2013/6/14

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ラファウ・ブレハッチ 電話インタビュー

ラファウ・ブレハッチ

― ブレハッチさん、今日はお話できてとても嬉しいです。2月の公演は残念ながら中止となりましたが、日本のファンはまたあなたにお会いすることを心待ちにしていました。
今年12月、日本の皆さまにお会いできることを本当に嬉しく思っています。2月に公演をキャンセルせざるを得なかったときは、皆さんにご心配をおかけしましたし、私自身、残念で心が痛みました。でもあと7ヶ月すれば、日本に行くことができるのです。万全な準備をして秋のヨーロッパツアーをスタートし、それに続く日本公演に臨みたいと思います。
皆さまと日本でお会いできる日を、心待ちにしています。

― 今回の選曲について、聴きどころなどをお聞かせください。
今回のリサイタルでは、後半をすべてショパン作品にしました。今までもショパンは私に近い作曲家でしたが、より密にショパンに焦点をあてて取り組んでみたいと思ったからです。2つのポロネーズは新譜のためにレコーディングを終えましたが、3つのマズルカとともに私の最近のレパートリーです。どちらも私の国ポーランドの伝統的な舞踊音楽ですから、リズムなど独特の味わい、ポーランドの香りを十分に聴いていただきたいです。
そしてリサイタルの冒頭に演奏するモーツァルトのソナタ第9番は、この秋にコンセルトヘボウやマドリッドなどで演奏する予定です。十分に練りこんで、研ぎ澄ましていきますので、日本でも弾きたいと思ったのです。古典派のソナタ様式の作品は2008年のリサイタルツアーでも演奏していますが、その時から私の演奏も変化してきたと思います。多くの演奏経験を経て、音創りにも入念な試みをたくさんしてきましたから。ですからこの作品については、私の方から皆さんに「どのように感じられましたか?」と聞いてみたいです(笑)!
また、ベートーヴェンのソナタ第7番は大好きな作品です。初期の作品ですが、第1楽章は活力に溢れており、テンポも速く、音の動きに明快なコントラストがあります。私が特に好きなのが第2楽章です。そこには、深く、深く、ミステリアスな空気が流れています。厳かな音です。最近、ヨーロッパとアメリカのリサイタルでこのソナタをよく弾くのですが、ますます好きになりました。第3楽章のメヌエットもエレガントで可憐です。最終楽章は難しいですね・・・。でも日々取り組んで、自分なりの構成感、ベートーヴェンの世界観を聴いていただきたいと思います。とにかく、この作品は大好きな曲ですから!

ラファウ・ブレハッチ

― ブレハッチさんは沢山のレパートリーをお持ですが、リサイタルやコンサートツアーを行うにあたっての選曲はどのような考えに基づかれていますか? 観客のリクエストあるいはご自分の希望でしょうか?
最初に客席のみなさんのことを考えます。何を期待していらっしゃるか、ということです。この11月には、オランダとスペインで少し力を入れてシマノフスキの作品を紹介したいと考えました。それらの土地に前回行ったときに、まだ紹介が十分ではなかったと心残りだったからです。日本では、シマノフスキ・ヴァリエーション 作品3 を演奏しています。あれは、2009年だったと記憶していますが。モーツァルトのピアノ・ソナタ変ロ長調と、ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ 作品2とを、弾いた時です。後半では、ショパンのマズルカとポロネーズ、そしてシマノフスキ・ヴァリエーション 作品3でした。ですので、今回の日本ツアーでは、絶対にショパンを増やすべきだ、と思っていたのです。私の日本のファンの皆さんは、本当にショパンの音楽が大好きですので、何かショパンの曲をプレゼントとして贈りたい、そんなふうに思ったのです。前半のモーツァルトとベートーヴェンのピアノ・ソナタは、ヨーロッパでも演奏するプログラムに重なるのですが、日本でも演奏できることが嬉しいです。これらのピアノ・ソナタは、まだ日本で弾いておりませんので。

― ブレハッチさんといいますと、どうしても私たちは「ショパン・コンクールの覇者」としてお名前を思い出してしまいます。とくに決勝の時のあの音色のすばらしさ。澄んだ音、と評価されますが、ブレハッチさんご自身は、この評価を正しいと思われますか?
澄んだ音は、ピアノ曲全般において重要ですし、古典派楽曲の場合には特にそうです、例えばモーツァルト、ハイドンの曲などですね。バッハの場合も同様です。ショパンの曲に澄んだ音が求められるのはなぜでしょうか。ショパンはモーツァルトの音楽から多大な影響を受けています。彼は、モーツァルトのオペラはもちろん、他の作品も大好きだったのです。また、バッハの曲も好んでよく自分で弾いていたといいます。そのような経緯から、ショパンの曲を演奏する場合の重要なファクターとして、澄んだ音、というのが定番になったのでしょうね。しかし、ショパンの演奏に限ったわけではなく、ピアノを弾く場合にはきれいな音を志すこと、ピアノそのものをちゃんと調律すること、これは必須です。私もリサイタルの準備の段階で、澄んだ音を生み出す条件には非常に気を使います。調律師のかたと綿密に相談もします。イントネーションが自分の求める通りになるかどうかの確認もします。演奏する曲によって調律の要求も変わりますし、また、コンサートホールの音響の条件もそれぞれ違いますから、調律師の方の仕事は大事です。彼らのおかげで、私たち演奏者は、望み通りの音の抑揚も出せるのですし、想像通りの「澄んだ音」を出すことも可能になります。

