2025/6/18

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【海外公演レポート】ジャニーヌ・ヤンセン&デニス・コジュヒン デュオ・リサイタル ウィーン公演(5/22)

今秋来日の世界最高峰ヴァイオリニスト、ジャニーヌ・ヤンセン、5月22日デニス・コジュヒン(ピアノ)と圧巻の演奏で聴衆を魅了したウィーン公演(ウィーン楽友協会)の様子を高坂はる香さんのレポートでお届けします!

ジャニーヌ・ヤンセン&デニス・コジュヒン

ウィーン、ムジークフェラインの響きは特別だと、さまざまな場面で耳にしてきた。そんな世界最高峰のコンサートホールに今回初めて訪れて、最初に聴くことになったのが、ジャニーヌ・ヤンセンのヴァイオリンの音だった。その衝撃的な印象を自分はずっと忘れないだろう……そんなふうに感じる、ヤンセンの凄みがよくわかる演奏会だった。
ピアノの共演はデニス・コジュヒン。自らもかつて優勝したエリザベート王妃国際コンクールの審査の最中、1週間の空き日の間に行われた公演だ。二人は長きにわたって共演を重ねている。

1曲目はシューマンのヴァイオリン・ソナタ第1番。ピアノに付き添われ、人間の声のような体温を感じるヴァイオリンの音が空間に沁み渡って、耳に届く。未体験の驚くほどあたたかい音に、思わず身震いしてしまった。
これがムジークフェラインならではの音なのか、それともヤンセンの音がすごいのか。おそらくその両方が掛け合わされた結果なのだろう。
またコジュヒンのピアノは、ヴァイオリンの柔らかい歌をバランスよく穏やかに支え、時には突き上げるような力強さで合いの手を入れて、推進力のある演奏を助ける。
続くブラームスのヴァイオリン・ソナタ第2番では、ヤンセンが内に蓄えた感情を音に乗せた、ほがらかな表現がまず印象的だった。喜びを噛み締めてふるえるような終楽章の始まりのヴァイオリン、そこから歩調をそろえて進んでいくようなアンサンブルが展開し、静かな幸福感に包まれる。

そしてさらに鮮やかな印象を残したのが、後半のフランスもの。
プーランクのヴァイオリン・ソナタは、前半とは打ってかわって、鋭く、しかしぬくもりのある音を撃ち放すような音で幕を開ける。
やはりヤンセンは特別な音の持ち主だ。底に沈殿していた色が液体に少しずつ溶け出してゆくような不思議な感触の音が、耳から入って体全体をしびれさせる。岩影からひそやかに響くようなコジュヒンのピアノが印象的な場面もあった。完璧に息のあった二人によるフィナーレは、作品の美しさ、強烈さを十分に教えてくれた。
メシアンの「ヴァイオリンとピアノのための主題と変奏曲」は、天から降り注ぐ光を思わせるヴァイオリンと、その光に色彩の変化を加えていくようなピアノが、天上の音楽を創造する。

ラヴェルのヴァイオリン・ソナタでは、細かく震えるような音で聞き手の耳をそば立たせ、そこから展開するドラマティックな起伏で楽しませる。ジャズの香りが漂う場面では、二人がぴたりと息を合わせてスイングした。
ヤンセンのヴァイオリンは、高音でどんなにエモーショナルな表現をする場面でも絶対に音がヒステリックにならず、強くても耳にやわらかい感触が残されて、いつまでも触れていたくなる。体ごと楽器を響かせながら、作品の精神世界に迫ってゆくような表現の仕方は、20世紀に生み出された色彩豊かなフランス音楽の魅力を存分に際立たせた。心に迫ってくるその演奏に客席は総立ちになり、大喝采が起きた。

アンコールに応えて演奏されたのは、このウィーンの地に生まれ育ったクライスラーの作品から、「シンコペーション」。空間になじむ華やいだ響き、ごく自然な遊びと歌に、本当の音楽に触れた喜びで、嬉し涙があふれそうになった。

卓越したテクニックに加え、角がなくじんわりと染み渡るようでいて心に直接届いてくる唯一無二の音色を持つヤンセン。冒頭の一音目から最後のワンフレーズまで、ずっと心を掴まれっぱなしだった。音楽に没入した様子でありながら、しっかりとヤンセンの呼吸にあわせ、ときにはぐっと前に出てくるコジュヒンのピアノも見事。
きっとその身震いするほどの音は、ムジークフェライン・マジックだけが生み出したものではないはずで、紛れも無く、ヤンセンの持つ魔法のテクニックが創造した現象なのだろう。
日本のコンサートホールでその魔法を確かめる日が楽しみになった。

高坂はる香(音楽ライター)

ジャニーヌ・ヤンセン&デニス・コジュヒン


≪公演情報≫
9年ぶりのリサイタル公演!魂が響き合う奇跡のデュオ
ジャニーヌ・ヤンセン&デニス・コジュヒン デュオ・リサイタル
日時:2025年11月13日(木) 19:00
会場:東京オペラシティ コンサートホール
出演:ジャニーヌ・ヤンセン(ヴァイオリン)、デニス・コジュヒン(ピアノ)
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2163/


⇒ ジャニーヌ・ヤンセンのアーティストページはこちらから
https://www.japanarts.co.jp/artist/janinejansen/

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