2026/1/9
シマノフスキの《マスク》とラヴェルの《ガスパール》を切れ目なく〜福間洸太朗ピアノ・リサイタル《ラヴェルの波動》を語る
2025年はフランス近代の大作曲家モーリス・ラヴェル(1875―1937)の生誕150年に当たった。
独自のプログラミングを高く評価されてきたピアニスト福間洸太朗はラヴェルを代表するピアノ・ソロ曲《ソナチネ》《夜のガスパール》と関連の深いポーランド近現代の2作品、ルトスワフスキ(1913―1994)の《ピアノ・ソナタ》とシマノフスキ(1882―1937)の《マスク(仮面劇)》を組み合わせたリサイタルのプラン《ラヴェルの波動》を記念年に向けて企画した。数年前からの構想が、2026年2月21日、東京文化会館小ホールで遂に陽の目をみる。「ラヴェルの誕生日は3月7日なので、ギリギリ150歳のお祝いに間に合います」と喜ぶ福間の話を、東京・渋谷のジャパン・アーツ本社で聞いた。
――それぞれの楽曲への思いを演奏順にうかがっていこうと思います。先ずはラヴェルの《ソナチネ》。
「ソナタ、ソナチネと聞くと『古典的で難しい』と考える方も多いと思いますが、古典への憧憬と、水の情景を想起させる視覚的イメージを伴い、聴きやすい作品です。《ラヴェルの波動》のタイトルにも合致しています」
――次にいきなり、ルトスワフスキがきます。
「20世紀後半の大家ですが、《ピアノ・ソナタ》はワルシャワ音楽院在学中、1934年の作曲です。シマノフスキは1932年まで同音楽院の院長を務めていたので、面識があったかもしれません。私は《ソナタ》の楽譜を学生時代の2010年、ワルシャワの楽譜屋さんで偶然に見つけたのです。楽譜を読み頭の中で音を鳴らすだけの状態でラヴェルの《ソナチネ》との類似性、とりわけ水の流れのイメージに魅了され、あまりの美しさに珍しくも涙を流しました」
――後半はシマノフスキで始まります。
「3曲からなる組曲です。第1曲《シェヘラザード》冒頭のトーントーントーンという連打はラヴェルの《ガスパール》第2曲《絞首台》、動きの素早い箇所は第3曲《スカルボ》、妖艶な場面は第1曲《オンディーヌ(水の精)》に通じます。《仮面劇》は第3曲《ドン・ファンのセレナード》を除いて軽やかに終わるので、別の音楽もつなげやすい。私は《ガスパール》と交互に弾こうと考えています。東京オペラシティ文化財団のリサイタルシリーズ《B→C》に出演した折(2015年1月27日)はJ・S・バッハの《パルティータ第2番》の舞曲それぞれと現代音楽を交互に弾き、地球と宇宙の視点を楽しんでいただいた経験もあります。《ラヴェルの波動》のリサイタルでも開演20分前の午後1時40分からピアノを交えながらのプレトークを予定し、聞きどころをお伝えしますので是非、ラヴェルとシマノフスキを交互に聴く特別な機会を存分にお楽しみください」
――そして最後は《夜のガスパール》です。
「20世紀前半に生まれた音楽の中でも、最高峰に位置する作品ではないでしょうか。ベルエポック(フランス語で『美しい時代』を意味、19世紀末から第一次世界大戦勃発(1914年)までパリを中心に花開いた華やかな文化の状況を総称する)では様々な芸術分野で新しい表現や斬新な作品が打ち出され、互いに刺激を与え合いました。中でも《ガスパール》は一段と傑出しています。原作となったアロイシウス(ルイ)・ベルトラン(1807―1841)の同名詩も十分に素晴らしいのですが、ラヴェルの作曲に触れると『あの詩がこのような音楽に変身するのか!』と、より激しく感動しました。はじめは演奏技術の面で苦労しましたが、各曲が描く非現実的な世界や妖艶さをどう音にするか、その空気感を出すことを意識して演奏します。」
最後に2026年の計画を尋ねた。「新しいCDを出すのと、演奏会ではリストに回帰して《巡礼の年第2年〜イタリア》と向き合います」。間違いなく福間は、他の誰とも異なるアプローチを考え続け、私たちの耳を楽しませてくれることだろう。
取材&執筆=池田卓夫(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)