― いずれにしてもあのような澄んだ音色は、なかなか出せるものではないと思うのですが、例えば、スポーツの選手が最高の身体のパフォーマンスを維持するため日々トレーニングを欠かさないように、ピアニストであるブレハッチさんも、何か音を保つために日々気をつけているようなことはあるのでしょうか。
テクニックのエクササイズは必要不可欠です。すべての基本です。例えば、ショパン・コンクールに出場した時のことをお話ししますが、正しいアーティキュレーションを保つために、念入りな基礎練習をしました。演奏予定の曲の中の、早いパッセージの箇所などです。その同じ箇所を、いろいろな方法-例えば、幾通りかのスローなテンポで弾いてみたり、また、スタッカートをつけてみたり、アーティキュレーションを変えてみたり-そのようなエクササイズを経て、きれいな音、というのは実現します。本来あるべき質の音になります。

― コンクールでの優勝後、お仕事をある程度選び、よいものに絞っている印象を受けるとはいえ、やはり相当なスケジュールをこなしていらっしゃいますね。オファーを承諾する場合の基準は何ですか?
2005年のコンクールの直後には、自分には新しいレパートリーを用意するための時間が絶対に必要だと感じました。コンサートやグラモフォンでのレコーディングが控えていたからです。そのため、直後はコンサート活動を少なめにしました。私のような若い演奏家にとって、何が真に大事な仕事かという判断は難しいものです。コンクールの直後は正直戸惑いました…。まだ経験があまりなかったからです。しかし、ドイツではシュミット・エージェンシー、日本ではジャパン・アーツのような優れた音楽事務所に出会いました。そのような方々の力添えが、私にはとても重要なのです。
アーティスト本人と、支えてくださる周囲の方々との関係は、とても大事だと思います。そしてそれは、アーティストと聴衆の皆さまとの関係においても同様です。聴衆の方々とよいコンタクトを持てれば、そこにはお互いのエネルギーの交換が可能になるのです。

― これから12月の日本ツアーまでの間は、どのようなコンサートを予定なさっていますか?
5月末からマエストロ・ハーディング指揮マーラー・チェンバー・オーケストラとヨーロッパ公演を行ないます。オーケストラとも、マエストロとも、初共演になります。シューマンのピアノ協奏曲を、大好きなドイツの町、ドルトムント、エッセン、ケルンで演奏できるのが嬉しいですね。ツアーの締めくくりがスイスのチューリヒです。さらにもう一つ、大好きなアムステルダムのコンセルトヘボウで、11月10日にリサイタルを行なえることも楽しみです。

― ブレハッチさんは、大変読書家であり勉強家でもいらっしゃいますが、最近お読みになった本で印象に残っているものがあれば教えてください。
音楽に関連する哲学書を続けて読んでいるところです。私にとって主軸になる勉強です。最近興味を持っているのは、ヴラディスラフ・タタキェヴィチというポーランドの哲学者の著書です。本のタイトルは「美的表現を介する方法 Way Through The Aesthetic」というものです。この本はおもに詩学や絵画に関するもので、音楽についてはあまり記述がないのですが、私の研究にはとても参考になります。最近、短いですが記事を執筆しまして、それが哲学専門の新聞に掲載されることになりました。音楽活動の理論に関して、つまり、演奏解釈について書いたのです。この記事の時点では、私の主題は別のポーランドの哲学者、ローマン・インガルデンの理論についてでした。タタキェヴィッチの理論とは少し異なります。権威ある文芸新聞ですので、まもなく自分の書いたものが掲載されると思うと光栄です。音楽専門誌ではなくて、歴史や哲学全般にかかわる紙面です。

― それは素晴らしいですね。
それでは最後の質問です。さまざまな作曲家の作品に精力的に取り組んでおられますが、近い将来、つまり、今後数年、という見通しで、ブレハッチさんがいちばん挑戦したい作曲家はだれでしょうか?
心が動いているのはブラームスです。もちろん弾いてみてはいます。でもまだ、お客様を前に演奏したことがないのです。近い将来に、ブラームスの楽曲の中から何かを選び準備をするつもりです。
そしてもう一つ、ここしばらく、私は、室内楽への興味が少し強くなっています。6月20日には、ベルリン・フィルハーモニー(ホール)で、ベルリン・フィルのコンサートマスターであるダニエル・スタブラヴァさんと、シマノフスキのヴァイオリン・ソナタ第一番と、モーツァルトのピアノ・ソナタ・ヘ長調を演奏いたします。これは、室内楽の本格的な演奏会としては、私には初めての挑戦になります。

― 今日は、たくさんの貴重な情報をいただくことができました。感謝申し上げます。どうぞ12月までの期間、順調にお仕事を続けられますよう。来日を私ども一同、心からお待ちしております。
私も楽しみにしています。みなさん、12月にお会いしましょう!

聞き手:高橋美佐(2013年5月)


ラファウ・ブレハッチ ピアノ・リサイタル
2013年12月14日(土) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第9番 二長調 K.311
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第7番 二長調 Op.10-3
– – – – – – – – – – – – – –
ショパン:夜想曲 第10番 変イ長調 Op.32-2
ショパン:ポロネーズ 第3番 イ長調 「軍隊」/第4番 ハ短調
ショパン:3つのマズルカ Op.63
ショパン:スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 Op.39
公演の詳細はこちらから

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