2025/6/23
ニュース
【海外公演レポート】山田和樹指揮・バーミンガム市交響楽団(バーミンガム、シンフォニーホール、6月19日)
来日迫る山田和樹指揮バーミンガム市交響楽団!6/19現地公演レポートが届きました。来日公演と同じプログラム。日本公演への期待が益々高まります。
(c) Hannah Fathers
山田和樹指揮のバーミンガム市交響楽団による演奏会を聞いた。プログラムは前半がエルガー「チェロ協奏曲」(チェリスト:シェク・カネー=メイソン)、後半がチャイコフスキー「交響曲第5番」だった。
チェリストのシェク・カネー=メイソンは2019年のBBCプロムスでCBSOと前音楽監督ミルガ・グラジニーテ=ティーラの指揮でエルガーの「チェロ協奏曲」を演奏し、2020年にはサイモン・ラトル指揮のロンドン交響楽団とCDも出している(DECCA)。
第1楽章と第4楽章のレチタティーヴは雄弁で即興的でもあり、聞き手を引きつけた。第1楽章の第1主題は内省的であると同時に若々しいエネルギーを感じさせた一方で、第4楽章終盤のロマン派らしい苦悩に満ちた和声によって哀情を滲ませた。16分音符が続く第2楽章は音量を抑えて軽快に演奏され、第3楽章の旋律は優しく伸びやかだった。オーケストラは冒頭からチェロの独奏に答えるクラリネット、ファゴット、ホルンの繊細さと親密さに驚かされたが、総じてチェロのニュアンスや呼吸を敏感に感じ取った室内楽を想起させるアンサンブルは絶妙だった。
後半のチャイコフスキー「交響曲第5番」は、第1楽章は提示部での締まったリズムによる足音のような弦のパートが木管による第1主題にいわく言いがたい情感を与えていた。第2主題は穏やかで、展開部は流麗だった。第2楽章はまず低弦による前奏での転調から引き出された音色が、美しさと情感を湛えていた。瞑想的なホルンのソロの後の、弦楽器による情熱的な合奏には滅多に聴くことのない暖かみがあり、聞き手の心を熱くした。第3楽章は軽やかで中間部も軽妙だった。第4楽章は提示部が始まるとテンポがゆっくりめだったにもかかわらず、アンサンブルは見事に引き締まっていて拍は揺るぎなく、推進力が漲っていた。コーダは堂々としていてエレガンスがあり、金管も効いていた。曲全体としてみると形式の明瞭さや、次のセクションへの極めて自然な移行などにも強い印象を残した。
久保歩(音楽ジャーナリスト/ロンドン在住)