2016/1/15

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演出家ステパニュクが語る《エフゲニー・オネーギン》(マリインスキー・オペラ)

文・ひのまどか(音楽作家)

 ステパニュク氏は50代後半の物腰は穏やかだが眼光鋭い人物。このインタビューは氏の新演出による《エフゲニー・オネーギン》を観た翌日に行った。

先ず、ステパニュクさんとマリインスキー劇場の関係をお聞かせ下さい。

「私はペテルブルク生まれで、ここの音楽院を卒業した後チェリャビンスク(ウラル地方の大都市)のオペラ・バレエ劇場で7年間演出家を務めていました。そこでの成功がゲルギエフの耳に入り、1993年、マリインスキー劇場に迎えられました。以来20年以上ゲルギエフと共同作業を行っています。彼の姉でマリインスキー・アカデミー(劇場専属の研修所)の創設者ラリッサ・ゲルギエワからも生徒たちの指導を頼まれ、長年教えています。

それで《オネーギン》にアカデミー生や出身の歌手たちを起用したのですね。この研修所にはロシアのみならず世界中から傑出した才能が集まっていますが、今の若者をどう見ますか?
「声楽の技術は非常に高く、どんな要求にも適応出来ます。しかし、総じて本を読みません。そのため知識や自分で考える力が低下しています。今回も私は彼らに《オネーギン》の舞台になっている19世紀の貴族社会の習慣やルールを教え、言葉の意味や動作を教え、正しいイントネーションを教えました。若者のエネルギーは素晴らしいです、彼らはたちまち吸収していきました」

ということは、《オネーギン》は原作に沿った演出なのですね。
「私の演出理念は、原作を変えないことです。今流行りの読み替え解釈は考えていません。しかし勿論、現代の精神や風潮は吹き込みます。私が考える現代演出とは、登場人物に現代の衣装を着せることではなく、原作の意図を正しく今に伝えることです。人間の喜怒哀楽はどの時代も変りません。オペラではそうした真の感情を表現することが一番大切で、それが結果的に現代人の心を掴むのです。奇抜な読み替えで観客が舞台に廃墟やアル中患者を観るようでは困るのです。劇場は何よりも芸術を守らなくてはなりません」

今回の《オネーギン》演出の特徴はどこにありますか?
「私もゲルギエフも、本当の若さを表現したいと思いました。プーシキンとチャイコフスキーがこの作品を発表したのは共に30代の時です。オペラの主人公たちも皆若く、オネーギンは28歳、詩人レンスキーは18歳、タチヤーナも18歳位、後に彼女が結婚するグレーミン侯爵でさえ38歳です。チャイコフスキーは若さ故の悲劇を伝えたくて、初演では音楽院の学生たちを使うよう希望しました。私も同じ考えで、原作とほぼ同年代の歌手たちを主役に起用しました。ずっとマリインスキー・アカデミーで指導してきたからこそ、彼らの才能を信頼出来たのです」


?N.Razina

オネーギンとタチヤーナの人物像をどう捉えたら良いですか?
「ふたりの性格はプーシキンの原作に良く描かれています。オネーギンは帝都ペテルブルクで生まれ育ち、この時代の貴族の習慣に従ってフランス人家庭教師に学び、フランス語を話す社交界で遊び暮らす西洋の影響を強く受けた青年です。一方のタチヤーナは地方貴族の家に生まれて田舎で育ち、本の世界を信じ、愛に全てを捧げる真のロシア精神の持ち主です。即ちオネーギンは西洋の、タチヤーナはロシアのシンボルです。人間としては純粋で誠実であるが故に、タチヤーナの方が強いのです」


第2幕 舞踏会 ?N.Razina

このオペラには2つの舞踏会シーンがありますが、その対比も鮮明です。
「第2幕の田舎の舞踏会は賑やかで、人々は活発に踊ります。第3幕のペテルブルクの舞踏会は重厚で動きはゆっくりです。当時の踊りはそうでした。これを踊っているのは、数名のエキストラを除いて全て合唱団の人たちです。アカデミーでは様々な舞踊を学びますから、皆ダンサー並に踊れます。これらのシーンだけではなく、私は合唱団の人ひとりひとりに全幕を通して演技を付けました。それに依って舞台が活き活きとしています。皆優れた俳優でもあるんですよ。私は合唱団の人たちが大好きです」


第3幕 舞踏会 ?V.Baranovsky

舞台美術も又、素晴らしかったです。とりわけ第3幕の始めと終わりの幻想的なシーンが印象的でした。
「このオペラは普通タチヤーナに去られたオネーギンが「わが憐れむべき運命よ!」と叫んで幕ですが、私はオネーギンが自分の心の地獄に残されるというイメージを作りました。この後オネーギンはどうなるのか?と皆さんが思うように。舞台美術のオルロフと衣装のチェレニコワは天才的な仕事をしました。ゲルギエフも歌手たちも観客も、この舞台美術の素晴らしさに感嘆しています。その辺りも是非観て下さい」

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帝王ゲルギエフ&伝説の劇場が威信をかける2演目
マリインスキー・オペラ 来日公演2016

「ドン・カルロ」
10月10日(月・祝) 14:00/10月12日(水) 18:00
「エフゲニー・オネーギン」
10月15日(土) 12:00/10月16日(日) 14:00

公演の詳細はこちらから

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