは、それを非常に純粋なかたちで表現したことです。実世界を生きるうえで、これはとても素晴らしい生きかただと僕は思う。世界を理解したうえで、それを非常にシンプルに表現するのは、決して単純なことではない。すべての音に行間の意味のようなものがある。それこそがモーツァルトの敬愛すべきところだと思います」。

取材協力:ファツィオリジャパン株式会社


【公演情報】
ウラディーミル・ユロフスキ指揮 バイエルン国立管弦楽団
2025年9月26日(金) 19:00 サントリーホール
2025年9月27日(土) 13:30 ミューザ川崎 シンフォニーホール
https://japanarts.co.jp/concert/p2149/

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