江崎昌子 ピアノ・リサイタル2015

江崎昌子さんのリサイタルに寄せて

　名演とは何を言うのだろうか。心に沁みる演奏がある。大きな感動をもたらす演奏がある。いつまでも記憶に残る演奏がある。
　江崎昌子の弾くショパンは、忘れ難い感銘を運んでくる。これまでも、心に沁み、感動をもたらし、記憶に残ってきた。曲がいいから、という理由もあるだろう。しかし、その曲の真実をリアリティをもって告げてくれる演奏は、世にそう多くはない。
　江崎昌子は、世間がポーランド音楽のスペシャリストと認めるように、ショパンやシマノフスキの音楽に特別な愛着を感じ、長い歳月をかけて真摯に取り組んできた。その修練の成果が、現実の音となって私たちの前に立ち現れる。
　ショパンを上手に演奏するのは難しい。ショパン自身にしてからが、自作を弾くたびに同じ曲でも表現を変えたという証言が残されている。彼もまた作曲とともに、理想の演奏を追究していたにちがいない。
　江崎昌子が探りあてたショパンの真実は、マズルカやポロネーズの格調高い、美しい響きとなって、空高く飛翔し、その魂が聴く者の胸を打ってきた。今回のプログラムには、あの幻想曲や、ワルツの数々が選ばれている。江崎昌子の豊麗なファンタジーが、躍動する凛としたリズムが、生来の歌ごころや気高い音色が、ショパンの名曲を彩ることだろう。
　ショパンのワルツには、幾多の名演が録音の形で残されている。私が親しい友人と集めただけでも、古今東西の名手による360種類を超す録音があり、それぞれのピアニストの心の姿を伝えている。今回のリサイタルで手応えを得て、江崎昌子のショパンのワルツ集がＣＤとなって世界に送り出されることを期待しようではないか。
　優れたピアニストの日々の研鑽によって、ショパンに限らず音楽の天才たちの魂を、その真の姿を聴くことができる。逆にまた、名曲を通じてピアニストの心を聴くことも可能だろう。江崎昌子という稀有な才能に恵まれたピアニストのいまを聴く、この貴重な機会を楽しみに待ちたい。　　

青澤 唯夫（音楽評論家）