2014/4/3

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プレトニョフの偉大な世界観を表す名演奏!

ミハイル・プレトニョフ(指揮&ピアノ)ロシア・ナショナル管弦楽団
3月29日モスクワ公演レポート/モーツァルトピアノ協奏曲24番

プレトニョフ

 ロストロポーヴィッチ記念フェスティバル第1日のミハイル・プレトニョフの弾き振りは名演奏であった。ソロとオーケストラが完全に一体化し、モーツァルトの「ピアノの延長としてのオーケストラ」の再現となり、ソロ部分の実音に指揮者のリードがエネルギッシュに込められ、いっそう明確な意志を聴く事ができる。1990年にプレトニョフの設立したRNOの奏者も、音楽作品の創造的再現に直面し、生成の本質に入り込んで、音響そのものを鮮明に実感し判断しながら表現していくという新しい経験がなされたはずである。配置は工夫され、舞台の左手にピアノを斜めに据え、プレトニョフを頂点に、孔雀の畳まれた尾羽のような扇形に舞台右隅まで2等辺三角形に奏者が並び、客席からは指揮を横から見る形で、自然と交響曲に一体化できる。

プレトニョフ

 プレトニョフの指揮により、静かな静かな出だしで協奏曲24番が立ち上がった。全盛期の作品で数少ない短調でありながら、プレトニョフの愛情に満ち深みのある音響の中で楽団は1つの生命体のごとく、その内部に息づく心臓部のような生きたリズムをプレトニョフは柔らかに発している。その恩寵のなかに冒頭の減7度の跳躍も悲愴感も、秘められ咀嚼されて生の営みに循環し、そこに自身のピアノソロを鮮やかに紡ぎだしていく奇跡。丸みのある、輝きを持った大きな珠玉の1音1音が、背景に際立った旋律線を形成し、流れを起し、トゥッティは完全に同調し溶け込んでいく。上に伸び行く管の音色は崇高で、まろやかにピアニストに調和して響き、オーケストラも一貫した色調でソロの内部に増幅する。そこには弦楽器の喧騒も木管金管の材質の差異もなく、感情の吐露に伴う悲愴感も過度には露わにせず、限りなく優しく暖かく、胎児の脈打つ生命のリズムを取り囲んでいるようである。プレトニョフのソロを生み出す指先から、空間に示すサインから、メロディがセクションを歌い繋いで呼応飛来する1体の生命体となるのである。広大な音空間で音の波を抑え、また上昇させ沈ませ、造形が彫琢され大きな対流を作り、観客との美的同一化がなされ、同じ1体の音楽的生命エネルギーと化していく。再び、マエストロの極限的な聴覚の神経中枢の世界へと惹き込まれていった。ソロ部分はヴィルトゥオーゾであると同時に楽団を動かすリズムを起し、中心核となってより生命力に満ちる。デモーニッシュな1,3楽章に挟まれた2楽章は静かな明るい安堵感に充たされ、魂の楽園か子守唄のように響き、終楽章の変奏曲もベートーヴェンの「運命」へと続く深い悲愴感を湛え、洗練されたRNOの音響で穏やかに纏め上げ、品格のある演奏であった。繰り返される悲愴感の疾走が、柔和な愛情の中に包まれ発光し、神経のもつれもミクロの流れに洗われ生成され力強く完結した。プレトニョフの偉大な世界観に浸ることができた。

中川 幹(モスクワ大学 准教授)

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ついに復活!ロシア・ピアニズムの巨匠
ミハイル・プレトニョフ リサイタル&コンチェルト

<<協奏曲の夕べ>>
2014年05月27日(火) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
<<リサイタル>>
2014年05月29日(木) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール

プレトニョフ
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