2025/12/24

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【海外レポート】ラファウ・ブレハッチ ピアノリサイタル リヨン公演

取材・写真:大木二葉(コレぺティ・鍵盤奏者)

光の祭典を終えクリスマスモードに沸くリヨンの街、旧市街のモリエール劇場にて、12月12日ラファウ・ブレハッチのリサイタルが行われました。これは今年21年目を迎えた「Piano à Lyon リヨンでピアノ」が主催する演奏会シリーズ。今シーズンはこれまでに、ダヴィッド・フレイ、リュカ・ドゥバルグ、ブルース・リウが演奏し、今後は藤田真央、アレクサンドル・タローが予定されています。

プログラム前半は全てショパン、『舟歌op.60』の第1音、1小節目が響くや否や、会場は何とも言えぬ優しい甘い音に包まれ、演奏会への期待でざわついていた聴衆が、あぁこの音を待っていた、この音が聴きたかったと安堵の気持ちを覚えたような雰囲気になりました。奏でられる3度のカンタービレは完璧なバランスで、支えるゴンドラのリズムも絶妙な運び。メロディラインはしなやかで、かつ自然。細やかなペダリングも印象的でした。

舟歌の圧倒的な美しさ、聴くことができた幸福感に包まれたまま、『バラード第3番op.47』が始まりました。ミツキェヴィチの詩と関連性があるとされていますが、登場人物の若い青年とオンディーヌ水の精の対話のような始まり、一音一音が私たちに語りかけ、この曲の魅力と流動性にうっとりとさせられ、またとても情熱的でもありました。

一旦舞台袖に戻り、再登場後は『3つのマズルカop.50』が3曲続けて演奏されました。彼は、「マズルカはとても親密な作品で心から演奏している。」とインタビューで発言していますが、彼のルーツから来る、何にも代えられない芯の部分と彼のピアニズムの融合である演奏は必聴です。リズムの刻み方、メロディラインの歌わせ方、即興性、民族性、感傷的、感情的、その全てが絶妙なバランスで共鳴し、何よりもマズルカへの愛情に溢れた美しい音で表現されていました。

『スケルツォ第3番op.39』では短いミステリアスな序奏から力強いオクターブのユニソン、宗教的なコラール、艶やかに煌めく響きと雄弁さ、繊細な作りで聴衆の心をますます捉え、大いに盛り上がって前半を終えました。

後半、シューベルトの『4つの即興曲op.90』は非常に繊細な指の動き、ハーモニーの美しさに驚かされ、特に3曲目では寄り添うような音色で始まり、誰もが懐かしさ、暖かさを覚える特別なひととき。その後のドラマチックな展開に魂を揺さぶられました。

プログラム最後、ショパンの『ソナタ第3番op.58』は見事に構築されていました。それぞれの楽章があるべき位置に置かれていて、すべての要素が描き出され、詩情とドラマに溢れる演奏。最終楽章はホール全体が最終音に向かって一体となっているようでした。

興奮冷めやらぬ、拍手喝采の中弾き始めたアンコールはショパンの『ワルツ第7番op.64-2』、次にベートーヴェンの『ソナタ第2番op.2-2』の第3楽章スケルツォ、最後にショパンの『前奏曲op.28より第7番』でした。そしてブレハッチ自身が静かにピアノの蓋を閉じて、コンサートが終わりました。
今回の公演で演奏した曲目のうち、ショパンの『舟歌』『バラード第3番』『3つのマズルカ』『スケルツォ第3番』そしてシューベルト『4つの即興曲』は来る1月から2月にかけて行われる日本ツアーでもお聴きいただけます。

2005年ショパン国際ピアノコンクールの優勝者として、その後20年近いキャリアを重ねてきたブレハッチ。深化し続ける彼の円熟した音楽を実際に会場で聴き、彼の紡ぎ出す音の中に身を置くことは特別な体験です。時に繊細に、時に力強く響く音の数々、常にビロードのような美しさ、洗練され気品に溢れた音は、会場でこそ味わうことができると思います。また、描かれている音楽そのものに語らせる姿は感動的です。
彼は「一番クリエイティブなときは舞台上である。聴衆の前で弾くこと、聴衆からのエネルギーを受け取ることが必要で、自分が作り出している舞台上の感情と聴衆との関係がいかに特別で重要であるかより深く認識している。」と語ります。そして「予期せぬメタフィジカル(形而上学的)な瞬間を味わうことがある。」とも。

皆さんも日本で、その瞬間に立ち会えるかもしれません。

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