2026/1/13

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【瓦版公開】ショパン・コンクールの覇者たち~ツィメルマン/ブレハッチ/ブルース・リウ

ツィメルマン、ブレハッチ、ブルース・リウ
三者三様の未来、新たなる境地へ

青澤隆明(音楽評論家)

5年に一度の、ワルシャワの秋が終わった。ショパンの故国での熱狂から歩み出した若き才能への期待は大きく、注目はそれだけの責務と負荷をピアニストの双肩にかけてくる。そして、音楽家としての成熟は、個々の創造性や孤独に課された生涯のミッションである。
1975年という時代に、18歳でショパン国際ピアノ・コンクールの覇者となったクリスチャン・ツィメルマンに、どれだけの重責や負わされたかはちょっと想像しがたい。なにせ1955年のアダム・ハラシェヴィチから20年も待望されたポーランドの英雄であった。
ツィメルマンの演奏美学は、気高く清潔なものだ。透明な音と見通しよい知的な造型を徹底する姿勢と、人間的な芸術思索と情熱が相俟って、精緻な演奏表現を叶える。楽器や音響をも知悉して、空間を含めた全体をコントロールすることで、自らの理想とする響きを希求する。音楽というものを、空間のなかに織りなされる知的な生命の推移と交感と捉えているからだろう。
その彼がいったん大曲から離れるように今秋から探索しているのが、シューベルトの即興曲の再訪と、プレリュード&カンパニーという新たなプログラムだ。バッハ、ショパンから、シマノフスキ、ガーシュインやカプースチンまで多様に織り込み、ツィメルマン自身のプレリュード選集を編む新たな挑戦である。最終的にどのような全体像を築き、ツィメルマン自身にとっていかなるプレリュードとなるのか、この先が楽しみだ。
そして、21世紀に入った2005年に、第15回の栄冠をさまざまな特別賞とともに手にしたのがラファウ・ブレハッチだった。ポーランド人として30年ぶりの快挙であるだけでなく、多くの人が彼の演奏に、ショパンの姿を重ねて想像したことだろう。清らかで明快で、ノーブルなその演奏は、ショパンの健康的な魅力を優美に叶えるようだった。バラードやスケルツォといったショパンの殊に劇的な作品、ベートーヴェンの嬰ハ短調ソナタ、そしてシューベルトの即興曲作品90でも、じっくりと歳月を重ねたブレハッチの深化が期待される。
そして、ブルース・リウである。2021年の前回の優勝者となったリウは、ショパンでも綿密な演奏を聴かせるだけでなく、彼自身の自由を謳うように感じられたが、そこからラモー、バッハ、フランス近代、ロシア音楽へも、やわらかな感性を拡げるように羽ばたいてきた。とらわれることのない柔軟さや、自身の興味に率直なピアニストだが、今回のプログラムはとくに驚きと想像力を掻き立てる。「月と夢」をテーマに綴られたストーリーだというし、ベートーヴェンは今後の探求も見据えたものだろう。変化に対して開かれているのが彼の頼もしいところで、ときに気まぐれにみえても自身の直観によるものだろうから、それだけ新鮮ななにかが息づいているはずだ。
晩秋から初夏にかけて、三者三様の現在を聴き継げば、そこにコンクールを超えて響き出す、それぞれの探求の芯のとおった、しかし柔らかな広がりが感じられるだろう。


1月中の演奏会で、上記のエッセイを含めた瓦版を配布しております!
PDFでもご覧いただけますので、ダウンロードの上ぜひご覧ください!

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