2013/8/28

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【トリノ王立歌劇場】パトリシア・ラセット ~ 世界最高の歌う女優

世界最高の“歌う女優” パトリシア・ラセット
トリノ王立歌劇場『トスカ』のタイトルロールで日本へ

トリノ王立歌劇場

パトリシア・ラセットの存在を初めて意識したのは、1995年の春、メトロポリタン・オペラの《ボエーム》で彼女のムゼッタを見た時だった。たまたまこれは、彼女のMETデビューでもあったのだが、そしてムゼッタはデビュー・ロールとして、大役すぎず、しかも観客のハートに残る、いわば得な役であるのだが、そういうことを割り引いても、彼女のムゼッタのインパクトは強かった。第2幕、あの忙しい超豪華ゼフィレッリのプロダクションにあって、大きな目を見開いて飛び込むように登場したラセットは、あっという間に舞台をさらってしまった。他の歌手もとても素敵な公演だったのだが、彼女は役者として共演者より一枚上手、という感じだった。

早くもその翌シーズンには、METでもミミに「昇格」した彼女。その後は、急速に世界各地のメジャー・ハウスで、リーディング・ソプラノとしての地位を確立していった。ヴェルディからプッチーニ、チャイコフスキーからヤナーチェク、ブリテンなど、リリック・ソプラノの諸役はほとんど手掛けてしまう彼女。彼女の魅力は何と言っても、中低音から高音まで全く危な気のない柔軟な声とともに、その鋭い演劇的感覚にあると思う。《ドン・カルロ》のエリザべッタの苦悩であっても、《ホフマン物語》アントニアの激しい渇望であっても、彼女の表現は、いつもダイレクトに訴えかけてくる。彼女にとっては、どんな役を歌う場合も、その表現が真実であることが何よりも大切なのだと思う。そんな彼女を主演に想定して作られた新作オペラも、少なくない。

2004年にヒューストンで《蝶々夫人》を成功させて以来、とりわけ彼女のプッチーニのヒロインには定評がある。METが数年前《トスカ》を新演出した際には、初日に大ブーイングが起きたが、その数ヶ月後に彼女が主演した際には、劇場は大ブラボーで包まれたものだ。《三部作》のヒロイン3役を一晩のうちに一人でMETで歌ったことのある歌手は、レナータ・スコットとテレサ・ストラータス以外には、ラセットしかいない。《外套》、《尼僧アンジェリカ》の入魂の演技は、いつもの彼女から予想できないでもなかった。しかし《ジャンニ・スキッキ》ラウレッタの可愛らしさ、コメディエンヌぶりはちょっと予想外の軽やかさであった。そのことを彼女に伝えたら、「ありがとう!」とラウレッタそのままの可愛らしさで応えてくれたものだ。

《トスカ》は今年、METのライブビューイングでも出演が予定されている。しかし、映像は映像でしかない。トリノとの来日公演は、彼女の充実した表現を、日本でライブで楽しむ絶好の機会となるだろう。

文:小林伸太郎(音楽ジャーナリスト)


≪トリノ王立歌劇場 2013年日本公演≫
トリノ王立歌劇場
<「仮面舞踏会」より>
 ⇒ 公演詳細:https://www.japanarts.co.jp/special/torino_2013/
 [公演日程] 会場:東京文化会館
 《仮面舞踏会》
 □12月1日(日) 15:00
 □12月4日(水) 18:30
 □12月7日(土) 15:00

 《トスカ》
 □11月29日(金) 18:30
 □12月2日(月) 15:00
 □12月5日(木) 18:30
 □12月8日(日) 15:00

 《特別コンサート“レクイエム”》
 □11月30日(土) 14:00 サントリーホール

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