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ロシアの宝、テミルカーノフとサンクトペテルブルグ・フィルのすべて

伝説的なシェフ、テミルカーノフ
オーケストラで“シェフ”と言えば、首席指揮者・音楽監督を指す。いわば一群の長、お頭のような存在。ここに誰が来るかでオーケストラのレベルも、音も、雰囲気も決まる。とは言え両者の関係は常に良好とは限らず、10年前後でカップル解消となる例が多い。
ところがユーリ・テミルカーノフは、1988年に当時レニングラード・フィルと呼ばれていたこのオーケストラのシェフに就任して以来、32年間もその地位にあり、両者の関係は“相思相愛”だ。その経緯をマエストロはこう語る。

「1988年はまだソビエト時代で、党の偉い人がオケの首席指揮者を決めていました。ところが私は、楽員全員の民主的な選挙で選ばれたのです。これはオーケストラ始まって以来の出来事でした。それでも、私とオーケストラの息がピッタリ合うまでには10年近くかかりました。何と言っても彼らは最高レベルの演奏家たちです。その人達を言葉でも指揮でも納得させ、私の解釈に従ってもらうのは並大抵のことではありません。経験や指導力だけでは足りない、ある種の呪術的な力が必要です。指揮というのは、それ程デリケートで心理的な作業なのですよ」ロシア最高峰のオーケストラ、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団
帝政ロシア時代にルーツを持つこの名門オーケストラの音は、壮麗、重厚、繊細、怒濤と自在に変貌する。その音響を引き出すのはマエストロだ。

「このオケの特徴は、弦の響きが分厚いところだと思います。私は元々ヴァイオリニストだったからね、弦楽器にはボーイング(弓遣い)も指示しますよ。多分、彼らの奏法は特別だと思っています。低音は重く、厚く、中高音は艶やか、流麗。実に多彩な音を出します。もちろん、金管も木管もなかなかのものですよ! 世界の名だたるオーケストラに一歩も引けをとりません」楽員は1年毎の契約更新
1年毎に更新? などという厳しい条件のオーケストラが他にあるだろうか。しかし楽員はそれ程入れ代わってはいない。この不思議なからくりは?

「当然、30年余りの間に楽員は交代して行きます。毎年国中から優秀な人材がオーディションを受けに来ますからね。その中からどんな基準で楽員を選ぶかと言うと、人柄の良さ。“善人は美しい音を出す”ことを長年の経験で知っています。ただ、短時間で人柄を見抜くのは難しい。その時いい演奏をしても、人柄の悪い輩はやがてオケの調和を乱し始める。1年毎の契約更新は、その輩に出て行ってもらうようなものだね。一方、このオーケストラには定年制が無いので、年長者も沢山いますよ。私はオケの中に白髪の人がいるのが好きなのです。彼らは若者にオケの伝統を教えてくれます」テミルカーノフの凄さは?
誰もが指摘するマエストロの凄さは、最小限の身振りで最大限の音響を引き出す魔法のような手腕。これは完璧にオーケストラを掌握しているからこそ出来る技で、皆さまも是非見て聴いて頂きたい。その気品と威厳に満ちた姿からは想像もできないが、マエストロはイラストが得意で、鼻に特徴のある自分の横顔をササッと描いてしまう。子供の頃は画家志望だったそうで、画才の方もなかなかのものなのだ。『ユーリー・テミルカーノフ モノローグ』(出版:アルファベータブックス ジャミーリャ・ハガロヴァ 著、小川勝也 訳)
裏表紙にはテミルカーノフが描いた自身の横顔が描かれている。


4月公演の聴きどころ
1989年の初来日以来、数年置きに来日しているマエストロは日本のファンの好みを良くご存知だ。今回もチャイコフスキーやムソルグスキーの名曲を中心に、協奏曲のソリストも最高の顔ぶれを揃えた。
いま人気急騰中の藤田真央はチャイコフスキーの《ピアノ協奏曲第1番》を、マエストロの秘蔵っ子庄司紗矢香はベートーヴェンの《ヴァイオリン協奏曲》を、2019年のチャイコフスキー・コンクール優勝者ドガージンはチャイコフスキーの《ヴァイオリン協奏曲》を、そして巨匠ヴィルサラーゼは、最も得意なシューマンの《ピアノ協奏曲》で共演する。
「みんな、見事な演奏をしますよ。それに人柄も素晴らしい」とマエストロ。

ひのまどか(文・音楽作家)


◆ユーリ・テミルカーノフのプロフィールは下記をご参照ください。
https://www.japanarts.co.jp/artist/YuriTEMIRKANOV

書籍『ユーリー・テミルカーノフ モノローグ』(出版:アルファベータブックス)はこちらから
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巨匠テミルカーノフと 一躍”時の寵児”となった 藤田真央を迎えて贈るロシアの王道プログラム
サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団 ユーリ・テミルカーノフ(芸術監督・首席指揮者) 藤田真央(ピアノ) 
2020年4月21日(火)19:00 サントリーホール
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平日午後に聴く最高峰のオーケストラによるロシア音楽の醍醐味
サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団 ニコライ・アレクセーエフ指揮 
2020年4月23日(木)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
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